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トリンコン、ついに爆発。ようやく実った超真面目な青年の努力…バルセロナ加入後初得点【分析コラム】

現地7日にラ・リーガ第22節が行われ、バルセロナはベティスに3-2で勝利を収めた。苦しい展開からチームを勝利に導いたのは、フランシスコ・トリンコンだった。バルサ加入からなかなか結果を残せていなかった21歳の青年は、初ゴールで才能の確かさを証明している。(文:舩木渉)

text by 編集部 photo by Getty Images

勝利をもたらしたトリンコンの左足

フランシスコ・トリンコン
【写真:Getty Images】

 苦しんでいた「恐れなき少年」にようやく結果が出た。

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 現地7日に行われたラ・リーガ第22節のベティス戦、終盤の87分にバルセロナのFWフランシスコ・トリンコンが加入後初ゴールを挙げた。相手DFの背後からボールをかっさらった21歳のポルトガル代表は、得意の左足を思い切り振り抜いてゴールネットを揺らした。

 このゴールが決勝点となり、バルサは3-2で勝利。公式戦6連勝を飾った。しかし、喜びは控えめだ。トリンコンは試合後のインタビューで「ゴールを決め、攻撃でも守備でもチームを支えるのが僕の仕事だった。ただ、ゴールは重要ではなく、あくまで最も重要なのは勝利したことだ」と語った。

 両チームともミッドウィークのコパ・デル・レイが延長戦までもつれ込んだこともあり、一部の主力をベンチに座らせて試合開始を迎えた。お互いにリスクを避ける煮え切らない展開で前半終盤に差し掛かった38分、ベティスがボルハ・イグレシアスのゴールで先制点を奪う。

 序盤にロナルド・アラウホが負傷するなど苦しい戦いを強いられていたバルサは、後半開始からペドリを投入。さらに57分にミラレム・ピャニッチとリキ・プッチを下げ、リオネル・メッシとトリンコンを送り出した。この交代が試合の流れを大きく変えることになる。

 登場から2分後の59分にメッシが同点ゴールを奪うと、68分にジョルディ・アルバの折り返しに合わせたアントワーヌ・グリーズマンのシュートがビクトル・ルイスのオウンゴールを誘って逆転に成功。2点目のきっかけとなったジョルディ・アルバのクロスを引き出したのは、メッシのスルーパスだ。バルサは背番号10の存在によって一気にリズムが良くなり、約10分で試合をひっくり返してしまった。

 だが、75分にナビル・フェキルのフリーキックをビクトル・ルイスに頭でゴールに叩き込み、ベティスが2-2に追いつく。主導権を握りながら失点を重ねる嫌な流れを断ち切ったのが、トリンコンの左足だった。

クーマン監督も努力の成果を称賛

フランシスコ・トリンコン
【写真:Getty Images】

「後半は変わったね。それが勝利するうえで重要だった。前半は両チームともリスクを恐れていたけれど、後半の僕たちはどうしても勝ちたかった。そして勝った」

 言葉少なに勝利を振り返るトリンコンは、胸の内で自身の初ゴールを喜び、噛み締めているはずだ。公式戦27試合目の出場で、ようやく決まった初めてのゴールだ。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)やコパ・デル・レイでは先発の機会を与えられていたが、リーグ戦での先発出場はなし。継続的に途中出場の機会は与えられていたものの、さしたるインパクトを残せてはいなかった。

 それでも腐らず努力を続け、ついに結果を出した。ロナルド・クーマン監督も「彼はまだ若いし、バルサのような非常に高いレベルに適応しなければならなかった。我々は継続的に出場時間を与えてもきた。最近の数試合でチャンスを決めきれていなかったのには運がなかったところもあった。しかし、今日の彼は決定的で、ゴールは彼にとっても我々にとっても重要なものだった」とトリンコンの働きぶりを称えた。

 ゴールが決まったことで、肩に重くのしかかっていたプレッシャーからも解き放たれるのではないだろうか。CLの決勝トーナメントやリーグ終盤戦の重要な戦いが待ち受けるなか、トリンコンは頼もしい戦力となるに違いない。

 道を踏み外すこともないはずだ。「超」がつく生真面目なトリンコンのことだから、たった1つのゴールに浮かれて調子に乗るようなことはなく、さらなるチャンスを得るために地道な努力を続けるのだろう。

夜10時でもジムに通う生真面目さ

 バルサ移籍が決まった後、前所属のブラガがYouTube上に公開した「Trincao, o Menino Sem Medo(トリンコン:恐れなき少年)」というドキュメンタリーのなかで語られた数々のエピソードは、彼の生真面目さをよく表していた。

