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久保建英の先発起用はリスクがある。 なぜベンチなのか…途中出場させるエメリ監督の思惑とは?

ラ・リーガ第4節、ビジャレアル対アラベスが現地時間30日に行われ、3-1でビジャレアルが勝利した。前節から中2日ということもあり、久保建英の先発起用が予想されたが、久保が投入されたのは2点リードで迎えた75分だった。ここまで短い出場時間が続いており、慣れない左サイドでプレーすることも多い。獲得を熱望していたウナイ・エメリ監督は久保の起用について、どのようなプランを持っているのだろうか。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

ビジャレアルは今季2勝目

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【写真:Getty Images】

 ビジャレアルは前節から2人を変更。先発を推す声も大きかった久保建英は引き続きベンチスタートとなり、サムエル・チュクウェゼと負傷したフランシス・コクランに代わってマヌ・トリゲロスとビセンテ・イボーラが先発している。

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 3日前のバルセロナ戦では4失点を喫して敗れた。バルセロナのハイプレスに苦しみ、カウンターから失点を重ねている。とりわけビジャレアルの右サイドは、バルセロナの左サイド、アンス・ファティやジョルディ・アルバに多くのチャンスを作られており、右サイドハーフのチュクウェゼも苦心していた。

 アラベス戦はバルセロナ戦から中2日ということもあり、守備の不安を露呈したチュクウェゼに代えて久保を起用するという予想もあったが、蓋を開けてみれば久保とチュクウェゼはともにベンチスタート。ジェラール・モレーノが右サイドに回り、バルセロナ戦の後半にも見られた中盤3枚の布陣を採用している。

 試合は終始、ビジャレアルのペースで進んだ。3枚の中盤で優位性を保ちながらボールを保持し、前線への縦パスや高い位置をとったサイドバックへ展開、もしくは相手DFラインの裏へボールを供給してチャンスを作っている。

 13分、ダニエル・パレホのスルーパスに反応したマリオ・ガスパールが右サイドの深い位置から折り返し、ニアでパコ・アルカセルがワンタッチでゴールネットに流し込む。36分にGKセルヒオ・アセンホが目測を誤って同点ゴールを許したが、43分にPKを獲得。ジェラール・モレーノがこれを決めると、67分にパコ・アルカセルがこの試合2つ目のゴールで試合の大勢を決めた。

 バルセロナ戦の嫌な流れを払拭する3得点で、ビジャレアルは今季2勝目を挙げている。

久保建英を左サイドで起用する理由

 なぜ久保を先発で起用しないのだろうか。ここまで4試合すべてに久保は出場しているが、4試合すべてで出場時間は20分に満たない。この試合やバルセロナ戦は既に試合の大勢が決まっていたために試合自体がスローダウンしており、その中でアピールするチャンスは限られていた。

 久保自体のパフォーマンスは決して悪くなく、与えられたチャンスの中でできる限りのプレーを見せている。この試合では慣れない左サイドでのプレーとなったが、試合終了間際にはフィニッシュに持ち込む場面もあった。バルセロナ戦でも相手GKを脅かすプレーもあり、チーム内でも一定の評価を与えられているはずだ。

 短いプレータイム、慣れない左サイドでの起用。ウナイ・エメリ監督は、「中盤の3つのポジション(右サイドハーフ、トップ下、左サイドハーフ)でプレーさせたいと思っていることは、久保本人もわかっている」と、その意図を明かしている。そして、「彼と話し合ったプロセスは、彼が快適にプレーできるようになると同時に、様々なポジションに適応していくことだった」とも言っている。

 ビジャレアルの右サイドにはチュクウェゼというスピードを武器に持つアタッカーがおり、この試合のように4-3-3の布陣では、絶対的エースのジェラール・モレーノもいる。2人のレフティーとポジションを争えるだけのポテンシャルはあるが、左サイドでもプレーすることができれば、久保自身のプレーの幅が広がる。もちろん、就任1年目でチームを構築している途中のビジャレアルにとっても、戦術の幅が生まれることは間違いない。

エメリ監督が思い描く起用法は?

 元を辿れば、ビジャレアルに久保の獲得を勧めたのはエメリ本人だ。ビジャレアルにとって例の少ない期限付き移籍での獲得は、指揮官の強い要望なくして実現しなかった。つまり、エメリは久保を軽視しているのではなく、むしろ重要な存在と認めているからこそ、スターターとしての起用に慎重なっているのだと推測できる。

 エメリ監督は、試合前後の記者会見で久保について尋ねられたときに同じ言葉を繰り返している。「適応」「改善」「プロセス」は今の久保における最重要ワードで、そのためにも先発でプレーさせることが最適解ではない、というのがエメリが出した回答である。「ゴールやアシストが常にいいプレーとは限らない。私にとっては彼が何をしたかが重要なんだ」とも言っており、目に見える結果以外の部分も評価していることが窺える。

 もちろん、実践でプレーさせることで、普段の練習では得られない経験値を積むことはできる。しかし、結果が出なかったときに批判にさらされるリスクがあることも忘れてはいけない。

 リバプールで将来を期待される右サイドバックのネコ・ウィリアムズは、先月24日のリーグカップで失点につながるミスを犯した。すると、試合後に心無いコメントがTwitterに届き、プロフィールと背景画像を黒一色に変更する事態へと発展している。とりわけ、SNSが発展した現代では選手本人が批判にさらされるケースも多く、若い選手にとっては成長を妨げる要因になりかねない。

 リバプールほどのビッグクラブではないが、ビジャレアルも国内で上位を争うクラブの1つだ。そして、今や久保は日本国内だけでなく、スペインでの注目度も高い。久保が19歳らしからぬ強靭なメンタルを持っているとはいえ、エメリが慎重になる理由は痛いほどよくわかる。

 ビジャレアルは中2日でアトレティコ・マドリード戦を戦うと、インターナショナルマッチウィークに突入する。その後はUEFAヨーロッパリーグ(EL)のグループステージが始まり、週2試合ペースの過密日程が続くことになる。

 エメリが昨季途中まで指揮を執ったアーセナルでは、ELでチャンスを与えられたブカヨ・サカがブレイクし、主力の1人へと成長した。積極的なターンオーバーが可能なELのグループステージで経験を積んでいけば、チームにおける久保の序列も少しずつ変わっていくだろう。

 ファンにとっては少し、我慢の時間が続く。しかし、エメリの育成プランを修了したとき、久保はより一層ポリバレントにその才能を発揮できる選手へと成長しているかもしれない。

(文:加藤健一)

【了】

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