ミランに何が? 怒涛の逆襲でユベントスも撃破。それでもイブラヒモビッチに募る不安、復権への足がかりは…

現地7日にセリエA第31節が行われ、ミランが首位ユベントスに4-2の大逆転勝利を収めた。2点差からおよそ15分間でスコアをひっくり返した勢いはどこから来ているのか? そして、復調の立役者となっている、あの男の将来はどうなるのか? 復権への道のりを歩み始めたミランは、まさに今、昔話になりつつあるかつての栄光を取り戻せるかどうかの岐路に立っている。(文:舩木渉)

2020年07月08日(Wed)11時29分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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今季4度目のミランvsユーベ

ズラタン・イブラヒモビッチ
【写真:Getty Images】

 むかしむかし……世界的なスーパースターを揃えて栄華を誇ったACミランというクラブがありました…。

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 もはやセリエA屈指のスター軍団として世界最高峰と名高かった時代は、昔話のように語られてしまうようになった。盛者必衰。一時代の終わりとともに財政難に見舞われ、クラブの身売り問題や内部分裂も起こり、今のミランにかつての輝きはない。最後のセリエA制覇は9年前で、ここ6シーズンはトップ4にすら入れなくなっている。

 最近セリエAの公式YouTubeで公開された特集動画の中で、ミランOBの元イタリア代表DFフランチェスコ・ココは「私がファビオ・カペッロの下でデビューした1995年、あの頃のミランにはたくさんの偉大な選手がいて、あれほど若くして初めての試合に出るのは簡単ではなかった」と語っていた。

 ココが18歳でトップチームデビューを果たした頃のミランには、ロベルト・バッジョやフランコ・バレージ、パオロ・マルディーニ、ジョージ・ウェア、デヤン・サビチェビッチ、マルセル・デサイーなど錚々たるメンバーがいた。他にも名前を挙げればキリがないほどだ。

 今のミランには、彼らと比較できるようなスター選手はほとんどいない。だが、当時と変わっていないこともあると、ココは言う。「ミラン対ユベントスは、イタリアで最も重要な試合だろう。国内で最も成功を収めた2つのクラブだ」と。

 もちろん「ミランは2007年にチャンピオンズリーグ(CL)を獲得してから毎年のように落ちぶれていった。その間にユーベはより組織として成熟し、毎年のように成長を重ねてミランとは正反対の道を歩んできた。それがピッチ上にも現れている」と、この十余年で両者の間に大きな差ができてしまった事実も認めている。

 とはいえ、両者の差は徐々に埋まりつつあるかもしれない。ミランとユーベは今季、すでに3度対戦している。リーグ前半戦のマッチアップはユーベが1-0で制し、コッパ・イタリア準決勝で対峙した際は1stレグが1-1、2ndレグが0-0と2試合連続ドローだった(アウェイゴール差でユーベが決勝に駒を進めた)。

 そして現地7日に行われたセリエA第31節で、今季4度目の「イタリアで最も重要な試合」が行われた。直前に2位ラツィオが残留争いの渦中にいるレッチェに敗れて星を落とし、ユーベにとっては勝って首位の座を盤石にしたい状況。ミランはヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得に向けてローマやナポリにプレッシャーをかけられるチャンスだった。

2点差から怒涛の逆襲

 前半は両者一歩も譲らず、真正面からぶつかり合って拮抗した展開となった。今季これまでの対戦と同様、ロースコアゲームとなって後半に1点が勝敗を分けるだろうと思われていた。

 ところが後半に入ると早々に試合が大きく動く。47分、右サイドからドリブルで一気に駆け上がってきたアドリアン・ラビオが、左足で強烈なミドルシュートを叩き込み、ユーベが先制に成功する。

 さらに53分、右サイドバックのフアン・クアドラードがロングパスを前線に送ると、ミランのDF陣が処理をミスしてしまい、ボールはクリスティアーノ・ロナウドの足もとに渡ってしまう。そして絶対エースが落ち着いてシュートを流し込み、ユーベはたった5分ほどでリードを2点に広げた。

 もはや勝負ありか……。そう思われていた悪い流れを、ミランは自力で断ち切った。

 アンテ・レビッチのヘディングシュートがユーベの主将レオナルド・ボヌッチの腕に当たってしまい、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の確認と助言によってミランにPKが与えられる。それをズラタン・イブラヒモビッチが難なく沈め、62分に1点を返す。

 そして直後の66分、フランク・ケシエが自ら起点となったプレーから細かいパス交換でペナルティエリア内に侵入し、ヴォイチェフ・シュチェスニーの守るゴールを破って同点に追いつく。オシャレなフリックパスでコートジボワール代表MFのゴールを演出したのは、イブラヒモビッチだった。

 この同点弾で勢いづいたミランはもう止まらない。自信を失いつつあったユーベを尻目に、ピッチ中央からカウンターを繰り出し途中出場のラファエウ・レオンがゴールネットを揺らす。この逆転ゴールは2点目の直後、67分に生まれた。

