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リバプールはヘビメタ戦法に耐えられるか? 補強費わずか2億円で優勝するためには…【粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断(1)】

2019/20シーズンは、夏の移籍市場が終了した。この夏も各チームで様々な移籍があったが、それぞれ主要クラブの動きはどうだったのだろうか。今回はプレミアリーグでおなじみの粕谷秀樹氏がリバプールの補強を読み解く。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

前線の層には首を傾げてしまう

ユルゲン・クロップ
リバプールを率いるユルゲン・クロップ【写真:Getty Images】

【補強診断】やや不安。再検査の必要はなし
【疑問点】前線の選手層
【キープレーヤー】フィルミーノ
【ノルマ】プレミアリーグ優勝

 リヴァプールのユルゲン・クロップ監督はこう言った。

「移籍市場に毎年ビッグマネーを投入し、ビッグネームを何人も獲得するプランはチーム創りにおいて、なおかつ経営的にもナンセンスだ」

 その言葉を裏づけるように、今夏のリヴァプールは静かだった。いや、静かすぎるほどだった。アリソンやファビーニョなどの補強に約228億円を投じた昨夏と異なり、市場投下額はたったの2億円。しかもゼップ・ファンデンベルフとハーヴェイ・エリオットは先行投資であり、グルブ・ブリュッヘに去った第二GKシモン・ミニョレの後釜となったアドリアンはフリートランスファーだ。

 マネーゲームを完全に避け、主力の維持を主眼に置くと幹部会議で決定していたため、リヴァプールが微調整で夏を終えることは当初から予想されていた。

 それにしても、無名の新人2名と可もなく不可もないGKだけで事足りるのだろうか。ありとあらゆるタイプを7名も擁する中盤、基本的にふたりずつを揃える最終ラインはともかく、〈Fabulous3〉が凄すぎるとはいえ、前線の層には少しだけ首を傾げてしまう。

 ディボク・オリギはクロップ監督が才能を絶賛し、昨シーズンのマージ―サイド・ダービーやチャンピオンズリーグでも貴重なゴールを決める〈なにか持っている男〉だが、継続性の不足は否めない。アカデミー出身のライアン・ブリュスターは未知数で、シェルダン・シャキリはエージェントを通じ、来年1月の移籍を示唆もしている。

ハードスケジュールにハードワーク。選手は耐えられるか

リバプール
リバプールの強さを支える強力3トップのコンディションは気になるところだ【写真:Getty Images】

 ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーの代役はこの世に存在しない。クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)やリオネル・メッシ(バルセロナ)でさえ、現在のリヴァプールには不要だ。

 しかし、フィルミーノはコパ・アメリカを、マネとサラーはアフリカカップを闘った後、ほんの少し休んだだけでリヴァプールに再合流している。マネの夏休みはわずか2週間だったという。

 驚くべきタフネスだが、このハードスケジュールをこなし、さらにクロップ監督のヘヴィメタル・フットボールに貢献していれば、いつか必ず疲弊する。リヴァプールは非常時の策を整えているのだろうか。冬にはクラブワールドカップも開催される。

 冒頭に挙げたクロップ監督のコメントは全面的に支持するものの、長いシーズンを闘い抜くためには、前線の即戦力が、Fab3の負担を軽減できる者が、せめて一枚欲しかった。

 前線の選手層に小さくない不安を抱えるとはいえ、リヴァプールがマンチェスター・シティと並ぶ優勝候補であることは、衆目の一致するところだ。トッテナムはマウリシオ・ポチェッティーノ監督が二強との差を認めており、アーセナルは3節のリヴァプール戦で質の違いを改めて痛感した。

 また、マンチェスター・ユナイテッドは暗中模索が永遠に続きそうな気配すらあり、チェルシーは近来稀に見る過渡期だ。

 したがってリヴァプールは取りこぼさず……いやいや、下位相手にも星を落とさないのがクロップ監督のチームだ。昨シーズンも無念のロスポイントは、レスター、ウェストハム、エヴァートン戦の引分け三つ。ひとつでも勝って1勝2分であれば優勝できていただけに、悔いが残る。

ノルマは悲願のプレミアリーグ優勝

 なかでもウェストハム戦だ。コンディションがどん底で、リヴァプールらしいラッシュ→ボール奪取→カウンター炸裂は、ほとんど見られなかった。

 やはり、カギはコンディショニングだ。ヘヴィメタル──をこなすうえではローテーションがポイントだ。すでにクロップ監督はFab3の体調に気を遣い、先発から外したり、途中交代を命じたりしている。

 中盤はジョルジニオ・ワイナルドゥムこそ開幕4戦フル出場だが、そのほかふたりはローテーションしている。ただ、複数の組合せが可能な中盤と異なり、前線はいい意味でも悪い意味でもワンパターンだ。

 くどいようだが人がいない。昨シーズンのウェストハム戦(前出)が証明したように、攻守のスイッチとなるフィルミーノになんらかのアクシデントが生じると、さしものリヴァプールも苦戦は免れないだろう。

 今シーズンのノルマはプレミアリーグ優勝だ。なにしろ、イングランド1部リーグから名称が変わって27年、ただの一度もテッペンに立っていない。ユナイテッドが13回、シティは11/12シーズン以降の7シーズンで4回、チェルシーが5回、アーセナルも3回、さらにレスターとブラックバーン(現チャンピオンシップ=実質2部)でさえ一度ずつ優勝しているにもかかわらず、リヴァプールはゼロだ。恥ずかしい。

時代遅れのOBは気にするな

 ジョン・W・オーナーも「サポーターのみなさんがプレミアリーグ優勝を望んでいらっしゃることは十分に承知しています」と語り、今シーズンのターゲットを明らかにしている。

 もちろん、強力すぎるライバルのシティも「08/09シーズンのユナイテッド以来となる3連覇」を意識しているが、彼らの主眼は悲願のヨーロッパ制覇に違いない。主力をチャンピオンズリーグに投入し、対戦相手にもよるがプレミアリーグはローテーションすることも考えられる。

 ここに落とし穴がある。代えの利かない主力が高齢化しているシティに対し、リヴァプールは20代が大半だ。この、ジェネレーションの違いも、勝負を分ける重要なポイントだ

 だからこそクロップはやり繰りしなければならない。若いといっても体力には限界がある。各選手のコンディションに気を配り、ときには主力をベンチから外す勇気も必要だ。時代後れのOBに批判されても、国内のカップ戦は若手のテスト、負傷明けの選手の調整に位置付ける。プレミアリーグ優勝のためには、優先度の低いタイトルは捨ててもいい。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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