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エバートンはなぜ? 日本の名将が分析する「戦略」。快進撃の理由を読む【渡邉晋戦略論・前編】

「プレミアリーグ謀略者たちの兵法」と題してプレミアリーグの監督たちを特集した12/7発売『フットボール批評issue30』から、元ベガルタ仙台指揮官で『ポジショナルフットボール実践論』を上梓した渡邉晋氏によるエバートン戦略論を一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:渡邉晋)

text by 渡邉晋 photo by Getty Images

戦術を語る前に大切なもの

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【写真:三原充史】

 今季のプレミアリーグ序盤戦において快進撃を続けるエバートン、その理由はどこにあるのか。ここからはピッチ上における「戦術的な行動」について分析し、攻守における彼らの「狙い」について記していきたいと考えています。

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 しかし、こうした「戦術」を語る前に大切なものがあります。それは、「戦略」です。試合の現象をもとに「戦術」を語る前に大事な要素があるのです。

 なぜ、「戦略」を理解する必要があるのか。クラブ、そしてチームというものは生き物です。チームが置かれている状況やその時々のバイオリズムによってゲームプランを変えることもあるし、変えざるを得ない状況もあります。それらを踏まえて試合を分析しないと本質を捉えることは難しいし、たまたま見たゲームの現象がそのチームのすべてを表すことにはならないのです。

 もちろん、チームとしての基本的な戦い方が大きく変化することがないのが理想ではあります。しかし、明らかに戦力差があり、このゲームは耐え忍んで勝点1でも持って帰れれば御の字、というゲームもシーズンの中には出てくるのです。いわゆる真っ向勝負を避け、目の前のゲームに戦術的変更を加えて挑むことで勝つ確率を上げる。それは強者に挑む立場であれば、ときに必要な選択となるのです。

 それでは、その「戦略」を考えた時に挙げられるいくつかの要素を見ていきましょう。

 第一に挙げられるのがクラブの「ミッション」です。クラブの立ち位置はリーグにおいてどこなのか。その中で、果たすべき「ミッション」は何なのか。これが定まった上でさまざまな準備があり、クラブとチームが一体感を持って進んでいくのです。

 次に、チームの「現在地」。今、チームができていることは何か。できていないことは何か。それに基づく順位はどうか。果たして先に掲げた「ミッション」を達成することはできるのか。状況によっては現実的な戦い方を選択しなければいけないときが訪れるかもしれません。

 さらには、短いスパンでの「バイオリズム」。ここ数試合の勝ち負けはどうか。連勝しているのか、負けがこんでいるのか。怪我人や出場停止の選手が出た時はどうするのか。連戦が続くことを考え、メンバーをローテーションしながら進めていくといった決断も含め、その時々でのマネジメントが必要になってくるのです。

 監督とは、目の前の試合に臨むにあたり、チーム内に生じるさまざまなことを把握し、考慮した上でゲームプランを考えるものなのです。

 このようなものを「戦略」と表現したとき、エバートンにおける「戦略」はどのようなものか。これを語るのはあくまで想像の域を超えませんが、クラブの歴史やここ数年の成績をもとに推測していきます。

エバートンに課せられている「ミッション」とは?

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【写真:Getty Images】

 まず彼らの「ミッション」。アンチェロッティ監督を昨シーズン途中に招聘することによって危機から脱出して残留を果たしたものの、それが、クラブに関わるあらゆる人々を満足させるものではないということは間違いありません。その証しが、今シーズンに向けた補強の面々です。

 それらを考慮すると、おそらくプレミアリーグにおけるBIG6に迫り、あわよくばチャンピオンズリーグ進出を目論んでいるのではないでしょうか。まさに「古豪復活」を果たしたいという表れです。もう少し視野を広げると、新スタジアム完成が見込まれる2023年に向けてチーム力を高め、ここ数年でクラブの価値を一気に引き上げたいという思惑も感じられます。

 それでは、その「ミッション」を果たすべく彼らの「現在地」はどこなのか。先にも触れたように今シーズン開幕前の補強を見る限り本気度が伺えます。「ミッション」達成に向けて準備は整った、と言えるかもしれません。

 そして、いよいよ開幕を迎えます。短期のスケジュールを見ると、トッテナムとの開幕戦を皮切りに、カップ戦を含めると7連戦が待ち構えています。カップ戦はノックアウト方式なので負ければそこで終わりですが、負けを想定してスケジューリングをする監督は世界中探してもどこにもいません。

 10月頭のインターナショナルマッチウイークを迎えるまでの3週間で7試合をこなすスケジュールをどのようにマネジメントするかは大きなポイントです。さらには、その7連戦におけるチームの「バイオリズム」によってどれくらい自分たちの戦い方を貫けるのか、という点もカギになってきます。勝ち続けることができればチームも勢いに乗り、自信を持って突き進むことができるでしょう。しかし、そうではなかったら……。シーズンの序盤ということを考えれば大きな修正や方針の変更はないとしても、さまざまな見極めが必要になる可能性も否定できません。

 結果的に、エバートンはこれ以上ない滑り出しができたため、これから記していく「戦術」的なものに関して試合ごとに大きな変化をする必要がなく、矢印を比較的「自チーム」に向けやすい状況になったと考えられます。

(文:渡邉晋)

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『フットボール批評issue30』


定価:本体1500円+税
プレミアリーグ謀略者たちの兵法

≪書籍概要≫
監督は謀略者でなければならない。それが世界最高峰の舞台であるプレミアリーグであればなおのことだ。さらに中堅以下のクラブを指揮している場合は、人を欺く行為こそ生存競争を勝ち抜くために必要な技量となる。もちろん、ピッチ上における欺瞞は褒められるべき行為で、それこそ一端の兵法と言い換えることができる。
BIG6という強大な巨人に対して、持たざる者たちは日々、牙を研いでいる。ある監督は「戦略」的思考に則った「戦術」的行動を取り、ある監督はゾーン主流の時代にあえてマンツーマンを取り入れ、ある監督は相手によってカメレオンのように体色を変え、ある監督はRB哲学を実装し、一泡吹かすことだけに英知を注ぐ。「プレミアの魔境化」を促進する異能たちの頭脳に分け入るとしよう。



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【了】

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