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セリエA 3年前

ACミラン、この強さは本物だ。1年前はアタランタに0-5、主力複数不在でも「負けないチーム」に【分析コラム】

セリエA第14節、ミラン対ラツィオが現地時間23日に行われ、3-2でホームチームが勝利している。2点リードから追いつかれ、ペースを握られるなど苦しんだミランだったが、後半ATにテオ・エルナンデスが値千金の決勝弾を奪い、首位で年越しを迎えることが確定した。ズラタン・イブラヒモビッチ不在でも勝てる。この強さは本物だ。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

予想を覆す立ち上がり

ミラン
【写真:Getty Images】

 ミランは昨年のリーグ最終戦でアタランタに0-5と大敗を喫し、11位という成績で2020年を迎えていた。その時にズボニミール・ボバンは「素晴らしいクリスマスにはならないね。悲しんで、落ち込むのが正しいよ」とコメントを残している。

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 あれから1年――。アタランタに屈辱的な敗戦を喫していたチームは今、ユベントスやインテルを抑え、セリエA全20チーム中1位につけている。こんなにも変わるのかと、世界中がミランの躍進に驚いていることだろう。

 そんなミランにとって2020年の最終戦となったのが、セリエA第14節のラツィオ戦だった。この試合では、ズラタン・イブラヒモビッチにシモン・ケアー、イスマエル・ベナセルに加え、前節のサッスオーロ戦でイエローカードを受けたフランク・ケシエまでもが累積警告で不在。足に違和感を覚えていたというサンドロ・トナーリが間に合い、アンテ・レビッチが復帰したことは朗報だったが、これまで以上に厳しい戦いになることは容易に想像できた。

 しかしそんな予想を覆すように、ミランは前節のサッスオーロ戦同様、申し分ない試合への入りを見せた。

 立ち上がりからラツィオにボールこそ握られたが、9分に得たコーナーキックのチャンスをレビッチがモノにし1点リード。さらに17分にはレビッチがパトリックのファウルを誘発しPKを獲得。これをハカン・チャルハノールが決めていきなり2点のリードを奪っている。ちなみに、レビッチの得点をお膳立てしたチャルハノールはこれでリーグ戦4試合連続アシスト。『Opta』の集計が始まった2004/05以来、ミランの選手としてセリエAで4試合連続アシストを記録したのはこの男が初めてだったようだ。

 また、セリエAにおけるラツィオ戦で開始20分以内に2点を奪ったのは2005年以来。当時はアンドリー・シェフチェンコとカカが20分以内に得点を記録していた。

 しかし、ミランは27分にピエール・カルルがホアキン・コレアを倒しPKを献上(かなり厳しい判定だった)。チーロ・インモービレの蹴ったボールはGKジャンルイジ・ドンナルンマがセーブしたが、こぼれ球をルイス・アルベルトに頭で押し込まれてしまった。

 2-0はサッカー界で最も危険なスコアとして認知されている。それを証明してしまうかのように、ミランはここからかなり厳しい戦いを強いられることになる。

ラツィオの攻めに悪戦苦闘

 ラツィオはシモーネ・インザーギ監督の下でお馴染みとなった3-5-2システムで、しっかりとボールを繋ぎながら敵陣深くへの侵入を図る。それに対しミランは前節のサッスオーロ戦同様に、相手の中盤と前線の選手に対してはほぼマンマークのような形で対応した。

 ミランは高い位置から人を捕まえに行った。しかし、なかなかボールを奪えない。L・アルベルトやセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチが常に気を利かせパスの預け所を提供していたことが大きく、彼らの巧みなボールコントロールにも手を焼いていたのだ。このあたりは、ボール奪取に定評のあるケシエ不在がかなり悪い方向に響いてしまったと言わざるを得なかった。

