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中島翔哉はポルトに不可欠な存在へ。戦術に組み込まれた背番号10の明らかな進化

中島翔哉のポルトにおける立場が劇的に変わった。年内最終戦となった22日の試合では、これまで以上にチーム戦術の一部として機能しつつ、アシストも記録している。セルジオ・コンセイソン監督は背番号10の日本人アタッカーをチームの中心に据える上で、組織戦術にいかなる変化を仕込んだのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

キレのある絶妙な動き出しからアシスト

中島翔哉
ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉【写真:Getty Images】

 日本のファンタジスタは、試合を重ねるごとにパフォーマンスを向上させている。現地22日に行われたタッサ・ダ・リーガ(リーグカップ)のグループD第3節、シャヴェス対ポルトで、様々なものが確信に変わった。

 ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉は、このシャヴェス戦で公式戦3試合連続の先発出場を果たした。これまでいわゆる「サブ組」中心で戦ってきたリーグカップは、中島にとって主戦場だった。

 しかし、シャヴェス戦は一部の主力も織り交ぜたメンバー構成となった。とりわけ直近の3試合で全てに先発起用されたのが、中島とMFヘスス・コロナの2人だけだったことを考えると、背番号10の日本人アタッカーがチーム内でいかに重要な選手になってきているかが理解できるだろう。

 そして中島は、セルジオ・コンセイソン監督からの期待に応えるプレーで結果に貢献した。19日に行われたタッサ・デ・ポルトガル(ポルトガルカップ)の5回戦、サンタ・クララ戦での初ゴールに続き、シャヴェス戦では見事なアシストを記録している。

 ポルトの1点リードで迎えた16分、右サイドでのスローインの場面。コロナがボールをつかんで出しどころを探していると、前方にスペースを見つけた中島が一気にギアを上げて相手のマークを振り切った。

 スローインをコントロールして右サイドをえぐり、ゴール前にハイクロスを上げる。これが完璧なお膳立てとなり、FWチキーニョ・ソアレスがヘディングシュートをゴールネットに突き刺した。

 この局面で目を引いたのは、中島の味方と連動しながら裏のスペースを狙う意識の高まりだった。今までで常に足元にボールを要求していた彼が、積極的に裏のスペースに走り込むようになったのである。しかも、アシストの場面だけでなく、カウンターの局面でも相手ディフェンスラインの裏に走ってロングパスを引き出そうとするような動きが見られた。

ビルドアップに見られた変化

 さらに重要な変化は、中島の特殊なプレーの傾向を戦術や組織に落とし込みつつ、味方選手たちからの理解も進んできている点だ。それはビルドアップの局面でより顕著に現れていた。

 途中出場がメインだった頃の中島は、どうしてもボールを足元で受けてドリブルすることばかりで、パスをもらうために自分に与えられたポジションを放棄して下がっていってしまう場面ばかりだった。

 そうなると味方が使えるスペースを消すだけでなく、危険なエリアでボールを奪われるリスクが増し、実際に中島の不用意な動きがいくつも決定的なピンチを招いてしまった。ただ、最近になってコンセイソン監督はこうした動きを戦術の中に組み込み、リスクを軽減しようとしているように見える。

 例えばシャヴェス戦では、中島がパスを受けに下がろうとすると、2人のセントラルMFのうち1人がすっとポジションを上げるか、逆サイドに開き、もう1人は少し立ち位置を下げて一時的に4-3-3のような形を作る。

 そうすることによってチーム全体のバランスを保ちながら、中島が周りと適切な距離を保ったままボールを運べる、あるいはパスを展開できる環境を整えようとしていたのではないだろうか。トップ下に近い役割の中島が、ウィングの選手とポジションを入れ替える動きもスムーズになっていて、選手同士の戦術理解が進んでいることが見てとれた。

 もちろん中島もただパスを受けるために下がるだけでなく、先述したように裏に飛び出したり、あるいはボールのないところで「待つ」ことも意識するようになってきている。これがあってこそ、周囲からの理解も進んだのだろう。

プレーの意図が周囲に理解され始め…

 44分の場面、自陣からのカウンターの流れでゴール前に渋滞が起きていると見ると、逆サイドにボールがある時点で中島はファーサイドに回る。左サイドに張り出したまま、こぼれ球を回収した味方からのパスを受けると、カットインして得意のシュートまで持ち込んだ。

 左サイドからピッチを横切るようにドリブルを始め、目の前の相手をずらすためにMFセルジオ・オリヴェイラへと短いパスをつけるのだが、すぐにリターンが返ってきた。

 この瞬間、中島のミドルシュートという狙いをセルジオ・オリヴェイラが理解していたこと、つまり短いパスの意図が味方にも共有されていたことは、周囲との相互理解が進んで連係もスムーズになってきている証明と言える。

 シャヴェスに4-2で勝利し、リーグカップ準決勝進出を果たしたポルトは2019年に予定されていた全ての試合を消化した。苦しい時間が長かった中島も、ここにきて右肩上がりで周囲からの評価を高め、信頼を獲得している。

 現地メディアでは「家族が来てくれたから説」や「語学力劇的向上説」といった様々な要因が挙げられている。だが、どういう理由であれ、ピッチ内で中島がどういう特徴と考え方を持った選手であるかという理解が深まってきたことが、活躍の大きな後押しになっているはずだ。

 ピッチ上でコンセイソン監督から指示を受ける姿も様になり、試合前後に見せる表情も明るくなってきていることから、彼のポルトでの日々が充実したものになってきているのはよくわかる。

 周囲との相互理解が進み、戦術の一部として持っている武器を活用できるような調整が行われたということは、ポルトにおいて中島が欠かせない存在になっていることを示している。この好調を年末年始の短い中断期間を挟んでも継続できるか。直近の3試合は「格下」だったため、年始の1月5日に予定されているスポルティングCP戦でどんなパフォーマンスを見せられるかが極めて重要になる。

(文:舩木渉)

【了】

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