「本田圭佑超え」は必須。橋本拳人はロストフから飛躍できるか? 元U-21ロシア代表が将来性を分析

欧州サッカー界では早くも2020/21シーズンが始まっている。他国に先駆けてロシアプレミアリーグが現地8月8日に開幕した。FC東京からFKロストフに移籍した橋本拳人も、FKタンボフ戦に途中出場して新天地デビューを果たしている。海外初挑戦の日本代表MFはロシアで飛躍できるのか。その将来性をU-21ロシア代表歴を持つ元プロサッカー選手に分析してもらった。(取材・文:舩木渉)

2020年08月09日(Sun)10時23分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images, Shinya Tanaka
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橋本拳人が参戦。ロシアリーグ開幕

橋本拳人
【写真:田中伸弥】

 この夏の欧州サッカーは文字通り休みなしだ。まだ2019/20シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)が終わっていない中、一方で早くも2020/21シーズンが始まった国もある。

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 例えばベルギーやロシアなどでそれぞれの1部リーグがすでに新シーズンの開幕を迎えた。FC東京からFKロストフに移籍した日本代表MF橋本拳人も、現地8日にFKタンボフとのロシアプレミアリーグ開幕戦に臨んだ。

 ベルギーリーグは新型コロナウイルス感染拡大にともなって途中終了していたが、ロシアプレミアリーグは6月下旬に再開して全30節を消化した。最終節は7月22日に行われたばかりで、前シーズンの閉幕からわずか2週間半のインターバルを挟んでの2020/21シーズン開幕だ。

 もともと冬に長期間の中断がある関係で、例年であれば7月中旬から下旬にかけてがロシアプレミアリーグのシーズン開幕になる。遅れているといえば遅れているのだが、実質的にプレシーズンなしで始まるリーグ戦は異例だ。移籍マーケットもまだほとんど動いていない。

 ロストフも夏の新戦力はレンタル復帰組を除けば、現時点で橋本とマケドニアから加入した19歳のFWダビド・トゼフスキ、ロシア2部のアヴァンガルド・クルスクから獲得した20歳のDFコンスタンティン・コヴァロフ、1部昇格組のヒムキから引き抜いたDFアレクサンドル・スミルノフの4人のみ。実質的に即戦力は橋本とスミルノフのみというのが現状だ。

 では、橋本はロシアプレミアリーグで活躍することができるのだろうか。そして、さらなるステップアップの可能性はあるのか。ロコモティフ・モスクワやルビン・カザンといった強豪クラブでのプレー経験を持つ元U-21ロシア代表FWゲオルギ・ヌロフに分析してもらった。

「ロシアで最も有名な日本人選手は、間違いなくCSKAモスクワでプレーしていた本田圭佑です。日本からやってきた選手は、誰もが多かれ少なかれ本田と比べられることになると思います。

ロシアの人々は日本やJリーグ、日本人選手のことをあまり知らないので、温かく迎えられると同時に大きな関心が集まり、好奇の目にも晒されるでしょう。その中でも橋本が優れた選手であることを自らのパフォーマンスで証明すれば、ロストフで特別な存在になれると思います」

強力なライバルたちが揃うロストフ

 橋本はロシアプレミアリーグでプレーする6人目の日本人選手になった。松井大輔や巻誠一郎、赤星貴文、西村拓真もロシアの地でピッチに立ったが、やはりCSKA時代の本田の活躍は鮮烈だった。果たして初の海外挑戦となる26歳の日本代表MFにどれほどのポテンシャルがあるのか、ヌロフは次のように語る。

「映像を見させてもらいましたが、橋本はロストフに大きなプラスをもたらすと感じました。中盤にはロマン・エレメンコやパヴェル・ママエフ、イヴェリン・ポポフといった国内屈指のタレントが揃っていますが、そこでレギュラーの座を勝ち取ることができれば、彼にとって非常に大きな経験となるでしょう。

両国の文化や言語面には違いが大きいため、日本からロシアへやってくる選手は多くありません。でも、日本人選手らしいハードワークやメンタリティは橋本の助けになるはずですし、ロストフでも尊敬されると思います。彼の中盤でのボール奪取力や運動量、危機察知能力の高さは非常に魅力的です」

 ロストフの中盤には先述の通りフィンランド代表のエレメンコ、ブルガリア代表のポポフ、元ロシア代表の――産業貿易省の韓国系ロシア人官僚への暴行罪で11ヶ月の服役経験を持つ――ママエフといった経験豊富なベテランが揃う。他にもノルウェー代表のマティアス・ノーマンや20歳のU-21ロシア代表ダニル・グレボフなど若い選手も存在感を示してきた。

 ヌロフが「非常に賢く、野心があり、他のロシア人監督よりもモダンなスタイル」と語るロストフのヴァレリ・カルピン監督は4-3-3をベースに、西欧の流行に則った戦術を展開する。相手陣内ではボールのあるサイドに布陣全体を寄せてハイプレスを仕掛け、自陣まで運ばれた際は4-3-3(時に4-5-1)の3ラインをコンパクトに保って構える臨機応変な守備戦術は2019/20シーズンのチームに非常によく浸透していた。

 橋本はまずカルピン監督が練り上げたチーム戦術の要点を体得し、各国代表クラスがしのぎを削る競争に割って入っていかなければならない。リーグ開幕戦では中盤にノーマン、ポポフ、ママエフの3人が先発起用され、ベンチスタートになった橋本は後半終盤の83分から途中出場した。

 まだ適応のための時間が必要ということもあるだろう。リーグ開幕戦に先発した3人がそのまま1年を通して固定されるわけではなく、ポジション争いは始まったばかり。練習から真摯に取り組めば、橋本にもより長い時間プレーする機会が与えられるはずだ。

