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パリ・サンジェルマンの戦術、選手起用法は? 気を抜かなければ強い、失敗の昨季からどう変わったのか【序盤戦レポート(11)】

2019/20シーズンは序盤戦を終えた。補強が成功して首位争いを演じるチームもあれば、低迷して監督交代を余儀なくされたチームもある。各クラブのこれまでの戦いを振り返りつつ、見えてきた戦い方と課題を考察していく。第11回はパリ・サンジェルマン。(文:小川由紀子【フランス】)

シリーズ:序盤戦レポート text by 編集部 photo by Getty Images

充実補強により広がるオプション

パリ・サンジェルマン
パリ・サンジェルマン【写真:Getty Images】

 トーマス・トゥヘル監督のもとで2年目を迎えたパリ・サンジェルマン(PSG)。昨シーズンは、リーグ優勝はものにしたが、フランス杯、リーグ杯のカップ戦を逃し、チャンピオンズリーグ(CL)でも、ラウンド16でマンチェスター・ユナイテッドにまさかの逆転負けを喫し、ドイツ人監督は『失敗シーズン』の烙印を押されてしまった。

 オフシーズンは、ネイマールのバルセロナ復帰騒動でてんやわんや。そんな先が思いやられるプレシーズンではあったが、新戦力の補強は充実。2節でいきなりレンヌに敗れたが、すぐに首位の座に返り咲き、今季も国内タイトルはほぼ間違いない王者感をかもし出している。

 さて、その補強だが、レアル・マドリーから第1GKに迎えたケイラー・ナバスが、バックラインに安定感をもたらしている。CLでは、古巣相手にファインセーブを連発したナバス。しかしそうしたヒリついたゲームだけでなく、気を抜いた隙を突かれたカウンター攻撃を的確に防御するといった堅実なプレーが実に頼もしい。おかげで入団以降12試合でクリーンシート9回。彼の座右の銘は「毎日がゼロからのスタート」であるらしいが、調子に乗るタイプでないところが、自信過剰になりがちなこのチームにふさわしい守護神だといえる。

 MFイドリッサ・ゲイェは、リール時代にも見せていた俊敏さにプレミアリーグ仕込みのテンポ感が加わり、よりパワーアップしてリーグ1に戻ってきた。ボールホルダーを狙ってはボールを奪い取るのが彼の仕事だが、奪った後の展開までを器用にこなすタイプではない。しかしチアゴ・シウバ、マルコ・ヴェラッティ、マルキーニョス、アンヘル・ディ・マリアら“巧い”仲間が周りに控えているから問題ない。

 セビージャから来た攻撃的MFパブロ・サラビアは逆にものすごく器用なタイプで、どんな展開の中でもスルッと絡んで潤滑油になれる。その分、インパクトにはやや欠けるが、チームにとっては貴重な存在だ。

 そしてゴールエリア内を仕事場とするフィニッシャー、マウロ・イカルディ。決定力も高いが、常に攻め気が旺盛な“前がかり感”が、オフェンスの威力を倍増させている。

 ドルトムントから獲得したフランス人DFアブドゥ・ディアロも安定している。マンチェスター・ユナイテッドから来たMFアンデル・エレーラは怪我が重なり、まだ即戦力にはなれていないが、この夏の補強により、トゥヘル監督にとっては、システムを考えるのが悩ましいくらい、今シーズンはオプションが広がった。

基本システムは?

 システムで言えば、たとえばCLでは、グループリーグ最終節のガラタサライ戦以外は、4-3-3を採用し、中盤は、マルキーニョス+ヴェラッティに、エレーラ、ゲイェらを組ませた。その場合の3トップは、イカルディを真ん中に、左右にディ・マリアとキリアン・ムバッペ、ムバッペとネイマール、ムバッペとサラビア、といった布陣だ。

 攻撃的プレーヤーを4人使いたいときは、マルキーニョスとヴェラッティ、あるいはローテーションのプレーヤーをボランチに据えて、両サイドにディ・マリアとネイマール、真ん中にイカルディとムバッペ、という超攻撃的なシステムを送り出す。

 しかしいずれの場合も、現チーム最強のホットラインはマルキーニョス+ヴェラッティだ。アジリティが高いマルキーニョスと、抜群の視野とパスセンスを誇るヴェラッティが織りなすコンビプレーから、PSGの効果的なビルドアップは生まれる。

