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なぜ21歳のウクライナ人GKは軍入隊を決意したのか? 「契約を結ぶためハリコフへ行ったら、その日の朝に戦争が始まった」【コラム】

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「あの日、僕はとても憤っていた」



 フェドトフはすぐに決断を下した。「国家総動員令が発令された(侵攻の)初日、僕はすぐにドニプロへと戻り、父と共に書類を揃えてウクライナ軍に志願することにした」と明かす。

「あの日、僕はとても憤っていた。そもそもメタリストと契約するつもりだったんだから。でも、朝には戦争が始まってしまって、この国を守ることが僕に課された第一の義務だと気づいた」

 彼は今、地元ドニプロで都市防衛の任に就いている。ウクライナ中部にあるこの街は、ハリコフやキエフに比べてロシア国境から遠く、空爆などの被害は少ない。そのためボランティアの志願兵となった21歳のGKは「毎日、僕は軍の本部へ行き、街の施設を警備したり、軍人として必要なスキルを学んだりしている」という。

 やはり最も恐れるのは戦争によってウクライナが征服されることだ。愛する祖国、地元、家族、パートナー、友だちなど身近な「当たり前」が一瞬にして失われてしまうかもしれない。もちろん自らの命も。そんな状況を、1ヶ月前に誰が想像しただろうか。

「プーチンの精神状態は普通ではないんだと確信している。だが、ウクライナは負けない。彼らを倒し、僕たちの未来に明るい光が待っていることを信じている」

 フェドトフは志願兵として活動しながら、SNSやマスメディアを通して積極的にウクライナでの現状を発信している。今回の取材は、スペイン・モンティホ在住の友人の仲介によって実現した。別の機会でスペインの『ラジオ・マルカ』でインタビューに応じた際は、「全てが致命的な状況」だと述べつつ、こんなことを話していた。

「何が起きているのか、誰のせいなのかは、全ての人が知っている。なぜ彼ら(ロシア)がそうするかはわからない。ただ、僕たちは強い。僕たちは準備ができている。男性も女性も、全員が助け合う。なぜなら僕たちはウクライナ人で、強いからだ」

「僕は恐れていない。恐れることなんかできない。僕の家族も(ボランティアで)軍をサポートしている。父は一緒に軍に入った。(ロシア軍の到来に備えて)準備しなくてはならない。それしか僕たちにできることはない。僕は男だし、それ(戦争の準備)が僕のしなければならないことだ」

「僕はウクライナを去ろうなんて考えてこなかった。僕はここにいたい。家族はヨーロッパ(の他の国)へ行きたいと思っていたけれど、僕は違う。そんなこと僕にはできない」

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