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なぜ21歳のウクライナ人GKは軍入隊を決意したのか? 「契約を結ぶためハリコフへ行ったら、その日の朝に戦争が始まった」【コラム】

text by 舩木渉 photo by Getty Images

フェドトフが抱く大きな夢

ニキータ・フェドトフ
【写真:本人提供】



 戦争に真の勝者はいない。失うものばかりで、結局のところ終わった時には誰もが敗者だ。ロシア国内ではプーチン大統領への非難の声が強まり、各地で反戦デモも起きているという。一方、ウクライナでは住民や同国軍による必死の抵抗が続く。このまま戦乱が長期化して、行き着く先はどこか? 地獄だろう。

 侵略によって破壊し尽くされたウクライナの復興には膨大な時間もお金もかかる。国家を再建できたとしても、彼の地に住む人々が負った心の傷は一生癒えることはない。一方、ロシアの人々は欧米からの厳しい経済制裁による影響に苦しむはずだ。本来なら争うはずのなかった“兄弟”が、理不尽な主張を繰り返す1人の為政者の暴走によってぶつかり合う運命を強いられ、苦しむ姿はもう見たくない。一刻も早く、この戦争は終わらせなければならない。

 フェドトフは言った。「戦争が終わった後にどうなってほしいか? その質問に答えるのは難しい。でも、とにかく僕や家族にとって故郷であるこの国に住み続けたいんだ。ウクライナは僕の家。僕はこの国を愛している」と。

 罪のない数多の人々の命が奪われていく。祖国の大地も失ってしまうかもしれない。ベトナムでも、アフガニスタンでも、シリアでも……世界中で戦争は起こってきたが、日本にとって「ロシアの隣国」という同じ立場のウクライナが侵略を受けていることで、かつてなくリアルな危機感と連帯感を覚えている。

 子どもたちや若者が夢を追えない未来を作ってしまっていいのだろうか。誰もが平和に暮らし、幸せを感じられる世界は実現できないのだろうか。今はとにかくプロサッカー選手であるフェドトフが、全ての任務を無事に終えて再び夢を追いかける日々に戻れるよう心から祈っている。

 彼には実現したい、大きな夢があるのだから。

「欧州のクラブでプレーして、ピッチに立ってCLアンセムを聴きたい。それが僕の夢だ」

(取材・文:舩木渉、協力:ホセカ・デュラン・デルガド)

【了】

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