 その先は、相変わらず好不調の波はあるものの、芸術的なアシストで魅せるディ・マリアであってもいいし、直接ムバッペに渡して最短3パスでゴールを打ち抜くこともある。

 残留が決まったと思ったら負傷して欠場が続いたネイマールも、復帰後はコンスタントにゴールやアシストで結果を出している。至近距離からプレスをかける、人数をかけて囲いこむ、といった常套手段は、リーグ1のレベルではネイマールには通用しないようで、いくら追い込んでもひらりとかわされ、密集地帯にするりとパスを通されてしまう。ネイマールがいるのといないのでは、前線で生まれるシュートチャンスの数は断然違う。

「バルセロナに帰りたい」発言で怒り心頭だったサポーターも、彼がいかにチームのレベルを向上させるかをまざまざと見せつけられて、すっかりバッシングの声を潜めている。ムバッペとの相性も良く、ネイマールとプレーするときのムバッペは、一層生き生きとして見える。

 ムバッペは、モナコ時代は、育成時代も含め、2年続けて同じポジションをやらず、前線ならどこでもプレーできるよう育てられたと前に話していたが、流動的なPSGの攻撃ラインで、彼はどこからでもゴールを狙ってくる。

 2018年夏にワールドカップ優勝したあとは、目に見えて自信もアップし、「俺に決められないゴールはない」というオーラが全身から溢れ出ている。そして実際に、決勝点になるような、試合の結果を左右する得点を数多くものにしている。

 ここがエディンソン・カバーニとの違いだ。献身的なカバーニはサポーターからも絶大な人気を得ているが、ゴール数のわりに、先制点や決勝点といった試合を左右する得点は意外と多くない。そこが、「彼がエースでは、チャンピオンズリーグでは先には進めない」とフロントが判断し、ほかのフォワードを求めるにいたった所以でもある。

 序盤戦は大腿部やふくらはぎの怪我で欠場していたこともあり、いまはイカルディの交代要員だ。「冬のメルカートで離脱」の噂も、日に日に信憑性を増している。

CLでは念願のベスト4入りなるか

 ともあれ今シーズンのPSGも、国内リーグでの強さは段違いだ。開幕後14連勝という、欧州トップリーグの歴代新記録を作った昨年に比べると、レンヌ、スタッド・ランス、ディジョンに敗れてすでに3敗しているが、戦力でいうなら、フォワードの得点力の高さだけでも勝ちを奪えるレベル。本人たちが気を抜かない限り(そういう試合もあるから、最下位のディジョンに1-2で敗れているのだが…)今季も優勝は間違いない。

 CLでは、レアル・マドリー、クラブ・ブルージュ、ガラタサライと対戦したグループリーグを、5勝1分けの無敗で首位抜けした。決勝トーナメント初戦はトゥヘル監督の古巣ドルトムントと対戦することになり、また話題を呼びそうだ。

 マドリードでのレアル戦では80分過ぎまでゴールを奪えず、ホームでのクラブ・ブルージュ戦でも、相手にうまい具合に封じ込められて1-0の辛勝と、国内リーグのような楽勝は望めないが、今季こそは、ネイマールが決勝トーナメントに出場できるはず。となれば戦力的に前2シーズンよりも大きなプラスだし、CL慣れしたネイマールが、実は意外ともろいPSGのメンタル面も多少は野太くしてくれるだろう。

 一部のメディアでは、昨年マンチェスター・ユナイテッドに敗れた試合以来、トゥヘル監督と選手たちの関係性が変化し、いまでは指揮官は孤立状態にある、とも言われている。

 たしかに今年のトゥヘルには、昨年感じた「かわいらしさ」のようなものはなくなり、よりシリアスさが前面に出ている感じはあるが、「彼の甘さが選手たちにつけこまれて『失敗シーズン』を招いた」、ともさんざん言われただけに、彼自身が少し方向性を変えたのかもしれない。

 全体的には、オートマチズムが鉄板の古参プレーヤーたちに、いまをときめく最強男ムバッペ、そして新戦力が加わった今シーズンのPSGは、ズラタン・イブラヒモビッチがいたころの濃いキャラクターこそないものの、異なる個性が混じり合った、おもしろいチームになっている。

 念願のCLベスト4入りができるかが、後半戦の目標だ。

(文:小川由紀子【フランス】)

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