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ファビーニョはどんな選手? リバプールの心臓、カオスが生まれる瞬間に活きる能力とは【ファビーニョの取扱説明書・前編】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、ファビーニョの取扱説明書を一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

ファビーニョが真価を発揮するのは?

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図51

より高いポジションへと常に移動し続けるチームメイトたちをカバーするという面において、ファビーニョがいかにリバプールにとって重要な選手であるかを示す例を、まずは図51から見ていこう。

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 ファビーニョはその機動力と守備範囲により、相手チームがボールをどうにかクリアできた場合にもポゼッションを奪い返すことが可能であり、リバプールが攻撃を繰り出す上で非常に効果的な基盤として機能する。

 さらにその延長として高いポジションを取ることも可能であり、攻撃のベースとして機能する一方で、攻撃のポイントを切り替えるための後方へのパスコースを提供してボール保持者をサポートすることもできる。

 この例ではリバプールは攻撃に大きなリソースを割いており、5人の選手がペナルティーエリア内やその周辺に位置した上で、他の選手たちもそれをサポートするポジションに入っている。

 リバプール攻撃陣の多くの選手たちが高いエリアにポジションを取っている結果として、当然ながら相手は後退することを強いられ、厚みのない守備陣形を取らざるを得なくなっている。これはつまり、ペナルティーエリア外へボールをクリアすることができたとしても、クリアボールをうまく拾ってボールを前方へ進めていくのに十分な選手が相手チームにはいないということになる。

 そしてここでファビーニョが真価を発揮し、クリアボールをインターセプトできるポジションへと移動する。そこから攻撃の第2波の展開をスタートさせ、ペナルティーエリア内へ侵入していくルートを探ることができる。

 ファイナルサードの広範な領域をカバーし、相手が攻撃に転じようとしたボールを奪い返すことができるファビーニョの能力によって、リバプールはより高い位置で攻撃の陣形を構築することが可能となっている。

 スペースをコントロールすることはファビーニョが現在のリバプールに提供する主要な仕事のひとつだが、素早くカウンタープレッシングを仕掛けてピッチ上の高い位置で積極的にボールを奪いに行くことができる能力も同じくらい重要なものとなる。プレッシングとカウンタープレッシングの持つ大きな意味については以前の章でもすでに触れたとおりであり、この守備面の仕事はファビーニョの働きの中でも重要な部分を占めている。

ファビーニョの存在が重要になる瞬間とは?

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図52

 図52では、ボールを可能な限り素早く奪い返すため、ファビーニョがカウンタープレッシングを繰り出す場面の一例を示している。ボールを持っていたジョエル・マティプは、パスコースの選択肢を提供するためボールに向かって下がってきたチームメイトに向けて、相手のラインの間を抜くパスを出すことを意図していた。

 だが、その場面で出したパスがやや精度を欠いてしまい、カバーに入った相手選手は水平移動してインターセプトに入り、ボールを奪い取ることができた。インターセプトの時点で、リバプールの守備ラインには脆弱さが生まれてしまっている。

 クロップが率いるリバプールの攻撃面のゲームモデルにおいて重要なポイントのひとつは、ボールを保持している局面で素早く前方のエリアに多くの選手を送り込む部分にある。これは相手の守備構造に対して優位を生み出す形をすぐに作り出すという面で効果的ではあるが、一方でカバー不足に陥ることもあり得る。

 もちろん、その守備面のカバー不足は、ファン・ダイクやファビーニョのようなフィジカル能力を備えた選手たちの存在によってある程度は軽減される。広範なスペースをカバーする能力を持ち、危険な展開を事前に予測できるインテリジェンスと直感力を兼ね備えた選手たちだ。

 この例においては、相手選手がボールをインターセプトした時点でファビーニョが反応。攻撃に備えていたポジションから戻ってチェックを仕掛け、相手が最初のパスすら出す前にボールを奪い返してしまう。このようなカオスが生まれる瞬間にこそ、ピッチ上をコントロールできるポジションに選手がいることがリバプールにとって非常に重要となる。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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