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ハーランドはなぜ止められない? レバンドフスキを凌駕するスタッツと、逆算された2つの得点パターン【分析コラム】

ブンデスリーガ第18節、ボルシア・メンヒェングラートバッハ(ボルシアMG)対ボルシア・ドルトムントが現地時間22日に行われ、4-2でボルシアMGが勝利を収めた。敗れたドルトムントは3戦未勝利で暫定順位を5位に落としたが、アーリング・ハーランドは今季5度目の複数得点をマーク。試合数を上回るペースでゴールを重ねている。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

ドルトムントが抱えるジレンマ

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【写真:Getty Images】

 シュトゥットガルト戦の大敗(1-5)が決定打となり、ルシアン・ファブレ監督の解任が発表されたのは先月の13日。アシスタントだったエディン・テルジッチが今季終了まで指揮を執ることとなった。

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 クラブは両立するのが難しい2つの目標をチームに課している。1つ目は若手の育成。ドイツ国外へと広がるスカウティング網を活かして世界から有望な人材を獲得し、トップチームで活躍したらビッグクラブへと売却する。

 かつては香川真司やロベルト・レバンドフスキのような20代も含まれていたが、最近では対象が10代へとシフトした。ジェイドン・サンチョやジョバンニ・レイナ、ジュード・ベリンガムといった選手たちが海を渡り、ドルトムントでプロキャリアを始めている。

 2つ目のミッションはバイエルン・ミュンヘンの絶対王政を止めることだが、今季も首位を走らせてしまっている。ファブレ政権では2シーズン連続で2位だったが、今季はライプツィヒやレバークーゼンの後塵を拝し、既に7敗を喫している。

 ファブレは若手の育成に定評があった。若手に辛抱強くチャンスを与えながら、成長を促した。先に挙げたサンチョやベリンガムらを主力に育て上げたのはもちろんファブレの功績である。しかし、成績がついてこなかった。

 後任に就いたテルジッチはトップチームで指揮を執った経験がない。ライプツィヒやヴォルフスブルクとの上位対決を制し、3勝1敗と好スタートを切ったが、マインツ戦の引き分けから連敗。ボルシア・ダービーでは4失点を喫した。

 守備への切り替えが遅いという問題点は依然として解決されていない。ボールを失った際に後手を踏むことが多く、ボルシアMGにもそれを狙われた。連動したプレッシングは見る影もなく、ボルシアMGのカウンターの餌食となった。

「こんな良いチームにセットプレーから3点を許してしまったら、試合の結果のことなんて忘れてしまうよ」。ミハイル・ツォルクSDは試合をそう振り返った。データサイト『WhoScored.com』の集計では、ドルトムントは今季26失点のうち、セットプレーからの失点が9つ。リーグではシャルケに次ぐ2番目の多さで、この問題もまだ解決されていない。

ハーランドの得意技

 得点が止まっていないのが唯一の救いだ。守備のトランジションに比べて、攻撃に転じた際の迫力はあった。2得点はいずれも敵陣でボールを奪ってからのショートカウンターで、中央を切り崩した。ゴールにはならなかったが、38分にも流れるようなカウンターから決定機を創出。アーリング・ハーランドのポストプレーから2列目の3人がフィニッシュまでつなげている。

 ハーランドに得点が戻ってきたのもグッドニュースだ。「戻ってきた」と言っても、止まっていたのは2試合だけなのだが、得点能力の高さは相変わらず高い。

 1点目はサンチョがドリブルで仕掛けた前を、クロスするようにDFラインの裏を取った。パスを受けたハーランドは、角度のない位置から左足を振り抜いて豪快に決めている。2点目はボックス内のサンチョからパスを受け、相手DFからボールを隠すように素早いターンで左足から決めた。

 194cmの大きな身体が印象的だが、190cm以上のセンターバックが多いブンデスリーガでその高さが活かされるシーンはあまりない。ボルシアMGのDFラインにはハーランドの身長とあまり変わらない選手が並んでおり、ハーランドが制空権を握るのは難しかった。

 今季の14得点のうちヘディングは1得点。12得点は利き足の左足で決めている。1点目のようにDFラインの裏を取ったり、ニアゾーンを深く抉った位置からの折り返しをワンタッチで決めるのがハーランドの得意技である。

ハーランドから逆算される攻撃

 特筆すべきはゴールを枠内に飛ばす技術。ハーランドの枠内シュート率は50%を超えており、この試合では3本のシュートのうち2本がゴールを捉えている。枠内シュート率はブンデスリーガ平均が37%で、22得点という驚異的なペースでゴールを重ねているレバンドフスキでさえ50%を下回っている。難しい体勢でも、角度のない位置からでも枠内に飛ばす技術がハーランドにはある。

 味方はハーランドの動きを常に見ており、ハーランドの動きに合わせてパスを出している。ドルトムントの2列目はサンチョやロイスなど、ドリブルで剥がせる選手が多く、相手はボールホルダーに視線が行く。その瞬間にハーランドがDFの背後を取っている。

 DFラインの裏を取る際に左斜めに走りこむのは、得意の左足でシュートを打つためだろう。右のニアゾーンを深く抉れば、ハーランドが左足でシュートを放つアングルが生まれる。ドルトムントの攻撃はハーランドのゴールパターンから逆算されている。

 ゴールが計算できるようになれば、それに依存してしまうのは仕方ない。ハーランドの得点力に依存しているとも言われるが、それはリオネル・メッシもクリスティアーノ・ロナウドも同じ。得点を取り続ける限りは何も問題ない。

 遅かれ早かれ、ハーランドはビッグクラブへと旅立つだろう。ハーランドを売ったあとにどうするかは、売るときに考えればいい。若手を育てて売るのがドルトムントのやり方だ。優勝できるかどうかはわからないが、そのときには現在16歳のユスファ・ムココが1人立ちしているだろう。

(文:加藤健一)

【了】

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