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ファビーニョはなぜ不可欠なのか? リバプールを前進させるその能力【ファビーニョの取扱説明書・後編】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、ファビーニョの取扱説明書を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

マイボール時にもプレーを前進させられる

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図53

図53では、ファビーニョがボールを奪い返したあとペナルティーエリアにアクセスできるようなポジションを取っている例をもうひとつ示している。

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 今回はファビーニョがボールを拾った時点で、相手はペナルティーエリアの手前のラインに沿ってコンパクトな陣形を取っており、こじ開けられるスペースはない。ここでファビーニョは単純にボールをペナルティーエリア内へ戻そうとするのではなく、冷静な判断を下し、同じ高さのラインに位置していた左SBとの間で素早いコンビネーションによるパス交換を行う。

 このパス交換には二重の意図があり、リバプールはポゼッションを維持するとともに、相手を引き出すことができる。相手がボールにプレスをかけようと飛び出してきたところで、ファビーニョはリターンパスを受け、DFラインの裏へとパスを通す。今回の例の場合は守備陣の頭上を抜くボールをペナルティーエリアのファーサイドへ送り込み、マークを外したアタッカーがそこへ走り込んでいく。

 ファビーニョはオフ・ザ・ボール時の働きやポジショニングによって現在のリバプールのチーム内において重要な機能を果たしているが、マイボール時にもプレーを前進させられる能力を発揮してチームの構造に不可欠な存在となる。

ファビーニョが持つパス能力の重要性とは?

図54_fch
図54

 図54で示す例では、ファビーニョはファイナルサードの手前でボールを持っている。中盤の選手にとって最も重要な役割のひとつは、相手のラインを突破するパスを通すことだ。これによりボールを効果的に前進させてオーバーロードを作り出し、相手の守備構造を崩すことが可能となる。

 ここではまず、モハメド・サラーがペナルティーエリアの遠いサイドへと開く動きを取ることでスペースが作り出される。この小さな動きがDFを守備位置から引き出し、DFラインの間に隙間を生み出す。ファビーニョにはここから守備ブロックの間を抜いてスペースを使う縦パスを出せる力がある。

 この1本のパスで相手のフィールドプレーヤー全員を無力化し、前方へ走り込んだフィルミーノがボールを受ければペナルティーエリア内でチャンスを生み出すことができる。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

詳細はこちらから

【了】

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