マンチェスター・シティの悪質な契約書改ざん内容とは? FFPでの「重大な違反」の詳細とその手口

マンチェスター・シティは、ファイナンシャル・フェア・プレー(通称FFP)のルールを破ったことが原因で、UEFAの大会を出場禁止になったという。クラブの公式声明の後、英メディアもファンも騒然。SNS上ではシティに関する投稿が飛び交う状況になっていた。今季のシティもプレミアリーグで4位以上の順位につける可能性が高かったことを考えると、これは事実上のチャンピオンズリーグ出場権はく奪と同義だ。何故このような事件が起こったのか。(文・プレミアパブ編集部)

2020年02月18日(Tue)11時36分配信

text by プレミアパブ編集部 photo Getty Images
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FFPとは

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【写真:Getty Images】

 ことの発端は2018年にドイツメディア「デア・シュピーゲル」が、世界中のサッカーに纏わる契約書のデータを暴露している「フットボールリークス」の情報を掲載したことがきっかけだった。

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 ポルトガル人ハッカーのルイ・ピントは3年間に渡り同紙にサッカークラブの機密情報を提供し、その一部がマンチェスター・シティが行った財務諸表の改ざんの疑惑だった。改ざんした可能性、そして正しい情報を下にするとFFPに抵触している可能性が明らかになり、UEFAが議論を重ねた結果、来季から2シーズンのUEFA主催大会の出場禁止と2500万ポンド(約36億円)の罰金が言い渡されたのだ。

 さて具体的にシティの嫌疑について説明する前に、FFPとはどのようなルールかについて説明したい。FFPは2010年にUEFAが導入を決定したサッカークラブの収支に関する規定だ。

 この規定によりクラブは年度ごとに、移籍金や給与などの支出が、チケット売り上げ、スポンサー収入、放映権料、グッズ収入などの売り上げを超えることが禁止された。しかしスタジアムなどのインフラ、アカデミーへの投資に関しては支出として計算されない。

 当時のUEFA理事長ミシェル・プラティニは「移籍金や給与などの度を越えた支出を抑制し、サッカークラブの負債を減らすことが目的だ」とルールについて語っている。

 英メディア『インディペンデント』によると、FFPの導入に関してはマンチェスター・ユナイテッドやバイエルン・ミュンヘン、レアル・マドリーなどのクラブが強く賛成をしていたという。クラブ経営の健全化だけでなく、マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンといった資金力を武器に台頭する新勢力の抑制を期待したとの憶測もある。このようなクラブの思惑も重なってかFFPは開始された。

 ルールの施行が決まった際、FFPを管理するUEFAの機関CFCBで初代理事長を務めたジーン=ラク・ディハンは「FFP違反に関する最大級の罰則はUEFAの大会への出場停止だ」と語っている。つまり今回のシティは最悪の罰則を受けることとなったのだ。

シティの改ざん内容とは

 CFCBの声明によれば、シティの罰則が決まった理由は主に2つだ。1つ目は2012年から2016年の収支報告に関して実際よりも多くの収入を報告したこと。もう一つがCFCBの調査に対し協力的でなかったことだ。

 一つ目の過大報告は、ドイツメディア「デア・シュピーゲル」が告発した内容だ。同紙は2012/13シーズンにシティ幹部内でかわされた内部メールを告発している。2008年にアブダビの王族に買収されたシティは度々FFPのルール違反を指摘されていたが、このリークが今回の重大な罰則に踏み切る大きなきっかけとなった。

 同シーズン終盤、クラブの財務部門でトップを務めるホルヘ・チュミジャは「クラブは990万ポンド(約14億円)の赤字を計上する」とメールで報告し、このままではFFPのルールに違反するレベルの損失を計上してしまうことを確認した。

 シティは違反を避けるべく解決策を考える必要があった。告発内容の中では、そのシーズンのFAカップで優勝した場合のボーナスを収入に上乗せして計上する案もあったようだ。しかし2011/12シーズンのシティは決勝でウィガン・アスレティック(現イングランド2部)に敗れて優勝を逃したため、この方法は不可能になったのだ。

 この困難に直面したシティ首脳陣が導き出した策が、本来はないはずスポンサー売り上げを、もともとさもあったかのように見せかけるという策だった。何故こんな離れ業が可能だったのか。

 シティのスポンサーにはアブダビグループの企業が多く、シティのオーナーを務めるシャイク・マンスールはUAEの王族であり、シティのスポンサーにはエティハド航空などマンスールの親族が設立した企業も多い。

