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アーセナル、期待の“ネクスト・オーバメヤン”が初ゴール。今夏放出の噂も…生え抜きFWの将来は?【EL分析コラム】

UEFAヨーロッパリーグ(EL)のグループステージ第4節が現地26日に行われ、アーセナルは敵地に乗り込みモルデを3-0で一蹴した。同時に決勝トーナメント進出も確定させている。この試合ではデビュー2試合目のアカデミー育ちのFWが、トップチームでの初ゴールを挙げた。生え抜きの逸材との契約延長交渉は難航し、将来は不透明なままだが…。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「ネクスト・オーバメヤン」が初ゴール

フォラリン・バログン
【写真:Getty Images】

 アーセナルにとってUEFAヨーロッパリーグ(EL)は、普段出番の少ない選手や若手に実戦の機会を与える場となっている。

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 グループステージ開幕からすでに3連勝していて、チャンスをもらった選手たちもしっかりと結果を残している。今のところミケル・アルテタ監督の意図した通りに物事が進んでいると言えるだろう。

 現地26日に行われたグループステージ第4節のモルデ戦も、これまで同様に先発メンバーの多くはリーグ戦での出場機会が限られている選手たちだった。

 前回対戦時に4-1で勝利していたことも踏まえると、力の差は明らか。それでも前半はなかなかゴールを奪えず、逆にチャンスをいくつか作られた。だが、後半には地力の違いを見せつけるようなゴールラッシュで、きっちり勝ち点3をロンドンに持ち帰ることに成功した。4連勝で決勝トーナメント進出も決めている。

 今回のモルデ戦では、トップチームでの初ゴールを挙げた選手も現れた。19歳のFWフォラリン・バログンは、82分からエディー・エンケティアに代わって途中出場すると、直後の83分にゴールネットを揺らした。

 同じく途中出場のエミール・スミス=ロウの左からの折り返しを、バログンは左足でコントロールしながら素早く反転。ゴール正面から右足のシュートを突き刺した。トップチームデビュー2戦目での初ゴールだ。

 バログンはナイジェリア人の両親のもと、アメリカのニューヨークに生まれ、2歳でイギリスに移住。その後はロンドンで育ち、8歳からアーセナルの下部組織でプレーしてきた生え抜きの逸材として知られる。

 豊かなスピードと高い得点力を備え、伸びやかなプレースタイルも似ていることから「ネクスト・オーバメヤン」と期待されてきた。各世代別のイングランド代表にも名を連ねてきた有望なストライカーだが、なかなかトップチームではチャンスを与えられてこなかった。

 もっと言えば、今夏アーセナルを退団する可能性すらあった。2021年夏に満了を迎える契約の延長をクラブは望んでいたが、交渉は破談に終わって放出される見込みと報じられていた。実際に移籍先の候補とされるクラブも挙げられていたくらいだ。

アルテタ監督の展望は…

 しかし、移籍は実現せず。今季末で切れる契約のまま、アーセナルU-23チームのキャプテンとしてプレーを続けてきた。

 トップチームデビューのチャンスが与えられたのは、先月29日に行われたELのダンダーク戦だった。74分からピッチに送り出されたバログンは、ゴールこそなかったものの、アーセナルでプロサッカー選手としての大きな一歩を踏み出した。

「すごくいい気分だ。この瞬間をしばらくの間待っていた。ついにデビューの時がやってきてすごく嬉しいよ。チャンスを与えてくれたミケルとスタッフたちには感謝しかない。もっと多くの試合でプレーできることを楽しみにしている」

 ダンダーク戦に勝利した後、カメラの前に立ったバログンはようやく訪れたトップチームデビューの喜びを語っていた。

「ここまでくるのは簡単ではなかった。いくつかのクラブのトライアルにも行ったし、アカデミーでは自分のやり方で頑張ってきたけれど、優れた選手になるまでにかなりの時間がかかってしまった。自分自身のパフォーマンスを見せてきて、ようやく(トップチームに)ふさわしいと認められたんだと思う」

 ネクスト・オーバメヤンという期待の通り、アカデミーでは数多くのゴールを決めてきた。2018/19シーズンはU-18プレミアリーグで19試合出場25得点という驚異的な成績を残し、2019/20シーズンはU-23チームが参戦するプレミアリーグ2で15試合出場10得点と印象的な活躍を披露した。

 おそらくトップチームデビューの最も大きな障害となったのは、契約延長問題だろう。それでもアルテタ監督はバログンに大きな期待を寄せ、アーセナルでの将来に疑いはないとモルデ戦後の記者会見で語っている。

「フォラリンはこのクラブに残りたがっている。私は若い選手たちと仕事をするのが大好きだ。才能や野心がそこら中にあるのは、あなた方にも見てわかるだろう。彼は我々の戦い方にフィットでき、将来的にさらなる進歩も見込める。彼はクラブのDNAや私自身の一部でもあるし、契約延長に向けて努力しているところだ」

契約延長拒否。なぜ干されなかったのか

フォラリン・バログン
【写真:Getty Images】

 いまだに今季末で満了となる現行契約の更改は果たせていない。それでも「ここが彼にとって適切な場所だということを納得させようとしている」とアルテタ監督は語る。

 契約を延長しないからといって干すのではなく、期待しているからこそELで出番を与えた。トップチームの公式戦に起用することで、アルテタ監督はバログンに「君のことが必要だ」「君にとってアーセナルは最適な場所だ」と伝えようとしているのかもしれない。

 夏の報道ではバログン側が提示された新契約を固辞したと伝えられていたが、トップチームデビューを飾って初ゴールも挙げ、心境に変化は生まれるだろうか。「彼の周りにはいくつもの憶測があった。だが、彼は本当に成熟したやり方で状況に対処した」とアルテタ監督は語る。19歳のネクスト・オーバメヤンの心は、徐々に残留へ傾いているのかもしれない。

 バログン自身はトップチームデビュー戦となったダンダーク戦後のインタビューで、アーセナルにおける展望を次のように語っていた。

「僕たちは大きなエネルギーを見せていきたいと思っている。僕自身はたくさんのゴールを決めたい。アカデミーで見せてきたようなパフォーマンスを、トップチームにそのまま持ち込んでいきたいと思っている。それが僕がここに来られた理由でもあるしね。僕らしくプレーし続けることが重要だと思う」

 今季終了とともに退団を決意しているような口ぶりではない。バログンは契約延長にサインして、トップチームでの居場所を確立するために戦い続けるつもりなのではないだろうか。仮に契約交渉が失敗に終わり、これだけ才能豊かな若手ストライカーを手放すことになってしまえば、アーセナルにとってはあまりに大きな損失になるに違いない。

(文:舩木渉)

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そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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