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マンUは「前代未聞」の状況でどう戦った? 殺人的日程の犠牲も…かつて奇跡を起こした男が示したプライド【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 本田千尋 photo by Getty Images

プレミアリーグ第36節、マンチェスター・ユナイテッド対レスターが現地時間11日に行われ、1-2でアウェイチームが勝利している。ユナイテッドが強敵レスター相手に勝つのはほぼ「不可能」だった。それは、殺人的なスケジュールが組まれたからだ。それでも、オーレ・グンナー・スールシャール監督はプライドを示した。(文:本田千尋)

指揮官が「不可能」と嘆いたのは…

マンチェスター・ユナイテッド
【写真:Getty Images】

“3冠戦士のプライド”が垣間見えた。

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 現地時間11日に行われたプレミアリーグ第36節。ホームにレスターを迎えた試合で、オーレ・グンナー・スールシャール監督は抜本的なローテーションを慣行。左右両サイドにはアンソニー・エランガ、アマド・ディアロ、右サイドバックにはブランドン・ウィリアムズと20歳以下の選手が先発。ウィリアムズは今季リーグ戦出場3試合目で初先発、エランガとディアロに至っては、このレスター戦がプレミア・デビューだ。

 また中盤の3枚も、トップ下にフアン・マタ、ダブルボランチにドニー・ファン・デ・ベーク、ネマニャ・マティッチと出場機会に恵まれてこなかった選手たち。同様にディフェンスラインも、左SBにアレックス・テレス、センターバックにはエリック・バイリーとアクセル・トゥアンゼベと、ベンチを温め続けた選手たちが先発した。ワントップのメイソン・グリーンウッドを除けば、2軍を通り越して3軍とまではいかなくとも、“2.5軍”と称して差し支えないメンバー構成である。

 このように先発陣が、なかなかフレッシュな顔ぶれとなった理由が、突如組まれた殺人的なスケジュールであることは明らか。スールシャール監督は「前代未聞のことだからこそ、今回のような選手変更をしなければならなかった」とコメントを残している。

 現地時間2日に予定されていたリバプール戦は、4月中旬に創設が発表された欧州スーパーリーグに、当初は参加を表明したクラブ首脳陣に抗議するため、サポーターがスタジアムに押し入ったことで延期。13日に開催されることになった。

 結果、ノルウェー人指揮官は、6日にヨーロッパリーグ(EL)準決勝2ndレグ、ローマ戦から9日にアストン・ヴィラ戦とアウェイ2連戦をこなした後で、さらに11日にレスター戦、13日にリバプール戦と、中1日で2試合をこなすという文字通り殺人的なスケジュールをこなさなくてはならなくなった。

 この人知を超えた日程について、スールシャール監督はレスター戦の後で「木曜の夜、日曜、火曜、木曜と、選手たちがこのレベルでパフォーマンスを発揮するのは不可能」と見解を述べたが、これは決して泣き言ではないだろう。6日にローマ、9日にアストン・ヴィラと中2日でタフな相手と戦った選手たちが、中1日でどうやってリカバリーできると言うのか。どれだけトップレベルの選手であっても、あくまで人間であり、心身の疲労と無縁ではない。フットボーラーは戦術を遂行するだけのロボットではないのだ。

あのCLを経験したスールシャールだからこそ…

 こうして、未知の領域に突入したことで先発メンバーが様変わりしたユナイテッドは、10分にテレスが釣り出された左サイドをユーリ・ティーレマンスに突かれ、折り返しをファーに飛び込んだルーク・トーマスに押し込まれて先制される。早速、急造の最終ラインを崩される苦しい展開…。

 その後、15分にメイソン・グリーンウッドが意地の一発を決めて追い付き、テレスもポジショニングを修正したことで、サイドを破られることはなくなった。マイボール時になかなか前に繋げないところや、パスワークが拙いところもあったが、徐々にポゼッションを回復。急造メンバーながら秩序を維持してバランスを保っていく。

 しかし66分、エディソン・カバーニとマーカス・ラッシュフォードの主軸が投入された直後のコーナーキックで一瞬の隙を突かれ、チャーラル・ソユンクにヘディングで勝ち越しゴールを許す。この1点が決勝点となり、ユナイテッドはレスターに敗北。挙句、マンチェスター・シティの優勝が決定した。

 レスターに敗れた後でスールシャール監督は、この超人しかこなせない日程に抗議したが、そこに元々ひとりのサッカー選手だった人間としての“プライド”を見て取るのは、飛躍し過ぎだろうか。この世界には、お上の決定は甘んじて受け入れ、その中でベストを尽くすことが美徳だとする価値観もある。

 しかしノルウェー人指揮官は、かつて選手だった人間だからこそ、現場でユナイテッドの才能溢れる選手たちを預かる者として、健康を度外視するスケジュールの決定が許せなかったのだろう。そこには、“俺たちは1部の人間の金儲けのための道具じゃない”、といったような怒りすら感じられる。

 そして、このレスター戦で何よりスールシャール監督の“プライド”が感じられたのは、78分の場面だ。1-2の状況で、ノルウェー人指揮官はディアロに代えてブルーノ・フェルナンデスを投入。あまりに過酷な日程の中で「パフォーマンスを発揮するのは不可能」と言う認識がありながら、選手のコンディションをギリギリまで見極めつつ、主軸を投入して敗戦を免れようとするスタンスは、悪あがきと言うよりは、目の前の勝負に挑む人間としての矜持から来るものなのではないか。

 そこに、かつてサー・アレックス・ファーガソンの下、1999年、チャンピオンズリーグ(CL)決勝の舞台となったカンプ・ノウで最後まで諦めず、自らの右足でバイエルン・ミュンヘン相手に奇跡の逆転劇を起こした“3冠戦士のプライド”が垣間見えるのである。

(文:本田千尋)

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参照元:DAZN

【了】

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