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「久保建英にオススメの移籍先は…」。レアル・マドリードで活躍するための理想的な道のりとは?【スペイン人指導者の本音(3)】

新進気鋭のスペイン人指導者が日本にやってきた。弱冠28歳で欧州最高位の指導者資格UEFA PROライセンスを取得し、ダビド・ビジャに見初められて来日を果たしたアレックス・ラレアがスペインサッカー的視点から鋭く日本サッカーに切り込む。今回は久保建英がレアル・マドリードで活躍するための理想的なキャリアパスを考える。(文:アレックス・ラレア)

シリーズ:スペイン人指導者の本音 text by アレックス・ラレア photo by Getty Images

世界最高峰で求められる「キャラクター」

久保建英
【写真:Getty Images】

 今季マジョルカでプレーしている久保建英は、期限付き移籍期間が満了を迎えれば一度レアル・マドリードへ戻ることになります。ですが、もし彼が来季マドリーに復帰したとしても、プレータイムはあまりもらえないのではないかと思います。

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 マドリーには多くの選手がいて、ライバルたちは世界最高峰の質を備えています。彼らのプレータイムを奪うためには、サッカー選手としてのプレーの質とは違うところでも戦わなければならないでしょう。それは何か。例えば選手としての格や知名度、そして何よりもキャラクターが重要です。マドリーにおけるポジション争いでは、どういうプレーをするかよりも、どういう人間であるかがフィーチャーされるようになります。

 久保に必要なのは、何よりも多くの試合経験を積んで、先頭に立ってチームを導くことです。自分に対して圧倒的な自信を持ち、それを周りに浸透させるようなキャラクターを兼ね備えるようになると、マドリーのレギュラーとしてプレーする時が来るのではないでしょうか。

 だからこそ、今は高いレベルの試合をたくさん経験することが重要です。マドリーでプレーするとなれば、とんでもないプレッシャーとも毎日戦わなければなりませんし、そのうえで自己肯定できる圧倒的なキャラクターが必要になります。もっと自分に自信を持って、その自信を見せつけたとしても生意気と思われず、むしろそれが当然であるよう彼自身の選手としての姿が変わってきた時、いろいろなチャンスがやってくるのではないかと思います。

 プレッシャーとうまく付き合いきれないまま終わっていってしまう選手、プレッシャーに押し潰されてクラブから去らなければいけなくなる選手は、大きなクラブに行けば行くほど出てきます。だからこそ久保はいろいろな相手との試合でプレーして、ビッグクラブ特有の巨大なプレッシャーにも打ち勝てるような図太さを身につけ、少しずつ根を太くしていくことが必要です。

来季に向けてオススメの移籍先は…

アレックス・ラレア
レアル・ソシエダの本拠地エスタディオ・アノエタにて【写真:アレックス・ラレア】

 来季マドリーに復帰せず、もう1シーズン期限付き移籍で修行を積むにはどこがふさわしいのか。僕の考えでは、選択肢が2つあります。

 もし1部リーグに残留できるのであれば、もう1年ラ・リーガの選手として、しかも中心選手として、今の環境を維持しながらトップレベルを経験できるという点でマジョルカに残るのはとてもいいことだと思います。これが1つ目の選択肢です。

 もう1つは、よりマドリーに近い環境のクラブでキャリアを築く道です。そのためにはレアル・ソシエダへの移籍はすごくオススメです。おそらく久保のような選手が生きる環境が出来上がっていて、来季はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出られるかもしれません。もちろん僕の地元の大好きなクラブに最高の質の選手がくることとなれば、本当に嬉しいですよ。

 それはさておき、ソシエダは今まさにビッグクラブになるための準備をしている変革期の真っ只中です。トップチームに若手が多く、より優れた選手たちが活躍できるようにクラブとして掲げるゲームモデルに則ったサッカーを展開できる監督(イマノル・アルグアシル=現役時代にソシエダで公式戦100試合以上出場、Bチーム監督などを歴任)を据えています。

 今季で言えば久保と同じくマドリーからレンタル中の、マルティン・ウーデゴーのような選手たちがプレーしやすいような基盤ができています。そういった才能ある優秀な若手がプレーしやすい環境をクラブを挙げて作っているんです。

レアル・ソシエダというクラブ

レアル・ソシエダ
【写真:Getty Images】

 現在ソシエダのトップチーム登録選手22人のうち、カンテラ(下部組織)出身が12人を占めています。毎年25人の枠に対して半分以上がカンテラ育ちになるようにしており、そこにEU圏外からの外国籍選手を3人獲得してきて、相乗効果でより質の高いサッカーを表現することを志しているのです。

 ソシエダのカンテラからはアントワーヌ・グリーズマンやアシエル・イジャラメンディ、アルバロ・オドリオソラ、ミゲル・オジャルサバルといった選手が輩出されていますが、彼らのような優秀な選手を毎年のうように昇格させることを長年続けてきて、ようやく結果が伴うようになってきました。

 最近ではバルセロナですら競争力を保つにはカンテラ出身の選手を大事にすることが難しいくらい、選手の移籍がスタンダードな時代になってきています。一方、ソシエダは長い時間をかけてプロジェクトを続け、やっと芽が出て、いい循環ができ始めたところです。だからこそサッカーは長い循環で物事を見て、トライ&エラーの積み重ねによって、いいものができていくんだと思います。

 話を戻しましょう。実際問題、久保がマドリーのトップチームにたどり着いて、定着し、レギュラーとしてプレーするためのハードルは非常に高いです。でも、彼が常に今のようなトップレベルのパフォーマンスを見せ続けることができるなら、それは難しいことではなく、当然の未来になるのではないかと思います。

 だからこそ、今は試合に出続けることで経験を積んで、自分に対する自信を深めて、マドリーでプレーするための準備を続けて欲しい。まだ若いからこそ、焦る必要はありません。マジョルカでもソシエダでも、また他のクラブでも、まず来季は再び期限付き移籍して、2年後か3年後にマドリーでプレーするチャンスを掴むことができれば理想的と言えるのではないでしょうか。

(文:アレックス・ラレア)

アレックス・ラレア
1991年、スペイン生まれ。地元サン・セバスチャンでサッカーを始め、カナダのモントリオール・インパクトU-23などでもプレーしたのちに現役を引退して指導者の道へ。エキンツァK.E.やアンティゴーコで育成年代を指導し、チーム・個人のパフォーマンス分析の専門家としても活躍している。欧州最高位の指導者資格UEFA PROライセンスを取得し、2020年にダビド・ビジャが日本に設立したDV7サッカーアカデミーのヘッドコーチとして来日。

【了】

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