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「4バック殺し」の[3-2-5]。グアルディオラの真骨頂の正体は…【フォーメーション攻防解剖学・前編】

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

秋のフォーメーション集中講座と題し、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能することを試みた9月6日発売『フットボール批評issue33』から、昨シーズンのプレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、EURO2020におけるフォーメーションの攻防から、最先端の「構造利用メカニズム」を解剖した龍岡歩氏の「最先端フォーメーション攻防解剖学」を発売に先駆けて一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:龍岡歩)


効果絶大だった「5レーン」

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【写真:Getty Images】

 3バックか4バックか? サッカーの世界では、いささか旧聞に属するといってもいいこの命題が近年再び耳目を集め出している。

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 本来、ペップ・グアルディオラが言うようにサッカーのフォーメーションにおいて初期の立ち位置など電話番号程度の意味しかないのかもしれない。可変フォーメーションによって試合中にフォーメーションが変化するのが当然の現代サッカーならその傾向はなおさらだ。

 ではなぜ、約20年間ほぼ4バックで落ち着いてきた選手たちのデフォルト位置に変化の兆しが見え始めたのか? ここでその背景とメカニズムを考えてみたい。

 2016/17シーズンに初めてプレミアリーグの指揮を執ったペップは、マンチェスター・シティで独自の「5レーン」理論を研ぎ澄ませてきた。基本的に4人のDFが4つのレーンをゾーンで分担する4バックに対して、構造的に噛み合わせない5レーンの効果は絶大だった。ペップはシティ監督就任後の5シーズンで3度のリーグ優勝を飾り、そのうちの一つはプレミアリーグの歴代勝点記録を更新する圧倒的な強さを見せつけたのである。

 ペップ・シティの特徴は自身が[4-3-3]を基本フォーメーションとしながら、ボール保持時には[3-2-5]に可変させるところにある。この[3-2-5]はまさに「4バック殺し」ともいえるペップの真骨頂だった。その機能美は実際に[4-4-2]と対峙した時、鮮やかにピッチに描かれる。

3-2-5が生み出す「+1」の優位性とは?

図1
図1

 [3-2-5]が[4-4-2]と対峙すると、まずビルドアップの始点である3バックが相手2トップに対して「+1」の数的優位なので、必ず1人フリーの出し手を作ることが可能だ(図1)。

 そして前線の5枚も相手DFラインに対して「+1」なので必ずどこかが空く構造になっている。無論、その分、中盤は数的不利なのだがこれは大きな問題にはならない。なぜなら最終ラインの「+1」から最前線の「+1」に縦パスが入れば中盤を経由せずに、アタッキングサードまでボールを運べてしまうからだ。

 つまり[3-2-5]は[4-4-2]に対し、攻撃の「始点」と「終点」で「+1」の優位性を築ける関係性にあるといえる。

 さらに中盤の2枚の活かし方も効率的だ。彼らがパスを受ける時、DFラインからのパスだと通常は攻撃方向に背を向けて受けることになる。この状態は相手からするとプレスの格好の標的になりやすい。なぜなら中盤の2枚はこの時、ボールと背中から迫る敵を同一視できない危険な状態になっているからである。

図2
図2

 だが[3-2-5]だと、最終ラインから一度中盤を飛ばして前線にセーフティな縦パスが入りやすい(図2)。この縦パスをポストプレーで中盤に落とす形だとどうなるだろうか。ボランチは攻撃方向に対して前を向いてボールを受けられるので、より攻撃的なプレーに繋げやすくなるのだ。いわゆる「レイオフ」と呼ばれるプレーである。

(文:龍岡歩)

秋のフォーメーション集中講座! 『フットボール批評issue33』は9月6日発売。フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能することを試みた最新号
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≪書籍概要≫
定価:1650円(本体1500円+税)

秋のフォーメーション集中講座

今さら「フォーメーション」だけに特化したサッカー雑誌が、しかも東洋の島国から出るとの報せを、もし、イングランドのマンチェスター界隈、それもペップ・グアルディオラ、フアンマ・リージョが奇跡的に傍受したとしたら―。「フォーメーションは電話番号に過ぎない」と切って捨てる両巨頭に、「まだ日本ではそんなことを……」と一笑に付されるのだろう。いや、舌打ちすらしてくれない可能性が高い。

しかし、同誌はそんなことではめげない。先月無事に開催された東京オリンピック2020におけるなでしこジャパン戦のような感情論一辺倒の応援に似た解説だけでは、フットボールの深淵には永遠に辿り着くことはないと信じて疑わないからだ。「フォーメーション」と「フォーメーション以外」を対立させたいわけでは毛頭なく、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能したい、ただそれだけなのである。

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