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マンUは一転、大失敗の可能性も? 世界最高峰の逸材獲得なるか。交渉決裂なら…【プレミアBIG6補強戦略(3)】

今夏は昨年までの移籍市場とは状況が違う。新型コロナウィルスの影響で、財政難に苦しむクラブが多く、売りたいチームが多い一方で、買い手側のクラブで資金が潤沢なのはごく一部。そのため多くの交渉が非常に難しい状況になっている。あるいは資金を準備できず、トレードでの移籍も増えそうな夏でもある。一方で補強の動きを止めれば、チームの新陳代謝が止まってしまう。各クラブ工夫を重ねて強化を成功させようとしている。そんな特別な夏におけるプレミアリーグBIG6の補強はどうなっていくのだろうか。今回はマンチェスター・ユナイテッドを解説していく。(文:内藤秀明)

シリーズ:プレミアBIG6補強戦略 text by 内藤秀明 photo by Getty Images

チーム状況

マンチェスター・ユナイテッド
【写真:Getty Images】

 監査法人「デロイト」が発表した「デロイト・フットボール・マネー・リーグ」の最新版によると、マンチェスター・ユナイテッドの2018/19シーズンの売り上げは、サッカークラブの中で第3位。バルセロナ、レアル・マドリードに次いでの順位である。基本的にユナイテッドは他のプレミアリーグに比べて金銭面で余裕がある側のクラブのはずだ。

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 米メディア『The Athletic』によると、ユナイテッドは未曽有のコロナ禍で大きなダメージを受けており、財政状況の先行き不透明ではあるものの、とはいえシティやリバプールに追いつく野心があり、多額の投資を行う予定だという。

監督の方針

オーレ・グンナー・スールシャール
【写真:Getty Images】

 そんな中、スールシャール監督は4-2-3-1を基本システムとしつつ、来季もボールを保持して圧倒する戦い方を目指す見込みだ。ポール・ポグバが負傷中かつ、ブルーノ・フェルナンデス獲得以前の2019年のサッカーは、試合を支配することができずカウンター一辺倒だった。

 しかし今では彼らの活躍もあり戦い方は大幅に変容した。特に中断明けは、二人の司令塔の活躍に呼応してか、アントニー・マルシャル、メイソン・グリーンウッドら他の選手たちも躍動するようになっている。

 とはいえ課題もある。守備には複数の戦い方の選択肢がある一方で、攻撃面ではスタメンに選んだベストメンバー以外では、レベルを落とさず違う戦い方を披露することができていない。オーレ・グンナー・スールシャールは戦術家タイプの監督ではなく、どうしてもスカッドのクオリティがそのままピッチ内の結果に直結してしまう。

 正確にいうとビルドアップの面に関しては、器用なルーク・ショーに偽SBさせるなど、選手の特性にあわせて戦い方を変更する采配を見せているが、ショーが怪我した時の第二、第三の選択肢までは準備できていないのが現状だ。またラストサードの崩しに関しては、かなり選手たちに任せている印象である。

 いずれにしても、現在のスタメンと変わらないレベルのアタッカーが、スールシャール監督にはもう少し必要だろう。

退団が予想される選手

 資金が他のクラブに比べて潤沢とはいえ、決して湯水のように沸いてくるわけではない。大型補強を成功させるためにも、何人かの選手の売却を決めないといけない。そんな中で最優先タスクをユナイテッドは既に終了している。

 それはアレクシス・サンチェスの売却だ。

 2018年の冬にヘンリク・ムヒタリアンとのトレードで、アーセナルから加入したチリ代表FWは、チーム内で最も高い週給39万ポンド(約5400万円)で契約。年間計算で28億円もの給与を得たサンチェスだが、新天地では本領を発揮できなかった。結果2019/20シーズンはローンでインテルに移籍することに。

 ただし幸いなことにイタリアの地では一定の活躍をしたこともあり、そのままこの夏、契約期間は残っていたが移籍金ゼロでの完全移籍でインテルに加入することが決まった。ユナイテッドとしては決して投資金額分を回収できたわけではないが、マンチェスターの地で良くなる見込みがなかっただけに、今回は損切りを受け入れた形だ。

 他にも退団の噂が出ているのは、サンチェス同様、イタリアの地で活躍を見せたクリス・スモーリングだろうか。昨季ローンで加入したローマが移籍先の第一候補として上がっているが、ローマ側が財政難ということもあり、交渉は難航。ただし『The Athletic』によると、他のイタリアのクラブもスモーリングには興味を示しているという。

 なおこのイングランド代表DFだけでなく、2020年冬にインテルへ移籍したアシュリー・ヤングもイタリアの地で成功したこともあり、同じくイングランド代表DFのフィル・ジョーンズも、イタリア方面から興味を示されているという。

 他に退団する可能性が高い選手でいうと、昨季の冬に、代理人をミノ・ライオラに変えたジェシー・リンガード、チーム内での序列が落ちているアンドレアス・ペレイラ、ジエゴ・ダロトも退団候補だ。

『マンチェスター・イブニング・ニュース』いわくスールシャールの構想に入っていないマルコス・ロホ、シェフィールド・ユナイテッドからローンバックで戻ってくるGKディーン・ヘンダーソンの影響で序列が落ちる見込みのセルヒオ・ロメロらアルゼンチン人コンビも退団可能性を報じられている。