 そしてラツィオはウイングバックを効果的に使ってかなり幅をとってきた。前節対戦したサッスオーロはサイドのフィリップ・ジュリチッチもドメニコ・ベラルディも内側寄りにプレーする傾向にあったので最終的に中を締めれば問題なかったが、ラツィオのサイドは幅に加え深さもとる。そこをカバーするため、ミランは全体で大きなスライドを強いられたのだが、それにより所々マークの受け渡しが遅れる、といったシーンが目立った。

 こうしてボールを握られたミランは、59分に同点に追いつかれている。捕まえられずフリーにしてしまったミリンコビッチ=サビッチが起点となり、最後は見事なフィニッシュワークを見せたインモービレに押し込まれた。

 同点に追いつかれた後も、ミランはラツィオに押し込まれる展開が続いていた。当然自陣に侵入されているのでラインは上げられず、それによりセカンドボールもことごとく相手に渡る。疲労の影響とボールを保持できない精神的なストレスもあるのだろう、プレスも全然間に合わなくなってしまった。

 それを大きく証明したのが54分と63分。この二つのシーンでミランは敵陣左サイドに相手を追い込んだのだが、いずれもダビデ・カラブリアの対応が遅れたことでラツィオの選手に逃げられてしまったのだ。

 上記した54分と63分の場面でステファノ・ピオーリ監督は同じように手で「寄せろ!」と合図していた。が、間に合わなかったことでかなり不満そうなアクションを起こしていた。サム・カスティジェホを投入し、右サイドに運動量を増やしたのが64分のことだったので、この二つのシーンがかなり気になったと考えてもおかしくない。

 こうしてラツィオにペースを握られたミラン。後半開始から80分までシュートわずか2本、被シュート数7本、ボール支配率42%ということからも、いかに苦戦していたかがわかるだろう。スコアこそ2-2だったが、いつ逆転されても不思議ではなかった。

ミランは強い

テオ・エルナンデス
【写真:Getty Images】

 しかし、80分過ぎから前掛かりになっていたラツィオを押し込むことが可能となると、後半アディショナルタイムに歓喜。CKからテオ・エルナンデスがゴールを決め、土壇場で勝ち越しに成功したのである。

 このまま逃げ切ったミランは首位で2021年を迎えることが確定。2位インテルとの勝ち点差はわずかに「1」だが、3位ローマとの勝ち点差は現時点で7ポイントとなっている。チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得はもちろんのこと、2010/11シーズン以来となるスクデット獲得にも大きな期待が膨らんでいる。

 さて、年内のミランの試合はすべて終了。冒頭でも少し記したが、昨年の今頃はこんな姿に変化しているとは想像もしていなかった。

 イブラヒモビッチ加入による影響はやはり大きかった。チームとしての同選手を中心とした戦い方がしっかりと固まり、強化すべき点、改善すべき点も明白となった。そしてなんといってもその圧倒的な存在感。数多くの若い選手に勝者のメンタリティをこれほど注入できる人は、イブラヒモビッチ以外には考えられなかった。

 そして、それに応えるように若手が着実に成長。このラツィオ戦含め、ここ最近は苦しい試合が多かったが、今のミランは「負けないチーム」になっている。2-2で終えたパルマ戦も、ジェノア戦も、昨年までであれば落としていただろう。ただ、そこで泥臭くポイントを奪うことができた、また、イブラヒモビッチ不在でも無敗を貫くことができたのは、若手の力がしっかりと芽生えているからに他ならない。もちろん、過密日程でもチームのモチベーションを保ったピオーリ監督の手腕も讃えるべきである。

 先日、ユベントスがフィオレンティーナに0-3と敗れたため、ミランは欧州主要リーグで無敗を維持する唯一のチームに。またこのラツィオ戦で16試合連続複数得点を達成。欧州主要リーグ記録(1948年:バルセロナの18回)まであと2試合に迫っている。この強さは紛れもなく本物だ。

 昨シーズンは年明け以降に調子を上げたが、今シーズンは果たしてどうなるか。ミランには引き続き注目が集まるが、ひとまず、ミラニスタの方は良い年越しを迎えることができそうだ。

(文:小澤祐作)

【了】

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