 そしてチームとして予選3回戦から参戦するELで本大会出場権を掴み取れれば、ロシアの外の欧州サッカー界にアピールする大きなチャンスもある。

何よりも重要なのはEL本大会出場

ヴァレリ・カルピン
【写真:Getty Images】

 この欧州カップ戦にも出場できる環境こそが、橋本が飛躍するためにも非常に重要だとヌロフは考えている。

「今のロストフは非常に興味深い補強方針を掲げていて、世界中にスカウト網を広げています。橋本もその一環で獲得された選手でしょう。チームにはロシア人の若いタレントの他にもウズベキスタンやブルガリア、ノルウェー、カザフスタンなど外国人選手が続々加入しています。クラブをあげて野心的なプロジェクトを進めているのだと思います。

ロストフには代表選手が多く在籍していますし、彼には明るい将来を手に入れるためのチャンスを与えるはずです。ELにも出られますから、その大会で橋本とクラブが成功を収めれば、より大きな欧州のクラブへステップアップするチャンスも増えると思います」

 ただ、ロシアリーグから西欧のクラブへ移籍していく選手はまだまだ少ない。現在のロストフでは2019/20シーズンにリーグ戦で11得点を挙げたウズベキスタン代表FWエルドル・ショムロドフのベルギー移籍が取り沙汰されているくらい。周辺諸国に比べて給与水準が高いこと、また特にロシア人選手は言語や文化面での障壁が低くないことも国外移籍が少ない原因だろう。

「この国のサッカー界は海外からの影響をもっと柔軟に受け入れる必要があります。ロシア人やロシアのクラブの経営陣は非常に保守的です。地元自治体がクラブを財政的にバックアップしていることも原因の1つだと思います。

基本的にはみんなお金のためだけに働いているので、クラブの経営者たちはより大きく発展していくことに関心がありません。そして、結果が出なければすぐに方向性を変えようとします。

ロストフに関して言えば、カルピン監督は現役時代にスペインでプレーしていて西欧の事情にも精通していますし、価格とクオリティを十分に考慮して最善の選手を獲得しようとしていると思います。ただ、クラブとして世界中で認知度を高めようとまではしていないと思います。だからこそ、その先を目指すならELが重要になります」

 橋本はロストフに4年契約で加入した。移籍時には1億円を超える違約金が支払われているとも伝えられている。この新型コロナ禍で、シーズン終了を待たずにロシアリーグでの経験がない26歳の成熟した選手に大金を投資するリスクは大きい。

橋本拳人に求められる「本田超え」

橋本拳人
【写真:田中伸弥】

 やはり世界中を見渡しても30歳が近い選手に進んで高額な移籍金を投資したがるクラブはないし、今年の新型コロナウイルス感染拡大の影響でどの国のクラブも少なからず財政的なダメージを受けている状況ならなおさらだ。裏を返せばそれだけクラブからの期待が大きいということにもなる。

 ただ、本田が27歳でミランへ移籍できたのは、ちょうどCSKAとの契約が満了になって移籍金が必要なかったからというのも要因としてある。すでに20代後半の橋本がロシアから西欧のより高いレベルのリーグにステップアップするチャンスを掴むために時間はほとんど残されていないと考えていい。

 向かう先が険しい道のりでも、ヌロフは「Jリーグはロシアで過小評価されていると思います」と橋本の実力を疑っていない。「僕は昨年11月に日本を訪問してJリーグを観戦して感銘を受けました。J2の試合も見ましたが、あれほどのクオリティの高いサッカーを展開していて、なおかつ毎試合ファンがスタンドを埋め尽くしたスタジアムでプレーできる選手が羨ましいです」とも語っていた。

「橋本の移籍と、ロストフでの活躍によって日本の皆さんがロシアに関心を持ち、ロシアサッカーについても知ってほしいと思っています。ロシアリーグでは非常に優秀な選手たちがプレーしていますし、実は『Jリーグでプレーしたい』と望む選手の声も数多く僕の耳に入ってきています。そういう選手たちは他の大勢と違って、お金よりも競技面での挑戦を求めていますね。

橋本がロストフでいい活躍を見せれば、他のより高いレベルのリーグへステップアップできるでしょうし、ロシアのクラブもJリーグのことを適切に評価して、今後日本からロシアリーグへの移籍も増えるかもしれません。そして、逆にロシアから日本へ活躍のチャンスを求める選手も増えていけば面白いのではないでしょうか」

 橋本がロシアからさらなるステップアップを目指すなら、短期間での「本田超え」が必須になる。ロシア国内で「日本人といえば本田」から「日本人といえば橋本」と評価を一変させるくらいの強烈なインパクトを残さなければならない。

 挑戦は困難を極めるだろうが、壁を越えた先には選手としてのさらなる高みが見えてくるはずだ。橋本はタンボフ戦では83分から途中出場してロシアリーグデビューを飾ったものの、ボールに触る回数は少なく、1-0の勝利に直接貢献できたわけではなかった。

 それでも球際での勇敢さなど魅力の一端は示せていただけに、少ない時間でも「橋本ここにあり」を現地のファンや識者たちにアピールし続けてもらいたい。

 なお、ロシアプレミアリーグは昨季途中から国外向けにYouTubeのリーグ公式チャンネルでフルマッチ配信が行われており、新シーズンも継続されている。見逃し配信であればロストフ戦も無料で視聴可能だ(ライブ配信は有料のチャンネルメンバーシップ加入が必要)。

 日本からもぜひ橋本のプレーに注目し、ロシアリーグにも触れてみてはいかがだろうか。ロストフは現地15日(日本時間16日2時)開催予定の次節、開幕から2戦目でいきなり王者ゼニトとの大一番に挑む。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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