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チェルシーは愚策すぎる監督人事を反省せよ。早期解任に抱く疑問、真のビッグクラブになるためには?【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

ワトフォードは7日、昨年の1月より指揮を執っていたハビ・グラシア監督の解任を発表した。開幕からの成績は1分3敗。このタイミングでの解任は果たして適切だったのだろうか。監督人事と言えばチェルシーも派手なものだが、真のビッグクラブになるためには辛抱強さも必要である。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

グラシア監督の解任は適切だったのか?

ハビ・グラシア
ワトフォードの監督を解任されたハビ・グラシア【写真:Getty Images】

 早すぎるのか、遅すぎるのか、あるいは最良のタイミングなのか。意見は分かれているに違いない。

 9月7日、ワトフォードはハビ・グラシア監督を解任した。開幕から1分3敗。ブライトン、エバートン、ウェストハムに敗れ、ニューカッスルとは引き分けた。オーナーのポッツォ・グループには想定外だったのだろう。エバートン戦終了後、大黒柱のトロイ・ディーニーが左ひざを負傷。全治3~4か月とされるダメージも考慮せず、グラシアをバッサリ切った。

 ポッツォ・グループはそもそも気が短い。2012年6月にワトフォードを買収した後、監督の首を次々に挿げ替えている。ジャンフランコ・ゾラ、ジュゼッペ・サンニーノ、オスカル・ガルシア、ビリー・マッキンリー、スラビジャ・ヨカノビッチ、キケ・サンチェス・フローレス、ワルテル・マッツァーリ、マルコ・シウバ……そしてグラシア解任後は、キケ・フローレスを呼び戻した。7年で10人とは、異例すぎるスピード人事だ。監督が代われば異なるゲームプランが用いられるのだから、選手たちはさぞ混乱したに違いない。

 さて、グラシア解任のタイミングは適切だったのだろうか。1分3敗で「はい、さようなら」は、いくらなんでも早すぎる。しかし、昨シーズン終盤のデータを踏まえていたとすると、やむをない解任だ。28節、リバプールに0-5の惨敗を喫すると、その後10試合は2勝2分6敗。37節はアウェイでチェルシーに0-3、最終節はホームでウェストハムに1-4。FAカップで決勝に進出したとはいえ、プレミアリーグの締め方は最悪だった。

 したがってポッツォ・グループは、昨シーズン28節から今シーズン4節までを2勝3分9敗と計算し、今回の決断に至ったのだろう。この夏の補強費は3240万ポンド(約42億円)である。経営側は即答を期待していた。

チェルシーの愚策すぎる監督人事

「ここチェルシーにやって来て6年が経つけれど、もう5人目の監督だよ」

 ウィリアンのコメントだ。彼の言葉を借りるまでもなく、チェルシーも監督を大切にしていない。2002年、西ロンドンのクラブを買収したオーナーのロマン・アブラモヴィッチは、17年で20人もの監督を起用している。結果が出なければ有無を言わさず、カルロ・アンチェロッティ(現ナポリ監督)のようにタイトルを獲っても、守備的すぎるとの理由で解雇の憂き目に遭った者もいる。オーナーとはいえ、権力の濫用といって差し支えない。

 ここでもう一度、ウィリアンの言葉に耳を傾けてみよう。

「フランク・ランパード監督は、チェルシーの歴史にその名を残す偉大なMFだった。サポーターとの関係も良好で、お互いがお互いをリスペクトしているね。僕はランパード監督に再建を託すべきだと思う。少し時間がかかったとしても、サポーターも僕たち選手もランパード監督ならついていける」

 的を射た発言だ。アブラモヴィッチ体制下のチェルシーはつねに性急で、監督は毎シーズンのように大成功を求められてきた。ロシア人オーナーが買収した直後はマンチェスター・ユナイテッドとアーセナル、リバプールを警戒してさえいればなんとかなったが、近年はマンチェスター・シティとトッテナムが台頭し、6チームのうちふたつがチャンピオンズリーグ(CL)の出場権を失う。競争力は世界一で、監督のストレスも尋常ではない。

 こうした状況下では、毎シーズンのように好結果を得られるはずがない。ユルゲン・クロップ監督(リバプール)の一年目は8位、ジョゼップ・グアルディオラ監督(シティ)は3位に食い込んだものの、首位チェルシーには15ポイントもの大差をつけられている。

 さらにトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督も、チャンピオンズリーグの出場権を得るまでに2年かかった。アブラモヴィッチと彼の取り巻きは近年のデータを精査し、この17年の監督人事がいかに愚策だったかを反省する必要がある。

組織のトップに立つ者には辛抱も必要

ロマン・アブラモヴィッチ
ロマン・アブラモヴィッチ氏【写真:Getty Images】

 5節終了時点で2勝2分1敗はまずまずだ。むしろ総得点11の内訳を前向きにとらえよう。タミー・エイブラハム7点、メイソン・マウント3点、フィカヨ・トモリ1点。3人とも下部組織出身であり、現役当時のランパードに胸をときめかせていた。〈チェルシーの、チェルシーによる、チェルシーのためのフットボール〉。本来あるべき姿をようやく見つけ出そうとしている。

 グラシア解任後のワトフォードは、5節のアーセナル戦で0-2から追いついた。ポッツォ・グループは過去の人事を反省せず、監督さえ代えれば当座はしのげるとほくそ笑んだに違いない。

 ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督は、就任直後の公式戦8勝2分無敗がフロックにすら思えてきた。その後は今シーズン5節まで4勝2分9敗。史上最悪といわれたデイビッド・モイーズでさえ、15戦で5つも負け越してはいない。オーナーのグレイザー・ファミリーの信頼を得られず、浮沈のカギを握るポール・ポグバには軽く見られている印象があるため、今後の成績しだいではクビが飛ぶ。同じレジェンドであっても、スールシャールとランパードでは立ち位置が違うということか。

 ちなみにイギリスの『sky sports』は、スールシャールが解雇される倍率を7倍に設定した。スティーブ・ブルース(ニューカッスル)の5倍に次ぐ危険度である。

 ただ、ボーンマスのエディ・ハウ、バーンリーのショーン・ダイシ両監督は、ともに8シーズン目を迎えた。両クラブの上層部は負けが込んでも妙なプレッシャーをかけず、現場を温かく見守ってきた。

 その結果、ボーンマスはボールを捨てないフットボールで一定の地位を築き、バーンリーのブレイブハートはビッグ6が手を焼くほどだ。また、ポチェッティーノは6年目、クロップは5年目、グアルディオラも4年目に入った。名監督であっても、チーム創りにはある程度の時間を要するデータは確かに出ている。

「数十億もつぎ込んでいるのだからすぐに強くしやがれ」というオーナー側の考え方も分からないではないが、何事も一朝一夕にして成し遂げられるはずがない。組織のトップに立つ者には辛抱も必要だ。次節、チェルシーはホームにリバプールを迎える。アブラモヴィッチはこの一戦だけではなく、2~3年先を見据えたチーム創りに努めるべきだ。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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