 なおかつマンスール自身の資産は潤沢なため、彼の個人会社から資金を投入することは可能だ。そして身内の企業であるエティハド航空を始め、複数の息のかかった企業からのスポンサーシップ売り上げのように見せかけようとしたのだ。

 こうしてシティは契約書を改ざんし、クラブの収支が健全であるかのように見せかけた。

 メールの中でチュミジャはこの方法が可能なのか疑問を投げかけた。すると幹部の1人は「もちろん出来る。やりたいようにね」と回答。このやり取りからシティが意図的にFFPのルール違反を隠蔽していたことがうかがえる。

 嫌疑はこれだけではない。シティはFFPから逃れるために他にも様々な手段を講じていた。

 ドイツメディア「デア・シュピーゲル」によれば、シティは収入の上乗せだけでなく支出金額に関しても安く見えるように画策していた。シティは本来、選手を起用した商品、サービスを作成した際に、選手に対し肖像権を支払う義務がある。

 この額を削減するためにシティは肖像権の管理機能を新しく設立した新会社に売却。肖像権の支払いの権利はその会社に移ることとなり、シティは支払いを免れたように見せかけたのだ。ちなみにこの新会社はUAE方面からの支援を受けていたこともリーク情報で明らかになっている。

 その他にも、エティハド航空からのスポンサー売り上げと見せかけて、実態はマンスールの会社から資金を投入するなど、いくつもの偽装を行っていたと言われている。

 さてFFPが施行されて以降、財政が苦しいクラブは様々な工夫を講じてやりくりしてきた。過去にはミランは収支を安定させるためにズラタン・イブラヒモビッチなどの主力選手の放出を余儀なくされた。あるいはチェルシーは高額な移籍金で多くの選手を買いあさる方針を改め、選手の売却と獲得の収支が釣り合うように動いている。

 そんな中、シティがいくらオーナーの資金が潤沢だとはいえ、ルールを破って戦えば平等性に欠く。だからこそ厳重な罰が下されようとしているのだ。

シティは今後どうなるのか?

 気になるのは処分を受けたシティの今後だ。

 まずシティはUEFAの処分決定に関するプロセスが不当であるとしてスポーツ仲裁裁判所に訴えを起こす予定だ。ただ今回のような大きな案件の場合、最終的な判決が出るまでどれほどの時間を要するかを予測するのは難しい。判決が出るまでは欧州カップ戦出場停止の処分が一時的に凍結する可能性もある。

 クラブにとって更なる不安はプレミアリーグからの追加処分だろう。プレミアリーグは具体的な声明を公表していないが、ルール上では該当シーズン内での勝ち点はく奪や最悪の場合4部への降格の可能性も含まれていると英メディア「デイリーメール」が伝えている。

 UEFAと同様に、プレミアリーグも各チームの財政面のルールを設けており、財務諸表の提出を求めている。シティがリーグにも改ざんされた資料を提出していたのであれば、少なくとも何らかの罰則が下される可能性は高い。

 ちなみにUEFAの処分範囲に2012から2016年のシーズン内でシティは2度のリーグ優勝を達成しているが、その称号が維持されるかも焦点となりそうだ。

 そして、もし来季のチャンピオンズリーグに出場ができない場合に気になるのが所属選手たちの処遇だ。多くの選手にとってCLに出場できないことのショックは大きいはずだ。

 さらに米メディア「ジ・アスレティック」によれば多くの選手にはCLに出られない場合の減棒に関する条項が契約書にあるとされ、サラリーの減少が選手の流出に繋がる可能性を指摘している。同紙は加えて、今回のCL出場権はく奪は選手が原因ではないため選手の代理人たちは移籍を認めるように動くとも考えているようだ。

 最後にジョゼップ・グアルディオラ監督の去就にも注目が集まる。世界的な名将として名高いスペイン人監督はシティとの契約が2021年の夏で切れる。昨年11月の会見では契約延長に意欲を見せていたグアルディオラだが今回の処分を受けて未来はさらに不透明となった。

 米メディア「ジ・アスレティック」の報道によると、昨夏にユベントスからの接触を受けたグアルディオラは「いつかオファーに乗りたいとも思うが、今はシティと契約がある」と断ったとも言われている。想像以上に近い将来、彼が他のクラブに移る可能性は十分にありそうだ。

 このように今回のUEFAの処分に伴いシティの今後にはネガティブな要素が多い。しかし、スポーツ仲介裁判所への上訴が成功すれば処分の軽減、または撤回もあり得る。リーク情報が出た以上、今回の処罰を覆すのは難しいというのが大半のメディアの見方ではあるが今後のシティがどのように振舞うかには多くのサッカーファンが注目している。

(文・プレミアパブ編集部)

【了】

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