アーセナル、アルテタ監督の初陣はどうだったのか。用意した柔軟な策、差し込んだわずかな希望の光

プレミアリーグ第19節、ボーンマス対アーセナルが現地時間26日に行われ、1-1のドローに終わっている。アーセナルはこれで公式戦4戦未勝利という結果に。ただ、内容面を見る限りではポジティブな要素も多かった。ミケル・アルテタ監督が初陣で見せた采配やアイデアとは。(文:小澤祐作)

2019年12月27日(Fri)11時38分配信

text by 小澤祐作 photo Getty Images
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アルテタ初陣。キーマンはエジル

メスト・エジル
アーセナルのキーマンとなっていたメスト・エジル【写真:Getty Images】

 チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得を目標に新シーズンの歩みを始めたアーセナルであるが、その道のりはかなり厳しいものとなっている。現地時間11月29日には、ウナイ・エメリが成績不振により解任。その後しばらくは、クラブOBでもあるフレドリック・ユングベリ氏が暫定的に指揮を執っていたものの、状況は好転せず。同氏は「早く体制を決めてほしい」とコメントするなど、チーム状態は最悪であった。

 しかし、ようやく暗いトンネルを抜け出す第一歩を踏み出すことができるかもしれない。アーセナルは20日、それまでマンチェスター・シティのアシスタントコーチを務めていたミケル・アルテタの新監督就任を発表したのである。ユングベリ氏もコーチングスタッフとしてチームに残留。ようやく、新体制が固まった。

 そんなアルテタ監督の初陣となったのが、現地時間26日に行われたプレミアリーグ第19節のボーンマス戦。ホームチームは第12節のニューカッスル戦から5連敗を喫するなど泥沼にハマっていたが、第17節のチェルシー戦で勝利しており、調子は上向き。前節のバーンリー戦は0-1と惜敗しているが、アーセナルにとっては決して簡単な相手でないことは確かであった。

 アルテタ監督はこの試合で4-2-3-1のフォーメーションを採用。トップ下にはMFメスト・エジルを起用し、左サイドハーフにはFWピエール=エメリク・オーバメヤン、右サイドハーフにはFWリース・ネルソン、1トップにFWアレクサンドル・ラカゼットという攻撃陣の並びになっている。

 試合開始のホイッスルが鳴り響くと、さっそく勢いを持って挑んできたのはボーンマス。アーセナルはどこか慎重な入りを見せている印象が強かった。5分にはMFライアン・フレイザーに決定機を作られるなど、いきなりピンチを招いている。

 だが、その直後に理想の攻撃の形が見えた。それは、トップ下のエジルを生かすというもの。ここをうまく使うことができれば、アーセナルのゴールへの可能性というのは格段に増す。前半からその狙いというのはハッキリ見えた。

 5分にはMFグラニト・ジャカからエジルへ縦パスが通り、相手の背後へ走り出したラカゼットへスルーパスが出ており、決定機を生んでいる。さらに8分にはMFルーカス・トレイラからパスを受けたエジルがドリブルで前進。最後は左サイドバックのFWブカヨ・サカにパスが通り、こちらも決定機となった。

 ボーンマスはアグレッシブな姿勢を売りとしている。前線からのハイプレスを決して怠らず、それに伴い最終ラインも高めを維持している。しかし、それこそがエジルを生かすことになってしまった。

 ボーンマスは4-5-1の並びであるが、中央の3枚のうち2枚は前線へ果敢に飛び出す。この日でいえば、アーセナルのダブルボランチにプレッシャーを与えたのはこの2枚。よって、守備時は何度かMFジェフェルソン・レルマがアンカーのような形になることがあった。しかし、レルマが中盤底で1人になるということは、その脇のスペースは当然だが広がる。エジルはそこを突いたのだ。上記した8分のシーンは、まさにそのスペースを生かしてのもの。このあたりの狙いは完璧であった。

ボーンマスのエジル対策

 ボーンマスはエジルにマンマークをつけていなかった。中盤と最終ラインの間のスペースをどう埋めるべきかも曖昧となっていて、カウンターを受けた際にはそのエリアをドイツ人MFに幾度となく使用されてしまったのである。エジルのボールの受け方も巧みで、そのあたりの技術は突出していたとはいえ、ボーンマスにとってはここを捕まえきれなかったのは痛かった。

 このように、立ち上がりのアーセナルの決定機はほとんどがエジルが起点となって生まれたものであった。25分にはエジルからオーバメヤンへパスが出ており、シュートまで繋げている。アルテタ監督もこうした攻撃を繰り出せたことには満足していたようで、選手に拍手を送っていた。

