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なでしこジャパンを勝利に導いた杉田妃和の縦パス。攻撃はなぜ停滞? 最後まで狙っていたチリの急所【東京五輪】

text by 編集部 photo by Getty Images

杉田妃和
【写真:Getty Images】



 サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)は27日、東京五輪のグループステージ第3節でチリ女子代表を1-0と下し今大会初勝利を収めた。

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 決勝点が生まれたのは77分のことだった。苦しみ続けた日本を救ったのはFW田中美南だ。ペナルティエリア内でディフェンスを背負いながら縦パスを受けたFW岩渕真奈からのお膳立てを受け、冷静にループシュートを決めた。

「ブチさん(岩渕)が粘ってくれて、いいところにこぼれてきたんですけど、しっかりGKが寝るかなというのを冷静に見られて、浮かせて決めることができたのでよかったです」(田中)

「ああいうくさびのボールをつけて、という話をしていた中で、(田中)美南が裏に走り出してくれていたのが見えたので、ちょっとぶつかったけど、あのゴールに関してはいい崩しだったと思います」(岩渕)

 田中には信じて飛び込めばパスが来るという確信があった。その通りに岩渕は横から飛び出してくる田中の姿を視界の端に捉え、絶妙なラストパスを通した。

 このゴールがなければ、試合は引き分けに終わっていただろう。勝ち点1を積み上げるだけでも決勝トーナメントに進める可能性はあったが、勝ってグループステージを突破することがチームのためには極めて重要だった。

 そして、狙っていた形でのゴールでもあった。あの瞬間、複数の選手のイメージが合わなければ生まれなかっただろう。「ああいうくさびのボールをつけて、という話をしていた」という岩渕の言葉通りのパスを通したのは、後半途中からボランチに入っていたMF杉田妃和だった。彼女の存在なしにチリ戦の勝利は語れない。

「前半から、あのスペースが空いていて、そこに対しての縦パスだったり、横からの斜めのボールだったり、FWに対してのパスというのは狙い目だったなと思うので、そこはボランチに入った時は狙っていました」(杉田)

 チリは前半から5バックを敷いていたが、両アウトサイドとディフェンスラインの手前のスペースで日本の選手が頻繁にフリーでパスを受けられる状況があった。それでもゴール前の最後のところで相手は崩れない。

 なでしこジャパンも失点のリスクを減らしながらゴールをもぎ取るために、攻撃に確実性を求めて慎重になっていた側面があると杉田は語る。カウンターを受けた際に失点する可能性を下げるために攻撃偏重にならないよう気を配り、クロスを上げるにしても確実にゴールへつながるものを、中央への縦パスも無闇には入れない。やや消極的ともとれる意識が崩しの局面でのためらいにつながってしまっていた。

「相手が、攻め残っているというか、嫌なところに立っていて、それを戻ってマークにつくのか、それともリスクを負って攻撃にいくのかというところを、もうちょっとチームとして早めに決断できたら、もう1人、攻撃に人数をかけられて、いけるところがあったのかなと。そういうところではサイドにいってやり直して、次のプレーというところがなかなか出てこなかったので、そこで人数をかけていけたら、もっと幅広いプレーもできるのかなとも思います。

クロスのところで淡白にあげるのではなく、チャンスのところで走り込めるような、スペースに出せたり、本当にチャンスボールをあげていこうというのがあって、なかなかチャンスボールを選んでいったのも前半はあった。もうちょっと五分五分のところでクロスを上げてもよかったのかなというシーンもありましたし、ピンポイントであげられるのであれば、もうちょっとしっかり上げてもよかったのかなと思うところもあります」(杉田)

 試合開始時から主に左サイドでプレーしていた杉田は、なかなかリスクを冒せないでいた。しかし、どうしてもゴールが欲しい展開でボランチに移り、ここぞのタイミングで一発の縦パスで状況をひっくり返すことを狙っていた。まさにその狙いが決勝点を生み出した。

 杉田は「決められるチャンスが前半に結構あって、自分自身もそこで決めきれなかったので、ここまで結構厳しい試合になってしまったのかな」と、思い切りの良さをなかなか発揮できなかった戦いを悔やむ。

「勝てるところで勝てなくて、決勝トーナメントへ上がるのをここまで引きずってしまったのもあったので、すごくキツいゲームが続いてしまったんですけど、でも本当にここでチーム全員で勝ち切ったというところはチームとしてすごく評価できると思う。次に繋がるように、またリセットして臨んでいけたらいいと思います」

 自国開催でいつも以上に明確な結果を求められるなか、まずは決勝トーナメント進出という最低限のラインを超えることができた。試合後のインタビューで岩渕が涙を流したことからもわかる通り、彼女たちが背負っていた重圧は相当なものだっただろう。

 金メダル獲得という目標があるとはいえ、多少のプレッシャーから解き放たれたなでしこジャパンは決勝トーナメントでチリ戦までに出ていた課題を改善できるはず。準々決勝の相手であるスウェーデン女子代表は今大会最強と目されるチームだが、勇敢に挑んでベスト4への道を切り開いてもらいたい。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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