大胆過ぎた采配
同点に追いつかれたU-24ブラジル代表はその後もスペインにチャンスを作られた。終盤にはオスカルとブライアンの“ダブルヒル”にクロスバーを叩かれるなど、再び流れは相手にあった。
しかし、アンドレ・ジャルディン監督は90分間で一枚も交代カードを使わなかった。確かにU-24ブラジル代表はペースこそ握られていたものの、普段から世界一過酷と言われるブラジルリーグでプレーする選手が多いからか、終盤でも足は止まっていなかった。それでも、90分間で交代なしはかなり大胆な采配だったと言わざるを得ない。
その指揮官が最初に動いたのは延長前半のことだった。クーニャに代え、マルコムを投入したのである。
そしてこの采配が功を奏したのは108分のことだった。カウンターが発動し、アントニーのロングフィードに反応したマルコムがヘスス・バジェホをスピードで振り切ると、最後はGKウナイ・シモンとの1対1を冷静に制す。ブラジルが土壇場で勝ち越し、このまま金メダル獲得を確定させたのである。
試合後、ジャルディン監督は「マルコムの左サイド起用が決定的だった。これは我々が考えていた変化であり、うまくいったことに感謝したい」とコメント。つまり、1-1となった時点で、指揮官はすでに延長戦、そしてこのマルコムに賭けていたということになる。
また、ここで重要だったのは、今大会において右サイド起用の多かったマルコムを左サイドに置いたことだ。これは、左利きの同選手がより縦へ勝負できるようにするため。右サイドに置くとどうしても中への侵入が多くなるので、プレーが止まってしまうことがある。ジャルディン監督はマルコムのスピードをより活かすため、それを避けたのだ。
デ・ラ・フエンテ監督も右SBにバジェホを入れるなどケアはしていたものの、元気いっぱいのマルコムのスピードを封じるのは容易ではなかった。追加点の場面、スペインは3人がしっかりと自陣に戻っていたが、マルコムは一人ですべてを完結させている。疲労の溜まる延長戦でこの個は脅威だった。
結果論になってしまうが、ジャルディン監督の采配は見事だった。90分間スタメン組の選手を信じ、相手の疲労もピークに達する延長戦に賭け、マルコムの良さを最大限引き出すためあえて左サイドで起用。試合の流れを読み、冷静に判断した結果の金メダル獲得だったと言える。U-24ブラジル代表は強かった。
(文:小澤祐作)
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