新型コロナで大パニックの欧州、なぜベラルーシリーグだけ開催可能? 元Jリーガーが語る内情

新型コロナウィルスが欧州で猛威を振るっている。スペインやイタリアでは毎日のように膨大な数の新たな感染者が確認され、数百人規模で死者が増え続けている。その影響は当然サッカー界にも及び、各国のリーグ戦などが軒並み延期や中止に追い込まれた。そんな中、Jリーグと同じく春秋制を採用するベラルーシだけ観客を入れてのリーグ戦開幕に踏み切った。他のほとんどの国で試合が中止される中、なぜ東欧の彼の国だけサッカーができるのか。現地でプレーする元Jリーガーに直撃した。(取材・文:舩木渉)

2020年03月25日(Wed)11時24分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images, Karlo Brucic/FC Dinamo-Minsk
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欧州で新型コロナが蔓延するも…

カルロ・ブルシッチ
【写真:Karlo Brucic/FC Dinamo-Minsk】

 日常からサッカーが消え、外出を控えて何もかもを我慢しなければならない日々がやってくることを誰が予想しただろうか。世界中を恐怖に陥れた新型コロナウィルスの大流行による影響は、当然ながらサッカー界にも及んでいる。

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 いまや流行の中心となった欧州のみならず、日本をはじめとしたアジア諸国、アメリカ大陸やアフリカでもプロサッカーの試合が延期または中止となり、多くの国々でチームの活動すらもできない状況が続く。国境の封鎖や不要不急の外出禁止がいつ解かれ、日常を取り戻せる目処は立っていない。

 そんな中、東欧のベラルーシで2020シーズンのリーグ戦が開幕した。オーストラリアのAリーグは無観客試合でリーグ戦の開催を続けているが、ベラルーシでは通常通りスタジアムに観客を入れての公式戦が行われている。

 毎日何千人もが命を落としている欧州で、なぜこのタイミングで観客ありのリーグ戦開催に踏み切ることができたのか。普段ならほとんど注目されないベラルーシ・プレミアリーグの開幕を、全世界のメディアが一斉に報じたほどだ。

 ベラルーシサッカー連盟の責任者、ウラジミール・バザノフ氏は公式サイト上で「どんな理由でリーグ戦を始めるべきではないと言えるのか? 我が国で緊急事態は宣言されているのか? 重大な状況ではないので、我々は予定通りに大会を始めることができる」と述べた。やけに強気だ。やはり不思議で仕方ない。

 この疑問を解消すべく取材を進めると、ある選手がSNSを通じてインタビューに応じてくれた。今年からベラルーシ屈指の強豪クラブ、ディナモ・ミンスクに在籍している元U-21クロアチア代表DFカルロ・ブルシッチだ。

 彼の名前を覚えている読者もいるだろう。なぜならブルシッチは昨季途中までサガン鳥栖でプレーしていたから。7月に双方合意のもとで鳥栖との契約を解除した後、リトアニア1部のFKスドゥヴァを経て、今年1月にベラルーシへと新天地を求めていた。

「ベラルーシでは誰も気にしちゃいない」

アレクサンドル・フレブ
【写真:Getty Images】

「リーグ戦が先週末開幕して、これからも毎週試合が止まることなくプレーすることになるだろう。彼ら(リーグやサッカー連盟)は危険な状況ではないと言っている。だから僕らはプレーできるということだ」

 ブルシッチはベラルーシサッカー界の現状について、このように語った。

 だが、そもそもベラルーシ社会は新型コロナウィルスが世界中で大流行する中で、たくさんの人が集まるスポーツイベントなどの開催に懸念を示さないのだろうか。

 実はかつてアーセナルやバルセロナでプレーした同国サッカー界のレジェンドで、今月現役引退を表明したばかりのアレクサンドル・フレブが英紙『ザ・サン』に対して「今やベラルーシは欧州でサッカーができる唯一の場所だ。少なくともベラルーシの人々はハッピーだよ」「世界中がベラルーシリーグを見ている。みんなテレビの前に行って、僕たちの国のリーグを見るべきだね」と述べるとともに、興味深いコメントを残していた。

「新型コロナウィルスがチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)を閉ざした。そういうものをやめなければいけなかったし、いいことだと思うよ。UEFAは正しいことをした。でも、ベラルーシでは誰も(新型コロナウィルスについて)気にしちゃいない」

 確かに当局から公表されているデータを見ても、数万人規模で感染が拡大している西欧諸国に比べ、ベラルーシでの新型コロナウィルス感染者の数は極めて少ない。3月23日の時点で感染が判明しているのは81人、うち22人がすでに回復し、死者は1人も出ていないことになっている。

 もちろん「欧州最後の独裁政権」が残るベラルーシにおいて、アレクサンドル・ルカシェンコ政権や当局の発表を鵜呑みにできるかどうかは議論すべき点だ。とはいえ数万人単位の感染者数を記録し、毎日数百人の死者が出ている西欧諸国よりも新型コロナウィルスの影響を抑えられているのは間違いないだろう。首都ミンスクで暮らすブルシッチも「今のところ望む通りに動き回ることができる。家にこもっている必要はない」と、未知のウィルスに対する楽観的な世間の様子を感じ取っているようだ。