 ポルトガル北部のヴィアナ・ド・カステーロという海沿いの街で生まれ育ったトリンコンは、11歳でブラガの下部組織に入団。19歳の誕生日前日にトップチームデビューを果たす。当時の様子を父ゴンサロは次のように語っていた。

「いまだに覚えているのは、フランシスコがトップチームに呼ばれたばかりの頃のことだ。彼はまだそれほど多くの出場機会をもらえていたわけではなかった。試合の前後にはよく私に電話をかけてきていた。ある試合の後、彼から電話がかかってくるまでにだいぶ時間があった時があった。私が『なぜそんなに時間がかかったんだ?』と尋ねたら、彼は『試合に出なかったからジムに行っていた』と説明した。

続けて『チームメイトは試合に出なかった時、同じようにしているのか?』と聞くと、彼は『していない』と言ったんだ。とにかく自分のやっていることを楽しみ、(試合に出ないことすら)彼に喜びを与えていた。彼は進化するために必要なことは全てやり、目標にたどり着く人間なんだよ」

 この証言を裏付けるのは、下部組織時代からのチームメイトだったダビド・カルモだ。「彼は極めてプロフェッショナルだ」と述べ、次のように続ける。

「僕たちがレストランに行くと、あいつは1人で水を飲んでいるんだ。それに僕はいつも混乱していたよ。ジムに行くのも、1日も欠かさなかった。試合に出なかったら、夜10時でもそのままジムに直行する。彼は自分自身に大きな自信を抱いているし、いつも『僕ならできる』と言っている。よく言っていたのは、『チャンスをもらった時にはうまくやりたい』ということ。その通りの姿を今季(2019/20シーズン)は言葉だけでなく、プレーで見せてくれた。結果を残すために毎日努力していた」

実力に懐疑論もあったが…

フランシスコ・トリンコン
【写真:Getty Images】

 トリンコンは2018年夏のUEFA U-19選手権で得点王(5得点)と大会MVPを獲得し、U-19ポルトガル代表の優勝に大きく貢献。その後、ブラガでもトップチームに定着し、2019/20シーズンはリーグカップでポルトを破っての優勝も経験した。その直後、2020年1月31日にブラガ史上最高額の移籍金3100万ユーロ(約37億円)でバルサ加入内定が発表され、クーマン監督が就任した2020年夏から正式に世界的名門の一員となった。

「僕はよく両親に『おやすみ』を伝える電話をするんだけど、その時は父が家にいなかった。いつもはいるんだけどね。それで母に電話をしたら、父は仕事をしていたらしくて。それで後日、父からバルサ行きのニュースを伝えられた。最初はジョークだと思っていたら、どうやら本当らしいということに気づいた。本当に信じられなかったし、心から嬉しかった」

 ブラガでブレイクしたとはいえ、欧州5大リーグやCLなどでの実績はなく、ポルトガルリーグでもレギュラーを担ったのは1年だけ。27試合出場8得点8アシストと、決して突出した成績を残したわけではない。バルサ加入時には実力やポテンシャルを疑う声もあったが、結果を残したことで周囲からの評価も徐々に変わっていくだろう。

「自分の人生における全ての決断は、フットボールのことを念頭に置いて下さなければならない。夜に出かけないだとか、時間通りに行動するとか、練習に早めに行くだとか、そういう全ての決断は自分たちの目標に直結している必要がある。それが全ての違いを生み出すんだ」

 インタビュー当時20歳のトリンコンは、まるでベテランのような考え方でフットボールに向き合っていた。実力に対する懐疑論があろうと、惑わされずに努力を続けてきた。ボールを扱う技術のみならず、パーソナリティ面も含めて彼の才能は末恐ろしい。

「フットボールは僕の人生であり、大好きなもの。子供の頃から今までの人生全てだ。フットボールを通じてたくさんの人と出会い、それらが今日の自分を作ってくれた」

 両親や兄妹、友人、指導者たちに支えられてバルサ行きを叶え、初ゴールを決め、ようやく飛躍へのスタートラインに立った。

 ポルトガルのレジェンド、パウロ・フットレ氏も「すでにポルトガル史上最高のレフティーの1人で、非常に謙虚で一生懸命に努力をする選手。怪我さえなければバロンドールを獲得できる」と太鼓判を押す才能の持ち主。トリンコンがバルサやポルトガル代表の一員として、これからどんな輝きを放つか楽しみでならない。

(文:舩木渉)

【了】

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