補強が必要なポジション

 冒頭に解説したチーム状況のため、現在のユナイテッドに最も足りないポジションは、戦術関係なく単独で打開できるような2列目の選手である。

 トップ下はブルーノ・フェルナンデスの他に、ジェシー・リンガード、フアン・マタらがいるので人数は十分。左ウイングはマーカス・ラッシュフォードとダニエル・ジェームズがいる上に、いざとなれトップでプレーするマルシャルもプレー可能なためこちらも人数は足りている。

 なお補足をすると、昨季のジェームズは右サイドで使われることが多かった。しかしメイソン・グリーンウッドが右ウイングとして台頭してきた上に、現在のユナイテッドでは左WGが大外に張り、右WGが中に絞り気味でプレーしているため、香車型のウイングであるジェームズは今後、左ウイングの控えとしての扱われる可能性が高い。

 右ウイングに関してはマタやリンガードもプレー可能とはいえ彼らは本職ではない。また現在スタメンのグリーンウッドに関しては、最大の武器がシュートセンスであり、近い将来ストライカーにコンバートされる可能性がある上に、10代の選手を酷使することもはばかられる。

 これらのチーム状況を考えると、今のスカッドにはいないタイプの、右サイドで絞り気味でプレーしてパスワークに絡みつつ、大外で仕掛けることも可能な即戦力のウイングが必要だ。

 他のポジションに関しては、ひとまず全ポジション2人以上のタレントを確保できている。ただCBに関してはワールドクラスの即戦力級を求める声もある。現在のハリー・マグワイアとヴィクター・リンデロフはそれぞれパワーとポジショニングが売りの選手で、素晴らしいパフォーマンスを披露しているが、スピード系の対応を苦手としている。

 控えのエリック・バイリーはスピード型のCBではあるものの、集中力が散漫のためミスが多く、負傷離脱をしている時期も長い。アクセル・トゥアンゼベも身体能力が売りの選手だが、まだ経験不足でスタメン級とは言えない状況である。そのため『The Athletic』によると、カウンターを受けた際にも単独で対応できる身体能力の高いCBを狙っているという。

 さらに細かく指摘するならば、現在ショーが左サイドでこなす偽SBの役割を、左右のSBでプレー可能な控えのブランドン・ウィリアムズやティモシー・フォス=メンサーがこなせていない現状もある。理想を言えば、器用な左SBがもう一枚いればスカッドに厚みが増す。

獲得が決まった選手、噂になっている選手

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【写真:Getty Images】

 ただ現段階では獲得は何も決まっていない。直近のユナイテッドの傾向として、一つのビッグディールに大半の人的リソースを割き、それが決まらなければ他の補強が動かないことが多い。しかも今回目指している大型補強は100億円超えの契約になる見込みのため、なおさらこれが決まらない限り他の移籍は何も動かないだろう。ちなみにその大型補強とは、ドルトムント所属のイングランド代表FWジェイドン・サンチョの獲得だ。

 ユナイテッドがサンチョ獲得のためにドルトムントと交渉しているのは周知の事実だ。ただドルトムント側が、成立するにせよ破談になるにせよ、8月10日までに交渉を終わらせるように要望したこともあり、8月10日を過ぎた時点で破談確定という見方もあった。

 しかし移籍関連情報の信憑性に定評があるファブリシオ・ロマーノ記者によると、現在もユナイテッドとドルトムントの交渉は続いているという。同じく移籍情報に詳しいデイヴィッド・オーンスタイン記者によると、交渉は続いていており、サンチョ自身もユナイテッドへの移籍を希望しているが、このイングランド人アタッカーのプロフェッショナルな性格を考えると、練習をボイコットするなどの強引な手段に出る可能性は低いようだ。

 焦点はユナイテッドがドルトムント側の要望をどこまで飲めるかにかかっている。なお現段階でドルトムントは1億2000万ユーロ(約150億円)の移籍金を要求している。

 サンチョ以外のアタッカーでいうと、バイエルン所属のフランス代表FWキングスレー・コマンや、アストンヴィラ所属のイングランド代表MFジャック・グリーリッシュらの噂も取りざたされているが、現在のところ、現実味のある報道はない。

 ただCBに関しては弱冠ながら現実味のある噂も入ってきた。前述のロマーノ氏いわく、8月中旬時点でリール所属のブラジル人CBガブリエル・マガリャンイスのエージェントにユナイテッドはコンタクトをとっているという。足元の技術があり対人戦も強いレフティーのCBは、ナポリかアーセナル移籍が濃厚と言われていたが、ユナイテッドがそこに割り込んだ形のようだ。

 ただしその後の進捗についての報道は割れており、確かな情報は入ってきていない。記事執筆時点では、先に交渉を始めた上記の両クラブ移籍の可能性のほうが高いのではないだろうか。

最後に

 サンチョの獲得にあまりに時間をかけ過ぎの印象もあるが、今年の移籍マーケットの締め切りは10月初旬と随分先だ。時間の余裕はまだある。とはいえこれだけサンチョの獲得に固執して時間をかけたのだから、獲得できなかった場合、その後のリカバーをよほどスムーズに行わない限り、ユナイテッドの今年の夏の動きには失敗の烙印を押されることになる。

 チーム自体は、リーグ戦を3位でフィニッシュし、攻撃的なサッカーでチャンピオンズリーグ出場権を手にするなど数年ぶりに期待をもてる内容をピッチ上で披露している。フロントはその後押しができるか。非常に重要な夏になっている。今後の動向にも注目したい。

(文:内藤秀明)

【了】

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