ベラルーシリーグが開催できた理由

 それでも「選手たちは自分で対策している」といい、「僕たちはショッピングモールなどの人混みができる場所を避けるようにしている」とブルシッチは明かした。決して「誰も気にしちゃいない」わけではなく、アスリートは「みんな新型コロナウィルスのことについて考えている」のだ。

 実際、他の現役選手たちもベラルーシでの新型コロナウィルスの動向に敏感ではあるものの、現状に懸念はなく、プレーすることに問題はないと考えているようだ。ディナモ・ブレストに所属するアルバニア代表FWエリス・バカイは『the Score』に対して次のように語っている。同選手は20日に行われた開幕戦の試合前に体温を測定したうえで医師による注射を受けたというが、特に体調に問題はなくフル出場したという。

「イタリアは他の欧州諸国のような状況なら、もちろん危険なので僕たちもリーグ戦を中止しなければならない。だけど、今のところそれほど危険ではないね。コントロールされていると思う。だらか僕にとってプレーするのは普通の決断だった。人々はポジティブなものを必要としている。常に新型コロナウィルスのことを考えていたらストレスになるし、全てに影響が出て滅入ってしまうよ」

「ベラルーシではみんな安全で、生活も普段通りだ。他の欧州の国とは違う。全ての場所がいつも通り開いていて、人々はレストランや仕事、銀行にも行くしね。僕はクラブと契約を結んでいるから、それを尊重する必要がある。毎回の練習に行き、毎試合プレーする必要がある。これに問題があれば契約を打ち切って家に帰るかもしれない。でも、それはここだけの問題ではなく、世界中どこでもそういうものだ」

 やはり国内の感染者の少なさが、観客を入れてのリーグ戦開催に踏み切れた要因のようだ。ブルシッチも「(プロサッカー界では)今のところみんな健康で安全だ。誰も感染していない。それこそ僕たちが普通に試合でプレーできる理由だと思う」と、バカイと同様の見解を示した。

 一方、フレブはあまりに楽観的な母国の様子に警鐘を鳴らす。「誰も気にしちゃいない」という印象を述べたうえで、次のように続けた。

「信じられないことだね。おそらくベラルーシのリーグも1週間後か2週間後には中止することになるだろう。大統領はウィルスによって何が起こるかを見て、待っているだけなのかもしれない。誰もがスペインやイタリアで起こっていることを見ている。良くなさそうに見えるよね。でも、僕たちの国で政権下の人々は、そういったニュースが言うほど極端でないと信じている。多くの学生や若者もそう考えている。僕は家族と自宅にいるようにしているけど、外に出れば通りやレストランはまだ忙しそうにしているよ」

今後リーグ戦中止の可能性は?

カルロ・ブルシッチ
【写真:Karlo Brucic/FC Dinamo-Minsk】

 サッカー界の動向をつぶさに追っているだけあって、ブルシッチも状況を慎重に見極めようとしている。「これからベラルーシで新型コロナウィルスが広がって状況が悪化することへの不安はあるか? その場合、あらゆる可能性を検討しなければいけないとも思うが」と問うと、彼は次のように話してくれた。

「君の言う通り、どんな可能性も考慮しなければならない。でも、僕たちは彼ら(リーグや連盟)が言ったようにやっていく必要がある。でも、もし新型コロナウィルスの感染が広がっていくようなら、大会を取りやめることも考えるべきだと思う。僕らはみんな、あのウィルスによって影響を受けている世界中の国々と同じ状況にいるんだ」

 今の世界情勢を考えれば、ベラルーシリーグもいつ中止や延期になるか不透明な状況だ。国内でも感染者は徐々に増えてきている。その中でブルシッチも「ウィルスの波がすぐに通り過ぎて、より悪い状況にならないことを願っている」住民の1人。近いうちにピッチ上でプレーできない時が訪れるかもしれない。

 このように決して楽観視はできず、日常生活にある程度の制限がかかって我慢が必要な状況でも、ブルシッチは古巣の鳥栖サポーターや日本のサッカーファンのことも気にかけてメッセージをくれた。それを最後に紹介して本稿の締めとしたい。

「今は全てを楽しめているよ。ディナモ・ミンスクはいいクラブで、大きなスタジアムもあって、素晴らしいファンのみんなもいる。日本やサガン鳥栖では素晴らしい日々を過ごすことができた。残念ながら監督交代もあっていい結果は出せなかったし、僕自身も退団するまでの2ヶ月間は怪我もあってプレーすることができなかった。でも、ファンの皆さんから受けた応援や、日本の人々、文化を僕は愛しているし、いつの日かまた日本を訪れるつもりでいるんだ」

「日本の全ての皆さんが新型コロナウィルスにかかることなく、健康であり続けることを祈っている。そしてフットボールのある日常が戻ってきた時には、昨季と同じような応援をしてほしい。本当に素晴らしかったからね」

(取材・文:舩木渉)

【了】

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