リバプール、クロップ監督の戦術「ゲーゲンプレス」の構造とは? その破壊力を生む理論を解説【ゲーゲンプレスの原点 後編】

今シーズンのプレミアリーグで首位を独走するリバプール。南野拓実の加入も決まり注目が集まるこのチームを率いるクロップの戦術「ゲーゲンプレス」の原点を探る。世界的サッカー史家がサッカーの進化を読み解く『戦術の教科書』(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之著/2017年刊)から、一部を抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

2020年01月05日(Sun)10時30分配信

text by ジョナサン・ウィルソン photo Getty Images
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柔道の攻防にヒントが

ユルゲン・クロップ
リバプールを率いるユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】

 近年のフットボール界では、ボールポゼッションをひたすら高めていくのではなく、効果的にカウンターを狙うべきだという見方が支配的になってきている。

 ところが実際には、カウンターから決まったゴールの割合は、過去10年間で半減しているからだ。つまりデータだけを見るならば、今日のフットボール界に訪れているのは、カウンター全盛時代であるよりは、むしろカウンター受難の時代だという結論になる。あのバルセロナでさえもが、カウンターを駆使しているにもかかわらずだ。

 どうして、このような奇妙な現象が起きてしまうのか。UEFAのテクニカルレポートが示唆するものと、一般のフットボールファンが受ける印象とでは、なぜかくも食い違うのだろうか。

 謎を解く秘密は、まさにカウンターの浸透にある。

 10年前に比べて、単純なカウンターからゴールが決まる割合が半減したのは、ヨーロッパのトップクラブが「カウンターへの対抗措置」を考えるようになったからに他ならない。

 かつての戦術論議で争点となっていたのが、守備から攻撃にいかにスムーズに移行するかであったとするならば、今日問われているのは、ボールを失って攻撃が失敗に終わった際に、いかに再び守備に戻るかというテーマになっている。どのクラブも、当然のようにカウンターを狙うようになってきたからだ。

 日本の読者のみなさんには、柔道の攻防を思い出してもらうとわかりやすいかもしれない。

 基本的に柔道の試合では、どちらかの選手が、「内股」のような技を仕掛けていく。

 内股をかけられた相手はじっと耐えるか、あるいは「内股すかし」のような技をかけて切り返しを狙う。切り返しとは、フットボールでいうところのカウンターに相当する。

 この手の切り返しは非常に有効になる。技をかけてきた人間は体勢が崩れているし、そこを突く形になるからだ。

 だが攻防は、そこで終わらない。相手が「内股すかし」をかけてきた瞬間、さらに別な技で切り返すことができれば、もっと大きなダメージを与えることができる。相手もまた体勢が崩れているし、「自分の返し技が返される」などとは夢にも思っていない。

 やや説明が長くなったが、ゲーゲンプレスを始めとする「カウンターに対するカウンター戦術」は、この発想に極めて近い。

 相手がボールを奪い、速攻に転じようとしてきた瞬間に、もう一度ボールを奪い返すことができれば、さらに効果的な攻撃を仕掛けることができる。敵の選手たちは、すでに守備のブロックを解いて、前に向かって走り出そうとしているし、完全に逆を取られる形にもなる。

 事実、クロップは次のように断言している。

「ボールを奪い返すのに1番いいタイミングは、相手にボールを奪われた瞬間だ」

 クロップは、その理由もはっきり述べている。

「この段階では、ボールを奪った相手の選手は、ボールをどこにパスするかを探している」

 クロップの指摘は正しい。

 そもそもボールホルダーにタックルを仕掛けたり、パスをインターセプトしたりする場合には、まず相手の攻撃の流れを読む作業に集中しなければならない。またボールを奪い返す過程で、体力を消耗していることも考えられる。

 そこから攻撃に転じるためには、たとえ一瞬にせよ、自分の意識を守備から攻撃に切り替える時間が必要になる。ボールを再び奪い返す側にとっては、そのわずかな「間」や躊躇、判断の迷いが狙い目になるのである。

(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

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【了】

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