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ヴェンゲルも信頼した男の最後の声。日本に伝えたいアーセナルとアルセーヌ・ヴェンゲルの真実【アーセナル元番記者の回想(3)】

アーセナルを長年追い続けてきた新聞記者スティーヴ・スタマーズ氏が、アーセナルを特集した『フットボール批評issue29』に寄稿後、急逝した。イギリスから良質な“アルセーヌ・ヴェンゲル論”を届けてくれたスタマーズ氏と長年の付き合いがあり、同稿を翻訳した英国在住のフリーライター山中忍氏に、執筆秘話を語ってもらった。(語り=山中忍、取材:文=小室聡)

text by 小室聡 photo by Getty Images

『フットボール批評』執筆後に逝去

アーセン・ヴェンゲル
【写真:Getty Images】

スティーヴとは日韓W杯の後にベルカンプの記事を執筆してくれる記者を探していた時に、知り合いを通じて紹介してもらったのが最初でした。彼は面倒見が良く親分肌で、僕みたいな一介の日本人記者でもすごくやさしく気を遣ってくれました。記者やクラブからも人望の厚い人物で、仕事に対してもとにかく熱心に取り組む人でした。

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スティーヴは、ヴェンゲルがプライベートの携帯番号を教えていた数少ない記者の一人で、フットボール批評のアーセナル特集号ではヴェンゲルのインタビューを全力でトライしてくれました。

残念ながらコロナが猛威を振るう時期でもリモートでのミーティングなどが詰まっているとのことで丁重にお断りをいただいてしまいましたが、代わりにスティーヴは長年にわたりアーセナルを取材した素材を元に原稿を執筆してくれました。それが、「ヴェンゲルの22年は「うぶ」だったのか」というわけです。

これは後から聞いた話なのですが、スティーヴはブルース・リオクの後任としてヴェンゲルがアーセナルの監督に就任する最有力候補で話を進めているという情報を最初に掴んだ記者でもあったそうです。当時はジョージ・グラハム監督が手堅く勝つサッカーをしていた時代の後だったので、攻撃的なサッカー哲学を持った指揮官を迎えたいというのがクラブの本音でした。イギリス国内ではヨハン・クライフを連れてくるのではないかという噂もあったとか。

その中で、スティーヴだけはクラブとの強いパイプと信頼関係もあって、日本にいるフランス人のアルセーヌ・ヴェンゲルというイギリスでは無名の人間を抜擢するとの情報を真っ先に得ていたんです。

原稿(フットボール批評issue29「ヴェンゲルの22年はうぶだったのか」)の初めに、就任時にヴェンゲルがホテルでチェックインしているくだりがありましたが、実際にスティーヴはヴェンゲルがいたホテルのロビーに一緒にいたのです。想像で書いているわけではなく、スクープ命というのを大切にしていて、人脈やパイプを使って情報を察知し実際に見たことを書いてくれているんです。

アーセナルの全てを知る男のメッセージ

今回、スティーヴの原稿を翻訳して感じたのですが、スティーヴが日本のグーナーに向けて伝えたかったのはヴェンゲル時代のアーセナルはスタイルを重視する見方があり、結果や守備に関しては悪くても目をつぶるというイメージを持っている人が一般的なサッカーファンにもいたと思います。

ただ、ヴェンゲルという監督は決してそんな監督じゃない。彼の中では、守備をおろそかになどはしていなく、内容がよければ試合に勝てなくても納得できるような監督ではなかった。ヴェンゲルはあくまでも勝者だった。いわゆる見た目は良いんだけど、骨がない。そういう見方をされるアーセナル像について、そうではないんだよ、というのをスティーヴは伝えたかったのだと思います。

最後に、フットボール批評がスティーヴの最後の原稿ということで悲しい理由になってしまったのですが、彼にとって特別な存在であり、記者としても一際の情熱を傾ける対象だったヴェンゲルのアーセナルの原稿を翻訳という形で担当できたのは光栄でしたし、改めて“ありがとうございました”とその一言です。

(語り=山中忍、取材:文=小室聡)

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『フットボール批評issue29』


定価:本体1500円+税

≪書籍概要≫
なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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