アーセナル、重戦車トーマスの衝撃。いきなり戦術の要に…柔剛兼備の新戦力が躍動【EL】

UEFAヨーロッパリーグ(EL)のグループステージ第1節が現地22日に行われ、アーセナルはラピド・ウィーンに2-1で勝利した。この試合で移籍後の公式戦初先発だったMFトーマス・パーティは、見事なパフォーマンスを披露し、アーセナルにおける最重要人物たりうる資質を存分に発揮した。(文:舩木渉)

2020年10月23日(Fri)12時14分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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GKのミスに衝撃が走り…

トーマス・パーティ
【写真:Getty Images】

 何事も最初が肝心とは言うが、一番難しいのも最初である。

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 現地22日にUEFAヨーロッパリーグ(EL)のグループステージ第1節が行われ、アウェイに乗り込んだアーセナルはラピド・ウィーンを2-1で下した。

 危うく初戦を落とすところだった。試合を支配しながら、格下のラピド・ウィーンに先制を許したのである。

 後半開始直後の51分、味方からのバックパスをゴール前で処理しようとしたGKベルント・レノが、プレッシャーをかけてきた近くの相手選手に“パス”してしまう、まさかのミス。こぼれ球を拾われ、ラピドの9番、タキシャチス・フォンタスにゴールネットを揺らされた。

 59分にもフォンタスにGK強襲のシュートを放たれた。70分にダビド・ルイスがニコラ・ぺぺのフリーキックに頭で合わせて同点ゴールを奪うまで、ゴール数でもシュート数でもラピド・ウィーンに上回られていたのだから、決していい流れとは言えない。

 74分にはエクトル・ベジェリンの折り返しにピエール=エメリク・オーバメヤンが詰めて逆転し、結果的には勝ち点3を手にした。

 試合後にはミケル・アルテタ監督が「外から見た方が、ピッチ内で実際にやるよりもはるかに簡単に見えることをわかっておかなければならない。彼は(我々の哲学通りに)後ろからつなごうとし、そのための勇気を持っていた」と失点につながるミスを犯したGKレノを擁護したが、煮え切らない勝利だったことは確かだ。

 一方、このラピド・ウィーン戦では大きな成果もあった。それはトーマス・パーティの存在である。夏の移籍市場最終日にアトレティコ・マドリードから新たに加入したガーナ代表MFは、アーセナルでの公式戦初先発のチャンスを与えられて見事なパフォーマンスを披露した。

変則システムの「へそ」として

 アルテタ監督は変則的な選手配置でゲームプランを組んでいた。基本となるシステムは、おそらく4-4-2だっただろう。

 GKレノ以下、4バックは右からセドリック、ダビド・ルイス、ガブリエウ・マガリャンイス、セアド・コラシナツ。中盤には右からニコラ・ぺぺ、モハメド・エルネニー、トーマス、ブカヨ・サカの4人が並ぶ。そして2トップはアレクサンドル・ラカゼットとエディー・エンケティアだ。

 ただ、この並びはあくまで見た目のベースに過ぎず、展開に応じて様々なパターンを見ることができた。

 例えば自陣からのビルドアップ時には両サイドバックが高い位置を取り、エルネニーがダビド・ルイスの右横に降りてパス出しをサポート。するとぺぺ、ラカゼット、エンケティア、サカが4トップのような形で前線に並ぶ3-3-4的な布陣になる。

 逆に自陣でブロックを作る際には、サカが最終ラインに下がるような形で5バック気味になり、エンケティアが左サイドまで降りて、5-4-1のような配置になった。

 基本的にはアーセナルがボールを握り、ラピド・ウィーンが堅く守ってカウンターを狙う展開だったため、押せ押せ状態の時にはセドリックやコラシナツが敵陣のかなり深くまで進出し、3-1-6のような超攻撃的な陣形になることさえあった。

 こうした机上の数字に縛られない臨機応変な戦い方において、常に中央を動かない「へそ」として振る舞ったトーマスの存在は非常に大きかった。すでに攻守のバランスを司る中盤の大黒柱である。

スタッツが物語るトーマスのすごさ

ミケル・アルテタ
【写真:Getty Images】

 データサイト『Sofascore』が計測したスタッツを見ても、トーマスは90分間でタッチ数「102回」、パス成功数「83本」、パス成功率「90.2%」と、セントラルMFとして際立った数字を記録していた。タッチ数はガブリエウに次いでチーム2番目の多さだ。

 さらに守備面に関するスタッツでは、地上戦デュエル勝利「6回」、同勝率「75%」、空中戦勝利「4回」、同勝率「80%」、タックル「5回」と、ディフェンスラインの前に立ちはだかるフィルター役としても十分な数字を残した。

 アトレティコ時代にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で豊富な経験を積み、欧州カップ戦の特殊な環境にも全く動じない強靭なメンタリティも備える。これまでは守備的なイメージも強かったが、近年の成長ぶりは目覚ましく、攻守に高いレベルで貢献できるセントラルMFへと進化を遂げていた。

 この活躍ぶりにはアルテタ監督も賛辞を惜しまない。新天地で初めて先発メンバーに入ったにもかかわらず、まるで周りのチームメイトと長くプレーしていたかのような自然さで与えられた役割を全うした。

「後半、少しオープンな展開になって複数の選手で狙ったスペースに攻撃を仕掛けるチャンスができた時には、トーマスが中盤を1人だけで担うことができていた」

 早々にレノのミスから失点した後、何としてもゴールを奪わなければいけなくなった状況において、「後ろにトーマスがいてくれる」という安心感は他の選手たちに勇気を与えたはずだ。多少無謀でも、とにかく攻撃に集中できる状態をピッチ中央にどっしり構える1人の選手が作り出していた。

「彼は今夜、本当に素晴らしかった。彼からもたらされるものはもっとたくさんある」

 アルテタ監督は過度な期待を押しつけ過ぎないよう配慮する必要があるとは認めつつも、トーマスの存在によって巨大なメリットを享受できると実感している。

 おそらく今後、アトレティコからやってきた屈強な肉体を誇るガーナ代表MFは、アーセナルの新たな象徴としてチームの軸になっていくだろう。エルネニーだけでなく、グラニト・ジャカやダニ・セバージョスなど、相方との組み合わせしだいで与える役割や配置に変化をつけることもできるはずだ。

 加入から短期間で戦術を理解し、チームメイトたちとの関係性を築き、ピッチに立てば誰よりも頑丈で、必要なタスクを忠実にこなす。「柔」と「剛」を兼ね備えたトーマスは、復権を目指すアーセナルにとっての最重要人物となっていくに違いない。

(文:舩木渉)

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なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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