 80分には自陣ゴール前を横切る形になったアレックス・サンドロの不用意なサイドチェンジをジャコモ・ボナベントゥーラがカットし、ゴール前でフリーになっていたレビッチがやすやすとフィニッシュ。一気に4つのゴールを奪ってユーベを突き放した。

 終盤にはボールキープで時間を使う余裕すら見せて、4-2としたミランが今季初めてユーベに勝利。後者の4失点ももちろん今季初だ。

 優勝争いはさらに混沌とし、欧州カップ戦出場権争いも激しさを増す。後半だけで6ゴールが生まれるエキサイティングな展開からも、「イタリアで最も重要な試合」と言われる所以が感じられる名勝負となった。

勝利の立役者はやはり…

ステファノ・ピオリ
【写真:Getty Images】

 ミランを率いるステファノ・ピオリ監督も「選手たちが持っていた信じられないほどのスピリットを祝福したい。彼らはこの大きな勝利で報われた。我々は困難に陥っていたが、今はもう全く違う」と、ユーベ相手に勝ち点3をもぎ取った選手たちに惜しみない賛辞を送る。

「我々はチームになった。お互いをよく知っているんだ。(最終節が開催される)8月3日に何が起こるかは、まだ考えていない。私とチームの関係性は良すぎるくらいだからね。ロックダウン中はスタッフの働きも重要だった。不安定な状況下で、(自宅に)トレッドミルやエアロバイクしか持っていない選手も、(オンラインでの)グループセッションに必ず参加していた。今やチームはお互いをよく知り、守備をしている時でさえ積極的な姿勢を見せられる」

 ピオリ監督は新型コロナウイルスの感染拡大で公式戦が中断していた期間を有効活用できたことが、今回のユーベ戦勝利につながったと考えているようだ。確かにリーグ戦再開後のミランは5試合で4勝1敗と絶好調で、ローマやラツィオ、ユーベに勝った。チームとしての一体感は間違いなく結果につながっている。

 そして、やはりユーベ戦勝利の立役者は、何と言ってもイブラヒモビッチだろう。前半から攻撃の起点になるだけでなく守備も怠らず、PKを決めて流れを一変させ、同点に追いついた直後の67分に交代するまで圧倒的な存在感を放った。自らを「神」と称することすらある、38歳のこの男には「盛者必衰」という法則は当てはまらないのかもしれない。

 ただ、来季に向けてピオリ監督同様、イブラヒモビッチの将来も不透明になっている。ユーベ戦後の中継局によるインタビューでは「シーズンの最初から俺と契約していれば、スクデットを獲得できていただろうね」と相変わらずの語り口な一方で、「サン・シーロで生の俺が見られるのは今日が最後だったかもしれない」と、クラブへの不信感すら匂わせる言葉を残した。

イブラとミランの「恋」の行方は?

エンニオ・モリコーネ
【写真:Getty Images】

 ミランはかねてより来季の監督としてドイツ人のラルフ・ラングニック氏の招へいに動いているとされ、パオロ・マルディーニTD(テクニカルディレクター)も職を追われる見込みと報じられている。現経営陣に不満を募らせるイブラヒモビッチは、強化部門の責任者も兼ねるといわれる新監督のチームにいるつもりはないのかもしれない。

「俺が会長であり、監督であり、選手でもある。だが彼らは俺にフットボール選手としての分しか支払っていない。まだ1ヶ月あるから、どうなるか見てみようじゃないか。(新監督問題は)俺たちがコントロールできるものではない」

 この「神」の言葉からは、自らに敬意を欠くフロントの姿勢への批判がうかがえる。ピオリ監督が誇るチームの中心にいて、なおかつ勝利に直結するパフォーマンスを見せられる。イブラヒモビッチはユーベ戦で改めて自然界の法則すら超越しつつあるオンリーワンの存在であることを証明した。若い選手も多い今のミランにおいて、復権の象徴として先頭に立つこともまだまだ期待できるだろう。

 このまま報道の通りに事が進めば、せっかくできてきた名門復活への流れを断ち切ってしまいかねない。ピオリ監督のチーム作りも、相思相愛だったはずのイブラヒモビッチとの関係も全てが無に帰することになっては、あまりにも損失が大きいことを経営陣はどれほど深刻に受け止めているのだろうか。

 フットボールを愛する者には堪らない名勝負となった今回のミラン対ユーベは、現地6日に91歳で亡くなったイタリア映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネさんに捧げられた。選手入場時には名作映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』から「デボラのテーマ」が流れ、厳かな雰囲気を醸し出していた。

 映画で主人公ヌードルスと幼馴染デボラの恋は悲惨な形で終わりを迎えてしまうが、現実世界でイブラヒモビッチとミランの「恋」はどうなってしまうのだろう。「お別れよ……」と、どちらかが悲しい運命を告げることになってしまうのか。続きが気になって仕方ない。

 名曲とともに始まった熱い一戦を見ながら、ついサッカーと映画を重ね、そんなことを考えてしまった。でも、やはり何事にも終わりがくるのかもしれない。Ciao Ennio. 安らかに。

(文:舩木渉)

【了】

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