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ジダン監督が見せた“戦術的色気”。CL直前にレアル・マドリードが試した実験の収穫は?【分析コラム】

ラ・リーガ第27節、レアル・マドリード対エルチェが現地時間13日に行われ、2-1でレアルが勝利を収めた。16日にアタランタとの試合を控えるレアルは、いつもとは異なる[3-5-2]の布陣でこの試合に臨んでいる。(文:本田千尋)

シリーズ:分析コラム text by 本田千尋 photo by Getty Images

CLを控えるレアル・マドリードの実験

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【写真:Getty Images】

“収穫のある実験”だった。3月13日に行われたラ・リーガ第27節。17位に沈むエルチェとの試合に臨んだレアル・マドリードは、61分にCKから先制を許しながらも、終盤にかけて73分、91分とカリム・ベンゼマの2ゴールで逆転勝利。リーガの優勝争いの最前線に踏み止まりつつ、16日に控える重要なUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16、アタランタとの第2戦に向けて弾みをつけた。

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 この降格圏スレスレのチームを相手に、ジネディーヌ・ジダン監督は[3-5-2]の布陣でスタート。お馴染みの[4-3-3]を採用しなかった理由は、いくつか考えられる。

 まずはウイングの人材不足だ。今季これまでマルコ・アセンシオはインパクトを残せず、ロドリゴはリーガで未だノーゴール。ルーカス・バスケスは、年明けにダニエル・カルバハルが再び負傷離脱してから再度SBでの起用が続いている。エデン・アザールに至っては、怪我や新型コロナウイルス感染による隔離の影響もあるとは言え、行方不明になりかけているような状況だ。

 このようにウイング・ポジションが難点となっているところに、CLアタランタ戦の直前が格下相手というタイミングも重なって、ジダン監督は[3-5-2]をトライしたのだろう。この布陣では左右のWBに、フェルランド・メンディとバスケスを起用。試合が始まると、両WBがウイングのような高い位置を取って攻撃陣が前に人数を掛け、エルチェを押し込んだ。スキンヘッドの指揮官は、試合後に「ウインガーからの深さが欲しかった」と振り返っている。

 加えて、この試合では左ひざの負傷で離脱していたセルヒオ・ラモスが、およそ2か月ぶりに復帰。頼れる主将は3バックの中央で起用されている。復帰したばかりということもあってか、約60分間のプレーとなったが、ジダン監督としては、アタランタ戦に向けて大黒柱のCBを少しでも実戦に慣れさせておきたかったのだろう。

[3-5-2]が機能しないレアル

 また、エルチェ相手の[3-5-2]は、そのアタランタを意識したところもあったのではないか。前節のアトレティコ戦では、ナチョ・フェルナンデスがマルコス・ジョレンテにかわされて、そのままスルスルとボールを運ばれてルイス・スアレスに先制を許している。守備の強度が盤石とは言い難い。

 アタランタとの第1戦は勝利したとは言え、1-0と薄氷のスコア。来たる第2戦でジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のチームが2トップで来ることを見越して、スキンヘッドの指揮官としては、両ワイドの攻撃力を確保しつつ、ナチョとラファエル・バランにラモスを加えた3バックを試しておきたかったところもあるだろう。

 このようにCLに向けた“実験”に臨んだジダン監督だったが、結果的に[3-5-2]が機能したとは言い難かった。[4-4-2]の守備陣形でスタートしたエルチェに対して、序盤こそレアルの選手たちは、敵陣に人数を掛けて攻め込んだ。

 メンディとバスケスが高い位置を取り、ベンゼマとヴィニシウスの2トップが流動的に動き、さらに中盤のイスコが追い越してボックス内に入っていく。

 しかし、16分のセットプレー以降、エルチェが守備陣形を[5-3-2]に変更してからは、攻撃が手詰まりになってしまう。敵の右SHテテ・モレンテが1列降りてきて、メンディが対応されるようになった。さらに、エルチェの最終ラインに幅が出たことで、逆サイドのバスケスとフェデリコ・バルベルデも同様にフタをされて対応されやすくなった。中央も3バックと3枚のMFで固められたので、アンカーのカゼミーロが上がっても、攻撃に人数が足りない。

 このように[3-5-2]が機能しないレアルを尻目に、次第にエルチェがボールを持つ時間が増えていった。プレスもハマらなくなってくると、39分に右のハーフスペースでモレンテを捕まえきれず、あわやの場面を作られてしまう。エル・ブランコの戦士たちも、34分にカウンターからバルベルデ→ヴィニシウス→ベンゼマとエルチェのゴールに迫るシーンもあったが、攻撃は単発的な物だった。

レアル・マドリードが得た収穫

 後半に入って61分にCKからエルチェに先制を許すと、ジダン監督はラモスを下げ、布陣をいつもの[4-3-3]に変更。この時点で[3-5-2]を試す“実験”は終わった。

 その後、バルベルデとイスコに代わって、これもCLアタランタ戦を見越してベンチだったルカ・モドリッチとトニ・クロースが投入された。中盤にダイナミズムを取り戻したレアルは、ベンゼマの2ゴールで逆転勝ち。しかし、“実験”を経て明らかになったのは、結局、ジダン監督には[4-3-3]しかなく、CL3連覇時の主力に頼らざるを得ないという現状だった。

 もちろんリーガでは首位アトレティコと勝ち点6差の2位に付けている。CLもまだ可能性はあると言えばあるので、それの何が悪いのかと言われると、返す言葉もさほどない。

 そういった意味では、エルチェ戦で[3-5-2]が機能しなかったことは、かえって“収穫”と言えるのかもしれない。なまじ格下相手に[3-5-2]が上手くいったとしても、さらに強度の高いアタランタ相手に通用するとは限らない。

 もっとも、ジダン監督は試合後に「我々が組み立てたやり方(3-5-2)は良かった」とコメントを残しており、一定の“収穫”を得たようだ。主将のラモスのコンディションも万全とは言い難い。アタランタ相手に[3-5-2]で臨むのは、味方と敵の選手間の数字上は理に適うとは言え、リスキーではある。

 戦術家とは言い難い監督が“戦術的色気”を出すと、ロクな結果に繋がらない気もするが、果たして。

(文:本田千尋)

【了】

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