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あのムバッペをも凌駕する逸材、カマビンガとは何者か? 「すごい」と「巧い」を堪能できる16歳の神童

2019/20シーズンのリーグ1もすでに第3節を終了している。そんな同リーグにおいて現在、全勝で首位に立つのはパリ・サンジェルマン…ではなくレンヌだ。赤黒軍団は第2節で難敵・PSGを破るなど上々のスタートダッシュを切っており、その活躍には大きな注目が集まっている。そのチームの中で、ひと際存在感を放つのは16歳のエドゥアルド・カマビンガである。数多くのビッグクラブが熱い視線を注ぐMFとは一体、何者なのか。(文:小川由紀子)

シリーズ:○○とは何者か? text by 小川由紀子 photo by Getty Images

驚異の16歳、カマビンガとは?

エドゥアルド・カマビンガ
レンヌに現れた16歳の神童、エドゥアルド・カマビンガ【写真:Getty Images】

 第3節を終了したリーグ1で、いま話題をさらっているのは、キリアン・ムバッペ…ではなく、ムバッペよりもさらに若い、レンヌ所属の16歳の超新星、エドゥアルド・カマビンガだ。

 今シーズンの幕をあけたパリ・サンジェルマン(PSG)とのスーパーカップ(PSGが2-1で勝利)で先発フル出場したのを皮切りに、開幕戦のモンペリエ戦から3戦連続でフル出場。早くも不動のレギュラーになりつつある。

 プロフィールによれば、カマビンガはアンゴラで生まれ、両親とともにフランスに移住。地元クラブでプレーしていたところを、レンヌのスカウトマンの目に止まった。昨年12月、16歳になって間もなくプロ契約を結ぶと、第31節のアンジェ戦の終盤に出場、プロフットボーラーとしての一歩を踏み出した。

 彼のポジションはMF。相手からボールを奪取して攻撃展開するボックス・トゥ・ボックス・プレーヤーだ。地元クラブ時代の監督の話では、「今日はこのまま結果を維持したいな、という試合では守備をやってもらい、点を獲りたい、というときにはアタッカーとしてプレーしてもらったが、彼はそういった状況に合わせて臨機応変にプレーできるタイプの選手」だという。

 頭が良くて器用そうだな、というのは、ピッチでの彼のプレーを見ていても感じる。ボールを持って疾走する彼を、両サイドから相手プレーヤーがはさみに来ると、ふっと一瞬、アクセルを戻す。すると相手選手はとっさに勢いをコントロールできず、体が前のめりになっている隙に、ひらりと翻して別方向へドリブルで切り返す、あるいはフリーの味方をみつけて瞬時にパスを出す。

 フィジカル的にはライトウェイトだが、16歳ということは、まだこれから体も肉厚になってくるだろう。ただ、今はその軽やかさを利用して、体が出来上がったプレーヤーがついていけないような動きで相手を翻弄している。

 それでいて恐ろしいほど冷静で、周りをよく見ている(これはフランス人には稀な習性である)から、視野も良い。第2節のPSG戦では、ゴール前の好位置にロマン・デル・カスティーリョがいるのを見てとると、右サイドからピンポイントのロングクロスを送って決勝点をアシストした。

チームメイト、指揮官も称賛するその能力

ジュリアン・ステファン
レンヌを率いるステファン・ジュリアン監督もカマビンガを絶賛している【写真:Getty Images】

「ボール奪取がうまく、前まで運べて、パスの精度も高い」となれば、どこのクラブとて中盤に一人欲しいタイプの選手。線も細いし荒削りな部分もあるが、試合を見ていると気づいたら彼を目で追っていた、というような、なんとも異彩を放つプレーヤーだ。

 チームメイトで、自身もリヨンでは「神童」と言われていた現在28歳のクレマン・グルニエはカマビンガについて、「昨シーズン、彼がファーストチームの練習に参加するようになったときは、すごいな、コイツ! こんなことができるのか! とびっくりしたよ。彼はとにかく、人の意見をよく聞くんだ。これからすごい選手に成長していくだけの素質はすべて備えていると思う」と話していた。

「周囲の意見に常に耳を傾ける」というのは、グルニエ以外の選手や、ジュリアン・ステファン監督も評価している、カマビンガの取り柄のひとつであるようだ。

 そのステファン監督は、昨シーズンの12月に監督に就任する以前は、ユースチームのコーチを務めていたから、カマビンガの成長をもっとも身近で見続けていた人物。指揮官となってすぐにプロ契約を結んだのも、十分リーグ1でやっていけるという確信があってのことだ。

「まだ16歳だけにプロテクションは必要だが、同時に、これだけの逸材を使わない手はない」と愛弟子の成長を見守っている。

すでに数多くのビッグクラブも注目

 U17の大会で大活躍して、将来を期待されながら、知らないうちに消えてしまっていた、という選手は数多い。以前育成担当者に聞いたところでは、体の組織が大きく変わる17歳前後は鬼門と言われていて、ここで体の成長具合とともにプレーが別人のようにキレを失う選手というのは決してめずらしくないらしい。

 …ので、あまり大騒ぎするのも良くないが、ポジション的にも「うーん、いまのは巧い!」というのを堪能できる、とても面白いタイプの選手なので、快男児ムバッペに続く逸材として、今季の楽しみにしたいところだ。

 ちなみに彼は、同じくレンヌから巣立ったウスマンヌ・デンベレの後継者、と言われている。ポジションは違うが、若くして頭角を現した成長具合が共通している。偶然にも、2人ともプロ入り後のデビュー戦はアンジェ戦だった。

 さっそくPSGも狙っているようだが、レンヌはしっかり2022年まで契約を延長した。『transfermarkt.com』での現在の評価額は400万ユーロだが、まだまだ何倍にも跳ね上がるだろうから、焦って手放すことはない。第一、レンヌの会長オリビエ・レトンは、元PSGのスポーツ・ダイレクターで、不振の責任を負わされて首になっている。ので、古巣にあまり良い思い出はないはず。

 レアルやバルサ、アーセナル、マンチェスター・シティなど、数々のビッグクラブも熱い視線を注いでいるらしいので、今後メルカートのたびに彼の名前はメディアを賑わせることだろう。

 そしてレンヌは、昨シーズンのフランスカップ決勝戦に続き、今シーズンもPSGを破り、『PSGマイスター』の称号を頂いている。開幕3連勝で現在首位。38歳とリーグ最年少のステファン監督、そして、ムバッペを凌駕するワンダーキッド、カマビンガ、さらにはガッツあふれるメンバーたちが揃った赤黒軍団レンヌの今シーズンに期待だ。

(文:小川由紀子)

【了】

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