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マンCはなぜ試合を支配できなくなったのか?(1)。圧倒的強さを支えていたゲーム支配の構造とは

マンチェスター・シティが苦しんでいる。いったい誰がペップ・シティの凋落を予想できたであろうか。シティお得意の“ゲーム支配”ができなくなった要因を究明した2/6発売の『フットボール『戦術』批評』から一部を抜粋して全2回で公開する。今回は第1回。(文:龍岡歩)

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

プレミアを苦しめたシティの代名詞5レーン

ジョゼップ・グアルディオラ
【写真:Getty Images】

 そもそも昨季までのシティが見せていた圧倒的な強さの秘密はその“ゲーム支配”にあった。ボール支配ではない、試合構造そのものを自分たちのコントロール下に置くゲーム支配である。

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 フットボールにおいてボール支配率だけを上げることは、実はそれほど難しいことではない。

 だがポゼッションフットボールを掲げ、ボール支配を主眼に置いたチームの多くがその実ボールを動かすこと自体が目的化してしまい、ゴールへと向かわないポゼッションからカウンターを食らい続けていった死屍累々の上にごくわずかな勝者のみが立っているのが歴史の実情である。ペップのシティはまさにその頂点に立っていたチームだった。

 彼らがその他多くのチームと一線を画していたのはボールを動かすことはあくまで手段であり、その目的は相手を意のままに動かすことで組織をバラバラにし、最終的にはフットボールをできない状態に追い込んでいくことであった。

 具体例を一つあげよう。シティの代名詞である5レーンは当初、4バックが主流のプレミアで多くのチームを苦しめていた。

 ピッチの横幅68mを4枚で守る4バックに対し、前線の5枚で位置的優位と数的優位を作り、SBとCBの間のいわゆるハーフスペースに向かって人を走らせる狙いは端的に言えば、最後の砦となる相手CBを動かしてゴール前からどけることにあった。

 4バック相手にボールサイドのSBに加えてCBまで釣り出した状態さえ作れれば、例えばデブライネの高速グラウンダークロスを上げたときに残っているDFは逆サイドのCBとSBの計2枚。対してシティはCF+IH+WGの3枚がゴール前に構えており、3対2の数的優位の状態だ。

 この構造を再現性を持って作り出すことでデブライネのインナーラップから高速クロス→大外で余っていたWGスターリングがフリーで流し込む、というシーンがまるでリプレーのごとく毎試合のように見られることとなる。

相手を亀にしてしまうシティの支配力

 だが次第にシティと対戦するチームもその狙いが分かってくると、「どうやらCBで対応するのはマズいらしい」という共通認識が生まれ、インナーラップには基本的にボランチやSHの中盤がついていく対応策を取るようになる。

 これで一見、クロスに対してもゴール前の人数は足りるようになったが、今度はこの状況からクロスを跳ね返したときにボランチがいるべきスペースでシティにセカンドボールを拾われ続けられる。

 また、せっかくセカンドを拾えてもそこからサイドのスペースに飛び出すべきSHがデブライネのマークで自陣ゴール前まで戻らされたり、結局出しどころを探している間にシティのプレス網に囲まれて気付けば二次攻撃に晒されている……といったシティのゲーム支配構造は揺るぎないものであった。

 となれば、あらかじめ5レーンに対して5枚で枚数を合わせた5バックにしてしまえ……という訳でプレミアの中堅~下位チームで一気に5バックが増加。しかし、4-4-2から中盤を1枚削っただけの5-3-2だと今度は横幅68mを3枚で守らされる2列目の横のスペースを好き勝手に使われる。B・シウヴァやデブライネから高精度のアーリークロスを鬼のように浴びるだけとなり、最終的にはどこも5-4-1で守らされることになっていく。

 こうなるともはや自陣で亀のように守ることだけを目的にした布陣になってしまう。自陣ゴール前で回収したボールを孤立した1トップに神頼みのようなロングボールを送っては難なく回収されるだけの試合構造が、昨季までのシティの試合では恒常的に生まれていたのである。

 これがシティの圧倒的な強さを支えた“ゲーム支配”の一例である。

(文:龍岡歩)

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