モウリーニョは”オタンコナス系”ではないが。エリクセン退団、ケイン離脱のトッテナムを4強に導くか?【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

マウリシオ・ポチェッティーノの退陣、ハリー・ケインの負傷など、今シーズンのトッテナムは予期せぬ事態が続発している。24節終了時点で6位につけているが、14試合を残すのみとなったプレミアリーグで、トップ4に入ることはできるのだろうか。昨年11月に監督に就任したジョゼ・モウリーニョの手腕が試される。(文:粕谷秀樹)

2020年02月01日(Sat)10時00分配信

text by 編集部 photo Getty Images
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妥協だったエリクセンの移籍

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【写真:Getty Images】

 予期せぬアクシデントが3件も起きれば、だれだって頭を抱えたくなる。

 クリスティアン・エリクセンは夏の間に移籍するはずじゃなかったのか。マウリシオ・ポチェッティーノが退陣するなんて、悪い冗談に決まっている。左ハムストリングに裂傷が見つかったハリー・ケインは、今シーズン中の復帰が怪しくなってきた。トッテナムが重い空気に包まれている。

 この冬、エリクセンはインテル・ミラノに新天地を求めた。一昨年の夏から去就を取りざたされ、昨夏の移籍は決定的ともいわれていたが、トッテナムとエリクセンが納得するオファーは届かなかった。インテル行きにしても、エリクセンの希望が100%叶ったわけではない。レアル・マドリー、もしくはユベントスでのプレーを夢見ていたのだから、インテルでは都落ちだ。

 しかし、トッテナムとの契約は6月末日までだ。移籍金が発生するのは今しかない。フリートランスファーになるよりはましだ。合意性が極めて薄い妥協とでも表現すればいいのだろうか。

 ポチェッティーノの退陣は、後任にジョゼ・モウリーニョを招聘してケリがついた。知名度の低い者でもなければ、名前は知られているが実績皆無のオタンコナス系イングランド人(嗚呼ウェストハム)でもなく、豊富なタイトル歴を持つ新監督の着任によって多少なりともショックは和らげるはずだったのだが……。

ケインの負傷は選手生命がかかっている

 海千山千のモウリーニョをもってしても、ケイン不在のプランを一朝一夕にして練り上げられるはずがない。しかも絶対的大エースは、2か月欠場という当初の見立てが誤りで、「医学的な見地では復帰まで6か月を要する」との不穏な情報が飛び交いはじめている。

 ハムストリングの負傷にも症状の違いがあり、筋肉の軽度な緊張であれば数日で回復する。しかし、筋肉を完全断裂していると、慎重な経過観察が必要だ。患部を休ませ、いっさいの衝撃を与えずに3か月すごし、なにも異常がなければさらに3か月かけてリハビリする、との見方もあるようだ。

 ケインは過去2シーズンも同じ箇所を痛めながら、短期間で復帰してきた。完治していなかったのではないだろうか。トッテナムのメディカルスタッフは見抜けなかったのか。

 ケインの早期復帰は考えづらい。4月に戻ってきたとしたら、無理をしているなと疑った方がいい。責任感が強いだけに、「これ以上クラブに迷惑をかけられない」と出場を志願するだろうが、彼の選手生命がかかっている。モウリーニョをはじめとする首脳陣は、力づくでもケインを抑え込まなければならない。

「ケインが私と同じ症状じゃないことを祈っている」

 リバプールで一世を風靡したマイケル・オーウェンもハムストリングの負傷を繰り返し、ほんの一瞬しか輝けなかった。

「プレー強度が高くても痛みがないのに、試合前のジョグで違和感がある……。いったいどうなってんだって頭を抱えた。ケインが私と同じ症状じゃないことを祈っているよ」

 同じ悩みを抱えた者同士、オーウェンはケインの痛みがよく分かるのだろう。

 それでもトッテナムは、トップ4をめざして闘わなくてはならない。ケイン不在という大きすぎるダメージを受け止めながら、UEFAチャンピオンズリーグの出場権確保が最優先事項になる。

 当然、冬の移籍市場でもストライカー獲得が急務だ。本稿執筆時点でACミランのクシシュトフ・ピョンテクとは交渉中だが、移籍金に大きな隔たりがある。パリ・サンジェルマン脱出を図るエディンソン・カバーニはうってつけの存在だ。しかし、彼はアトレティコ・マドリーしか希望していない。交渉するだけ時間の無駄だ。

 こうした事情を知っているからこそ、モウリーニョは「現有勢力に満足している」と語り、新ストライカー獲得をあおるメディアを、希望するサポーターを牽制したのだろう。指揮官は腹を固めた。「ケイン不在で乗り切るしかない」「エリクセンを懐かしんでもラチが明かない」と……。

カギを握るロチェルソの存在

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【写真:Getty Images】

 24節のノリッジ戦が新布陣の基本だ。前線はルーカス・モウラとソン・フンミンのスピード、エリク・ラメラのテクニックが肝だ。二列目に位置するデリ・アリは相手DFラインの裏に飛び出し、プレミアリーグのプレー強度に慣れてきたジオバニ・ロチェルソが、長短緩急のパスワークで指揮を執る。

 なかでも期待できるのはロチェルソだ。サイドで幅をとるソン・フンミン、あるいはラメラに高精度のロングフィードを配したり、ドリブルでスペースに進入したり、エリクセンが抜けた穴を埋められる才能があることを証明した。ミドルやコントロールショットなどを駆使し、昨シーズンはベティスで公式戦16ゴールを記録している。中盤の指令塔として、後半戦のカギを握る存在になりそうだ。

「彼のセンスは皆さんもご存知のとおりだ」

 ノリッジ戦終了後の記者会見で、モウリーニョも相好を崩した。合格を意味する笑顔だった。

 24節終了現在、3位レスターとは14ポイント差の6位。ずい分と離されたものだ。残り14試合で逆転するのはなかなか難しい。

 ベンフィカから獲得したジェジソン・フェルナンデス、PSVから獲得したステフェン・ベルフバインも、救世主と呼ばれるほどの器ではなさそうだ。しかし4位チェルシーとは6ポイント差だ。十分すぎるほどの射程内である。トッテナムと同勝点(34)のマンチェスター・ユナイテッドとウォルバーハンプトンを含むトップ4争いは、最終盤までもつれる公算が非常に大きい。

 そしてノースロンドンの雄にアドバンテージがあるとすれば、やはりモウリーニョの経験値だ。

 チェルシーのフランク・ランパードは監督経験が約1年半しかない。ユナイテッドのオレ・グンナー・スールシャールは、「リバプールのユルゲン・クロップは現在のチームを創るまで4年かかった。私にも時間をくれ」と弱音を吐き、サポーターと経営陣の信頼を一気に失った。ウルブズのヌーノ・エスピリト・サントは戦略・戦術に長けているが、プレミアリーグにやって来てまだ2年目だ。

 モウリーニョのタイトル歴は、いまさら列挙するまでもない。チャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、セリエA、ラ・リーガなどで辛酸を舐めながらも、数多くのタイトルを獲得してきた。プレッシャーをエネルギーに代える特殊能力は、多くの同業者も認めるところだ。

 ケインは長期の戦線離脱が避けられず、エリクセンがインテルに去り、21節のサウサンプトン戦で膝を痛めたムサ・シソコも4月中旬まで欠場するが、こうしたハンデはモウリーニョの勝負根性を著しく刺激するに違いない。

 稀代名将はどのようにしてトッテナムをトップ4に導くのか。さぁ、お手並み拝見だ。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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