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ヴェンゲルとファーガソンがバチバチだった理由「意見するなら日本のことだけにしておけ!」【ヴェンゲルVSファーガソンの20年史 前編】

アーセナルを特集した好評発売中の『フットボール批評issue29』から、プレミアリーグの2大巨頭、アルセーヌ・ヴェンゲルとアレックス・ファーガソンの舌戦をヴェンゲル愛を持って読み解いたキムラヤスコ氏の「ヴェンゲルVSファーガソンの20年史」を一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:キムラヤスコ)

text by キムラヤスコ photo by Getty Images

キャリア―インテリvs叩き上げ

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【写真:Getty Images】

 ヴェンゲルとファーガソンのことを振り返るにあたり、2人のキャラクターの違いをいくつかのテーマにわけて考えてみたい。
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 ヴェンゲルの生まれ故郷であるストラスブールは、フランス・アルザス地方の中心都市。ドイツとの国境沿いに位置し、フランス語とドイツ語が入り交じる、多言語、多文化な地域性を持つ。

 ビストロを営む家に育ったヴェンゲルは、店に出入りする人々の様子を眺めながら人の心の綾を学び、ストラスブール大学で工学と経済学の学位を取った。サッカーについてはアマチュアクラブではプレーしていたものの、プロの選手だったのは30歳少し手前からの数年間だけ。その後はフランス国内で監督としての経験を積み、日本での1年を経てイングランドに向かう。

 当時、本人は「自分には十分な経験がある」と思っていたというが─考えてみれば、日本に来る前にモナコを優勝させているくらいだからそれも当然なのだけど─彼の着任を報じる言葉は〝Arsène Who?(アルセーヌって、誰よ?)〞だった。

 一方のファーガソンは、スコットランドのグラスゴーに生まれ、造船所の労働者の家で育つ。そしてその境遇を自伝では「恵まれない環境」と表現し、それこそが「成功の秘訣」とも語っている。

 16歳でプロ選手になり、引退後は地元でパブを経営しながらアマチュアクラブを率いて実績を重ね、マンチェスター・ユナイテッドでの貢献でのちに「サー」の称号を得るまでに至った。いわば海千山千の叩き上げ社長みたいなもので、そりゃあ就任当時のヴェンゲルみたいな、中身があるのかないのかわからないのに自信たっぷりなインテリ風情は気に食わなかったに違いない。

 そう考えると、ヴェンゲルがアーセナルの監督に就任したとき「知的な人物で5カ国語が喋れるんだって? でも、コートジボワール出身の少年にだって5カ国語を話せるのはいるからな」と圧をかけてみたり、自身がプレミアリーグの日程がチャンピオンズリーグを戦うクラブにとって厳しすぎると苦言を呈した際、ヴェンゲルがそれを否定したとして「新米に何がわかる! 意見するなら日本のことだけにしておけ」と一喝するのも理解できなくはない。

 もっともヴェンゲル寄りの立場から言わせてもらえば、「5カ国語」発言はヴェンゲルというよりコートジボワールの少年に失礼な気がするし、日程問題については、実はヴェンゲルはファーガソンの発言に100%同意した上で、「でも変えるのは難しいんじゃないか」と言っただけなんだけど……。

 少なくとも「その後、プレミアの日程に文句を言い続けたのは当のヴェンゲルだった」なんてことを、これみよがしに自伝にまで書かなくてもいいじゃないかとは思う(たしかに言い続けたけど)。

(文:キムラヤスコ)

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『フットボール批評issue29』


定価:本体1500円+税

≪書籍概要≫
なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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