急速に世界最高に上り詰めた若者
あるクラブの下部組織で育った選手が、トップチームで最初の一歩を踏み出す姿を目にするのは、フットボールファンにとって最も喜ばしい光景のひとつだろう。
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ではその選手が、わずか2、3年のうちに自らのポジションで世界最高の選手の一人にまで上り詰めることを想像してみるとどうだろうか。21歳の右サイドバック(以下、SB)トレント・アレクサンダー=アーノルドがリバプールで実現させたのはまさにそのような状況だった。
アレクサンダー=アーノルドが2016年にトップチームに登場してきた時点では、この若きSBが現在のような姿にまで成長すると感じられる兆しはほぼ皆無だった。ごくオーソドックスなSBとしてプレーしており、このクラブでファーストチョイスのレギュラーとなるために必要なフィジカルの強さは不足しているように思えた。
トップチームで出場し始めた頃から時折高い技術力を垣間見せることはあり、その力により現代的なSBと評されることにはなったが、それ以上ではなかった。今になって振り返っても、この評価は意外であるとは思えないだろう。
リバプールの下部組織の若手選手時代には、アレクサンダー=アーノルドはさまざまなポジションでプレーしていた。センターバック(以下、CB)でもあり、攻撃的ミッドフィルダー(以下、MF)でもあり、セントラルMF(以下、CM)でもあったが、SBを務めることはほとんどなかった。
実際のところ、本人も最も気に入っているポジションは中盤の中央だと発言しており、いつかはクラブでも代表チームでもピッチの中央に戻ってプレーすることになるのではないかと考える者もいた。
アレクサンダー=アーノルドの恐るべきスキル
早い段階から並外れた才能に恵まれた若手選手にはよくあることだが、精神面もまだ落ち着いておらず、容易に相手選手の挑発に乗せられてしまう時期もあった。「毎日向上を続けていくことに集中しており、私が今までに出会った中でも最も隙のないプロフェッショナルの一人」とユルゲン・クロップ監督に言わしめる現在の姿とは対照的だ。
アレクサンダー=アーノルドはまさに、精神面であれフィジカル面であれ、平均的な成長過程を想定して早い段階で若手選手にレッテルを貼ってしまうことの危険性を示す好例だと言える。
アレクサンダー=アーノルドを中盤センターに移すべきだという声にも一理あるかもしれない。そして、この若いSBの備えるスキルをマンチェスター・シティのケビン・デ・ブルイネと比較する者も多い。だが、そのポジション変更がリバプールの戦術構造全体に及ぼし得る影響を考慮しなければならない。
シティにおいてデ・ブルイネは、中央のエリアでボールを進めて創造的なプレーを生み出す中心的存在として機能しており、それはペップ・グアルディオラがシティで用いているゲームモデルの全体像の一部だ。だが、リバプールでは事情が異なっている。2019/20 シーズンを通して、クロップと彼のコーチングチームは、[4-3-3]の中盤の3人に創造的であるよりも、むしろ機能的な役割を担わせる戦い方を着実に推し進めてきた。
(文:リー・スコット)
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【了】