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セリエA 3年前

ACミランで大爆発、両SBが救世主に。イブラヒモビッチでない男の働きが負のオーラを払拭した【分析コラム】

セリエA第11節、ミラン対パルマが現地時間13日に行われ、2-2のドローに終わっている。負傷者を出し、シュートがことごとくポストに嫌われるなど様々な意味で苦戦したミランだったが、テオ・エルナンデスが救世主となり今季リーグ戦無敗を維持した。苦しい試合をなんとか乗り切ったことで、再びミランの勢いは加速するかもしれない。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

運に見放されたが…

ミラン
【写真:Getty Images】

 もしかすると、ミランは現地時間13日に行われたパルマ戦がカギとなり、再びその勢いを加速させるかもしれない。確証はないが、なぜかそう感じる。

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 リーグ戦3連勝中、そしてヨーロッパリーグ(EL)でもグループリーグ首位通過を決めるなど、ミランはまさに絶好調だった。しかし、ファビオ・リベラーニ監督率いるチームとの試合は、とにかく空気が悪すぎた。今季リーグ戦初黒星を覚悟した方も、多かったのではないだろうか。

 開始わずか5分、ミランはセンターバックのマッテオ・ガッビアが負傷しプレー続行不可能になるアクシデントに見舞われた。そしてその8分後、ガッビアの代わりに入ったピエール・カルルが左サイドのジェルビーニョにつり出され、粘り強く対応するもクロスを上げられる。これをエルナニに押し込まれた。

 いきなり負傷者を出し1点ビハインドを背負ってしまったミランは、当然のことながら反撃に転じる。敵陣深くに入るのはそう難しくなかった。しかし、ペナルティーエリア内に「最低でも」7人を集めるパルマのゴールをなかなかこじ開けられない。どこかモヤモヤした時間が続いていた。

 そして、この日のミランは運にも見放された。23分にはサム・カスティジェホがゴールネットを揺らしたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によりオフサイド判定。さらにブラヒム・ディアス、ハカン・チャルハノールが際どいシュートを放ったが、いずれもポストに嫌われている。

 すると、悪い流れのまま後半に向かったミランは、56分に痛恨の失点。エルナニのクロスをヤスミン・クルティッチに頭で押し込まれてしまった。

 ミランはその2分後にセットプレーから1点を奪い、その後もパルマを押し込んだが、75分に今度はイスマエル・ベナセルが負傷。とにかくこの日はことごとくミランに不運が訪れた。これが「負のオーラ」というものだろうか。

 しかし、ミランは最後に意地を見せた。後半アディショナルタイム、アンテ・レビッチの放ったシュートはGKルイジ・セーペにセーブされたが、こぼれ球を拾ったテオ・エルナンデスがシュート。これがゴール右隅に突き刺さった。

両SBの働き

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【写真:Getty Images】

 土壇場で追いついたミランはこれでリーグ戦無敗を維持。前日にアトレティコ・マドリードがレアル・マドリードに0-2で敗れたため、ミランは欧州5大リーグではロックダウン後唯一の無敗チームとなっている。1年前の今頃にはまったく想像していなかった姿だ。

 さて、運にも見放され2名の負傷者を出すなど、色々な意味で苦戦を強いられたパルマ戦だったが、イブラヒモビッチではない救世主が現れたことが大きかった。左サイドバックのテオ・エルナンデスだ。

 若かりし頃のガレス・ベイルを彷彿とさせるようなスピードとパワーでサイドを制圧し、ゴールネットを突き破るかのような弾丸シュートで結果を残す。まだ23歳と若いテオ・エルナンデスは、その巨大なインパクトで昨季からミランに可能性をもたらし続けてきた。

 そして、このパルマ戦では大爆発。58分にコーナーキックからゴールを決めれば、ATには得意の左足ミドルシュートでチームに歓喜を呼び込んでいる。ちなみにテオ・エルナンデスは2009年10月のキエーボ戦でアレッサンドロ・ネスタが2ゴールを決めて以来、ミランのDFとして初めて2得点を叩き出した選手となっている。

 データサイト『Who Scored』によるスタッツを見ても、DFながらシュート数4本、キーパス2本、そしてドリブル成功数2回を記録するなど、申し分ない活躍ぶりだったのは一目瞭然だ。まさに背番号19の非凡な攻撃センスが、ミランを窮地から救い出した。

 そしてもう一人、触れておくべきパフォーマンスを見せた男がいる。テオ・エルナンデスとは反対の右サイドにいる、ダビデ・カラブリアだ。

 昨季までのカラブリアは、ミランにとって悩みの種となっていた。緩慢な守備が散見され、攻撃時のアクションもそこまで効果的ではない。アンドレア・コンティにポジションを奪われ、ベンチを温めることも少なくなかった。実際、今夏には放出候補にも挙げられていたほどだ。

 しかし、今季はプレシーズンマッチから好調をアピールすると、公式戦でもまるで人が違ったように躍動。放出候補から一転、今やチームには欠かせないピースとなっている。

 パルマ戦でのパフォーマンスもスーパーだった。向上しつつある対人守備を武器に、マッチアップしたジェルビーニョにうまく対応し、決定的な仕事を与えない。攻撃時も積極的な上がりからチャンスの可能性をグッと引き出すパスで存在感を示すなど、左のテオ・エルナンデスほどの迫力はないとはいえ、右サイドから多くのものをチームに提供した。

 データサイト『Who Scored』によるスタッツはパス成功率89%、キーパス5本(チーム内2位)、タックル成功数3回(チーム2位)。攻守両面でよく働いていたことがわかる。勝ち点1奪取には不可欠な存在だったと言えるだろう。

 ただ、2失点目のシーンでは自身の前のスペースをクルティッチに突かれてしまった。エルナニのクロスが上がる際、外側にジェルビーニョがいたことでそちらに意識を向けており、スペースへ走り込むクルティッチのマークはベナセルに任せたつもりだったのだろうが、結果的に意思が合わずフリーにさせた。失点後、カラブリアとベナセルはお互いに向き合い言葉を交わしていたが、このあたりの細かな連係やコミュニケーションは今後の課題となるかもしれない。

ここから勢いは加速するか

 パルマ戦の試合展開は、第7節のエラス・ヴェローナ戦と似ていた。アントニン・バラクの得点、そしてカラブリアのオウンゴールで先に2点を失い、前半のうちに1点を返したものの同点弾が遠い。しかし、後半ATにイブラヒモビッチが一仕事。2-2で試合を終えることになった。

 2点を先に失い、同点弾はATに誕生。ここはヴェローナ戦とパルマ戦でまったく同じだ。しかし、そのヴェローナ戦とパルマ戦で大きく異なるのは、イブラヒモビッチが不在だったということだ。若い力だけで同点に持ち込んだということには、大きな意味がある。

 それも、ただのドローではない。負傷者を2名出し、シュートはポストに嫌われ、反対に相手は数少ないチャンスを決めきる。良い雰囲気がまったくない中で、勝ち点1を奪ったのだ。勝利していないので大きな賞賛ほど意味のないものはないが、これまでのミランであれば確実に負けていただろう。パルマ戦ではチームとしての意地、そして成長を見た。

 冒頭で記した通り、ミランはここから再び勢いを加速させるかもしれない。それは負のオーラが漂っていたパルマ戦で勝ち点をもぎ取ったことで生まれる自信があるはずだから。そしてもう一つ、次節のジェノア戦で神様イブラヒモビッチが戦列復帰することが濃厚だからだ。

(文:小澤祐作)

【了】

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