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イングランド代表はなぜ大勝できたのか。何がハマった? 6戦未勝利から6発大勝【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

イングランド代表を優勝候補と断言できない理由とは


【写真:Getty Images】


 先述した通り、イラン代表は実践で5バックを試したことがなく、急造のものだった。5バックは中盤と両SBが連動してプレスを掛けなければ、相手に押し込まれ続けられるのだが、急造のイラン代表はそれができなかった。3トップは辛うじてプレスをかけようとするも精度、強度ともに低く、逆に中盤に広大なスペースが生まれている。

 この中途半端な守備組織をイングランド代表の選手が見逃すはずがなく、先制点の場面ではハリー・マグワイアが中央のメイソン・マウントに縦パスを入れて、そこから大外を駆け上がってきた左SBのルーク・ショーに繋がり、最後は3列目からボックス内に上がってきたジュード・ベリンガムがショーのクロスを合わせてネットを揺らした。

 この見事な攻撃が生まれたのはフォーメーション変更も大きく影響しているだろう。ガレス・サウスゲート監督のチームは4バックと3バックを使い分けるチームなのだが、この試合では3バック時に右CBに入るカイル・ウォーカーが起用できなかったため、必然的に4バックとなっている。

 その結果、この試合でイングランド代表は4-3-3(守備時は4-2-3-1)のフォーメーションを採用した。中盤のベリンガムはかなり流動的で、攻撃時は先制点の場面のように積極的に前線に上がって数的優位な局面を作りだし、守備時はデクラン・ライスと同じ低いラインで多くのボールを回収した。結果的にこの4-3-3の採用がハマった形となり、現状のチームの最適解を見つけたと言えるかもしれない。

 チームのベストな形を見つけた上で、この試合で得点を決めたベリンガム、サカ、ラヒーム・スターリング、マーカス・ラッシュフォード、ジャック・グリーリッシュはいずれもワールドカップ初ゴールであり、自信を深めるには十分すぎる要素が初戦にして揃った。

 一方でイングランド代表には先述したイラン代表の状況に加え、イングランド代表はUEFAネーションズリーグで組織的なプレスを掛けてくるハンガリー代表やドイツ代表に苦戦をした過去がある。初戦に勝利したためグループ突破の可能性はかなり高いだろうが、この戦い方でのサンプルがこの試合以外にないため、優勝候補の一角に挙げるには判断材料が少なすぎる。手放しにイングランド代表を賞賛するには早すぎるだろう。

(文:安洋一郎)

【了】

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