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中島翔哉、19/20前半戦の評価は? トップ下起用で立場が一変【欧州日本人中間査定(2)】

新年を迎え、2019/20シーズンは後半戦へと突入した。欧州各国でプレーする日本人選手たちはどのような活躍を見せたのか。今回は今季からポルトでプレーする中島翔哉の前半戦を振り返る。(文:編集部)

シリーズ:欧州日本人中間査定 text by 編集部 photo by Getty Images

監督の怒りを買って…

中島翔哉
ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉【写真:Getty Images】

 期待の大きさは群を抜いていた。カタールのアル・ドゥハイルからポルトガルの強豪ポルトへ移籍を果たした日本代表MFは、新天地で背番号10を託された。

 ポルトが支払った移籍金1200万ユーロ(約15億円)は、今季の新戦力で最も高額。一度は「8」と発表されていた背番号が「10」に変更される、異例の待遇を受けた。当然、ファンやメディアからの注目度はどんどん上がっていく。

 しかし、日本代表のエースはいきなり壁にぶつかる。言語面のハンデもあり、ピッチ内外で厳しい規律を求めるセルジオ・コンセイソン監督のスタイルへの適応に時間を要した。リーグ戦開幕前にはチャンピオンズリーグ(CL)予選にも出場したが、ポルトはロシアのクラスノダールに屈し、欧州最高峰の舞台への挑戦権を失ってしまう。

 国内リーグでもなかなか先発出場のチャンスが回ってこない中、事件は起きた。昨年9月15日に行われたポルトガル1部リーグの第5節、古巣ポルティモネンセとの一戦に途中出場した中島は、試合後にピッチ上でコンセイソン監督から厳しく叱責され、その映像が中継で抜かれたこともあって、国内で大きな波紋を呼んだ。

 原因は77分の2失点目の場面で、ゆっくりと自陣に戻ってきていた中島が目の前の相手選手を追わなかったことにあった。2-1でリードしていたにもかかわらず、中島の守備意識の低さゆえにポルティモネンセのDF安西幸輝に同点ゴールを許したことが、指揮官の逆鱗に触れたのである。最終的にポルトは3-2で勝利を収めたが、後味の悪さは残った。

 しかし、コンセイソン監督が中島を見放すことはなかった。その後も辛抱強く起用し続けると、背番号10のプレーにもハッキリと改善が見られるように。特に守備面での献身性は飛躍的に向上し、スムーズな攻守の切り替えとボールホルダーを追いかけ回して積極的にプレッシャーをかける姿勢が高く評価されるようになった。

 それでも出場時間があまり伸びていかなかったのは、やはりゴールやアシストという数字を残せていなかったからだろう。左サイドでライバルと目されていたコロンビア代表FWルイス・ディアスは、中島と競争しながら順調にゴールやアシストを重ねて、コンセイソン監督やチームメイト、ファンからの信頼を勝ち取っていった。

トップ下起用で躍動感を取り戻す

 しばらくの間、中島がスタメン出場するのはプライオリティの低い国内カップ戦に限られていた。コンセイソン監督は基本的にベストメンバー主義を貫き、リーグ戦だけでなくヨーロッパリーグ(EL)でも大きく先発を入れ替えることなく戦っていたのである。

 9月の終わりから10月初旬にかけて、リーグカップでの公式戦初アシストをきっかけに3試合連続での先発起用はあったものの、チームがなかなか勝てずに試合内容も振るわなかったこともあって再びベンチが定位置に。

 ELでは11月上旬に行われたレンジャーズ戦のようにアウェイまで遠征に帯同しても、出番なく終わることもあり、同月下旬のヤングボーイズ戦では直前に体調を崩してアウェイへの帯同を回避するアクシデントもあった。

 前述したレンジャーズ戦の直後にライバルのルイス・ディアスを含む南米出身の4選手が規律違反を犯し、クラブ内で出場停止の処分を受けた状況でも、中島はベンチから抜け出すことができずにいた。そうしてポルトでプレー時間が限られると、日本代表でのプレーにも影響が出てしまう。11月のキルギス戦やベネズエラ戦でも低調なパフォーマンスに終始した。

 そんな中、風向きが変わり始めたのは12月に入ってからだった。同月8日、ポルトはアウェイで行われたリーグ第13節のベレネンセス戦に引き分けたが、この試合の内容は誰が見ても「今季最悪」と口を揃えるほど。コンセイソン監督も対戦相手の監督に手を出したのではないかと囁かれ、チーム状態が悪化の一途をたどる中で、変化を迫られた。

 12月16日、リーグ第14節のトンデラ戦だった。これまで左サイドでの出場がメインだった中島は、リーグ戦では7試合ぶりに先発起用され、トップ下に入ったのである。本来はFWとして2トップの一角に入ることが多かったムサ・マレガを右サイドに回してまで、コンセイソン監督は背番号10を中央の攻撃の核となるポジションに据えた。

ターンオーバー要員から攻撃の核へ

中島翔哉
中島翔哉はポルトの攻守の要へと飛躍を遂げた【写真:Getty Images】

 この起用が全てを変えた。中島がいい形でボールを受けると、高い確率でチャンスが生まれ、守備での献身性も失われず。ポルト加入後最高のパフォーマンスで勝利に貢献し、ベレネンセス戦でどん底に叩き落とされたチームに光をもたらした。

 ピッチ上での起用法以外にも、「あなたには見えない多くの部分、特に家族との生活の面で、様々な状況を見なければならない。2週間前に中島の家族がポルトガルにやってきて、彼の気分が変わった」とコンセイソン監督は中島の調子が上向いた理由を明かした。

 直接ゴールに関わる数字を残したわけではないが、ドリブルにこだわらないシンプルなプレーで輝きを放ったトンデラ戦のフル出場をきっかけに、中島を取り巻く状況は劇的に改善されていく。3日後に行われたポルトガルカップのサンタ・クララ戦でも連続で先発起用された背番号10は、ポルトでの初ゴールも決めた。

 それ以降、年をまたいでも公式戦では一度もスタメンから外れていない。ポルトほどのビッグクラブでこれがどんな意味を持つかは明らかだろう。今や、中島は各国代表クラスが揃う名門で攻撃に欠かせないキーマンへと飛躍を遂げた。

 2019年内に対戦したトンデラ、サンタ・クララ、シャヴェスはいずれも格下だったため、チーム内での真価が問われると見られていた年明け1月5日のリーグ第15節・スポルティングCP戦でも中島は先発起用される。66分までのプレーだったが、チームメイトたちとの相互理解が進んでいることを証明するパフォーマンスで確かな存在感を発揮した。

 リーグ戦もまもなく折り返しというタイミングで、公式戦20試合出場1得点2アシストという数字は、ビッグクラブの「10番」としては物足りなく映る。それでも最近1ヶ月のプレーだけを見れば、ポルトの主力として高く評価されているのは間違いなく、シーズン開幕当初とはプレーの質が明らかに変わった。

 腐らず地道に努力を続けてきた成果を結果につなげるのは後半戦のミッションになる。ポルトの試合会場には、度々マンチェスター・ユナイテッドなど欧州中から強豪クラブのスカウトが姿を見せていることも確認されており、今のパフォーマンスレベルを維持して活躍を続ければ、近い将来のさらなるステップアップも夢ではないはずだ。

(文:編集部)

【了】

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