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EURO2020 3年前

頭脳戦の勝利。イングランド代表はどのようにドイツ代表を倒したのか? 勝負を分けたクロース封じの方法【ユーロ2020分析コラム】

text by 編集部 photo by Getty Images

ユーロ2020(欧州選手権)ラウンド16、イングランド代表対ドイツ代表が現地時間29日に行われ、2-0でイングランド代表が勝利した。試合は75分までスコアが動かなかったが、ラヒーム・スターリングとハリー・ケインがゴールをこじ開けた。我慢比べのようになった試合は、イングランド代表の頭脳が上回った。(文:加藤健一)

3バックに変更したイングランド代表

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【写真:Getty Images】


 イングランド代表はこの大会で初めて3バックを採用した。ドイツ代表がグループステージで使っていたのと同じ3-4-2-1でカイル・ウォーカーが3バックの右に据えている。

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 しかし、完全なミラーゲームにはならなかった。ドイツ代表はカイ・ハフェルツが中盤に降りる3-5-2で守り、中盤の数的優位を保つ。イングランド代表の3トップに対して3バックはマンマーク気味で対応して自由を与えなかった。

 DFラインでボールを回すことができても、アタッキングサードには5枚のDFが並んでいる。イングランド代表にはハリー・マグワイア、ドイツ代表にはアントニオ・リュディガーを筆頭に、屈強な男たちが並ぶ。どちらも単純なクロスは跳ね返され、コンビネーションで崩そうとしても最終ラインには5人が並んでいるので、簡単には崩れなかった。

 両チームともにブロックを敷かれた状態では攻めあぐね、チャンスはショートカウンターが多かった。8分にはトランジションからレオン・ゴレツカが抜け出しかけたが、ペナルティアークでデクラン・ライスがファウルで止めて得点にはつながらず。イングランド代表も前半アディショナルタイムに相手のパスミスからケインが決定的なシーンを迎えている。

 0-0のままこう着状態となったが、試合終盤にスコアが動く。イングランド代表の交代策がそのきっかけとなった。

ドイツ代表のゴールをこじ開けた方法とは?



 イングランド代表はサイドに起点を作り、同サイドで攻め切るというのが立ち上がりから見せていた攻撃の形だった。しかし、途中交代でブカヨ・サカに代わって入ったグリーリッシュは、内に絞ってケインと近い距離を保っていた。

 75分には右サイドに回ったスターリングがドリブルで運んでケインにパスを通す。後ろ向きのケインの落としを受けたグリーリッシュは、ワンタッチで左サイドへ。ルーク・ショーがダイレクトで折り返すと、スターリングがワンタッチで流し込む。流れるような崩しだった。

 2点目も人の配置は違うが、ボールの動きは1点目と同じ。中央でボールを拾ったショーがゴール前まで運び、左のグリーリッシュへパス。ダイレクトでゴール前にクロスを入れると、ケインがヘディングでゴールに押し込んだ。

 片方のサイドで攻撃を完結させれば、ボールを失ってもカウンタープレスをかけやすい。イングランド代表のサイド攻撃は思った以上にうまくいかなかったが、時間の経過とともにDFラインの前にスペースが生じてきた。このタイミングを逃さずにグリーリッシュを入れ、右に配置したスターリングのドリブルも活かしつつマヌエル・ノイアーが守る牙城をこじ開けた。

 攻撃は試合途中の修正が功を奏した。一方、ディフェンスに目を移すと、ドイツ代表対策が機能していた。ガレス・サウスゲート監督は試合後にこう述べている。

心は熱く、頭は冷静に



「クロースがゲームを組み立てることは分かっていたので、我々は我慢しなければいけなかった。私が最も嬉しかったのは、常に情熱とメンタルを保ち、頭を働かせてプレーしたことです」

 ドイツ代表の攻撃はトニ・クロースを起点として行われる。DFラインの裏に抜けるティモ・ヴェルナーへのスルーパス。ライン間に降りてくるハフェルツやミュラーへの縦パス。そして、両ウイングバックへのサイドチェンジのロングパス。どれもクロースのキックの質があるからこそ成立する攻撃である。

 イングランド代表はウイングバック同士をマッチアップさせることで、サイドチェンジに対応した。ライン間でボールを引き出すシャドーに対しても3バックがマンツーマン気味でついていき、ボランチと挟み込んだ。ボールの出どころであるクロースを封じるのではなく、受け手を封じるのがポイントだった。

 クロースのパス成功率は86%。普通の選手であれば十分な数字だが、クロースは90%を超えるのが日常茶飯事で、今大会4試合の平均成功率も90%だった。ヴェルナーに通ったパスは0本で、ビルドアップ以外の場面で効果的なパスを繰り出したシーンは極端に少ない。

 指揮官の言葉通り、心は熱く、頭は冷静に。ピッチに立つ選手がやるべきことをやりきった90分だった。この試合の勝利は、指揮官とチームによる頭脳戦の勝利と言っていい。

(文:加藤健一)

【了】

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