 しかし、アーセナルにとって不安だったのは最終ライン。後ろからボールを繋げる意図を持っていることは明らかだったが、ハイプレスを与えられた際にはやや危険な持ち方をする場面が立ち上がりに何度か見受けられた。

 そして、その不安が最悪の結果を招いた。35分、自陣の左サイドでサカがボールをロストすると、DFジャック・ステイシーにペナルティエリア深い位置まで侵入を許してしまう。そこからグラウンダーのクロスを上げられると、最後はゴール前に飛び込んだゴスリングにゴールネットを揺らされ、先制点を許してしまったのである。

 アーセナルにとっては勢いを掴んでいた中での失点。これは大きなダメージとなった。さらに失点の引き金となったのは、懸念されていた左サイド。本職がサイドバックでないとはいえ、サカの脆さが浮き彫りとなってしまった。

 しかし、0-1のビハインドを背負ったまま迎えた後半は、再びアーセナルがペースを掴む。相変わらずエジルからは精度の高いパスが出てきており、そこからチャンスが生まれている。後半もトップ下が肝となるのは明確であった。

 ただ、ボーンマスもエジルへの対策を施してきた。この日、先制ゴールを挙げたゴスリングをドイツ人MFに張り付けたのである。

 前半と明らかに変わったのが、ゴスリングの首の振り方。前半はボールホルダーへの意識を高めていた背番号4であったが、後半はエジルの存在を気にするようになっており、常に首を振りながらドイツ人MFを確認。距離感も近くなっていた。自身がサイドの選手へアプローチに行く際には、他の選手に手でエジルを見るようにと指示しているシーンもあった。エディ・ハウ監督がハーフタイムで修正してきたのは確かだった。

 事実、データサイト『Who Scored』によると、エジルは前半の30分間で24本のパスを出しているが、後半の30分間では15本とパスが減っている。アーセナルはついに攻撃の軸となる部分を消されてしまったのだ。

 それでも64分には少しラッキーな形でオーバメヤンに得点が生まれ、なんとか同点に追いついたアーセナル。そこから、アルテタ監督が動き出した。

アルテタ監督が見せるアイデア

ミケル・アルテタ
アルテタ監督の初陣はドローとなったが、内容ではポジティブな部分も多かった【写真:Getty Images】

 待望の同点ゴールを挙げたアーセナルは、その後もボーンマスを押し込む時間帯を作った。ハイプレスで来る相手を的確に回避して、相手陣内の深い位置まで侵入することができていた。

 その中で、アルテタ監督はある工夫を施した。中盤底2枚の一角でプレーしていたジャカをビルドアップ時により深めに置き、DFソクラティス・パパスタソプーロス、DFダビド・ルイスと3バックになるような形を組む。左サイドバックのサカ、右サイドバックのDFエインズリー・メイトランド=ナイルズを高めの位置に固定したのである。

 これにより、ビルドアップの起点はジャカになった。前半に高い位置でボーンマスに捕まり、失点を招いているが、そうしたリスクを少しでも減らすという狙いもあってのものだろう。エメリ監督時代にはあまりなかった、試合中の柔軟な策を、アルテタ監督は見せたわけだ。

 その策がさっそく効果を発揮したのは69分の場面。D・ルイスがボールを持った際、ジャカが左サイドに開くことでFWハリー・ウィルソンを引き付ける。そうすることでブラジル人DFの前にはスペースが広がり、同選手はそこへ侵入。余裕を持ってプレーすることができたD・ルイスは最終的にラカゼットへ決定的なスルーパスを通しており、チャンスを演出している。

 ジャカが起点となるのはボーンマスの選手も理解していたため、そちら側を警戒し、D・ルイスにはそれほど強くプレスに行けなかったのだろう。ただ、アーセナルはその裏を突いた。アルテタ監督のアイデアは決して悪くなかった。

 ただ、アーセナルはゴール前でフィニッシュの質を欠き続け、追加点を奪うことはできず。試合はそのまま1-1で終了。これでアーセナルは公式戦4試合勝利なしということになった。

 しかし、アルテタ監督の初陣を勝利で飾ることができなかったとはいえ、内容面は向上したと言えるだろう。いまは結果が最も重要な時期であることは間違いないが、選手もここから自信を取り戻すことができるはずだ。けが人も多くいるのは事実で、難しい部分はまだまだ出てくる可能性が高いが、この試合ではわずかな希望の光が差し込んだと言えるだろう。

 次節は中2日でチェルシーとのダービーマッチが控えている。ここで勝利し、上位復帰への道を歩むことができるか。引き続き、アルテタ新監督の采配から目が離せない。

(文:小澤祐作)

【了】

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