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なぜ若手の海外移籍が加速するのか? 日本人を欲しがる欧州クラブの思惑をシントトロイデン立石敬之CEOに訊く【1/4】

シリーズ:シントトロイデン立石敬之CEOに訊く text by 元川悦子 photo by Getty Images

日本人選手の欧州移籍が増えた理由



 今季ブンデスで最下位に沈んでいるシャルケなどは財政難の典型例だろう。内田篤人が在籍した2010~2016シーズンはロシアのエネルギー企業・ガスプロムがメインスポンサーで、潤沢な資金力でサポートしていたが、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を契機にパートナーシップを解消。クラブは一気に資金難に陥り、板倉滉の買い取りも叶わなかった。昨季ドイツ5部・デューレンでプレーしていた上月を一気に引き上げたのも、「安く戦える選手がほしい」という思惑の表れではないだろうか。

「板倉の買い取りに当たって500~600万ユーロ(7~8億円)を出せないというのは、正直、ビックリしましたね。シャルケというのは、ご存じの通り、ドイツのビッグ3に入る名門。フェルティンスアレナの収容規模(約6万2000人)を見てもそれが分かります。強化部長もよく知っていますが、厳しいと言っていた。それだけ経営的苦境に直面しているのが実情なんです。

 欧州サッカー界のマネーの流れは紛れもなくイングランド偏重。それはチャンピオンシップも含めてです。その現実をよく理解したうえでアプローチを考えていかないといけない。そのあたりは日本の関係者やファンも理解する必要があると思います」

 とはいえ、日本人選手の欧州移籍の流れに歯止めがかかるというわけではないという。前述の通り、コスト的に安い若い世代に目をつける動きは加速しているからだ。ドイツやベルギーも2017~2019年頃は一時的に日本人選手の数が減少したものの、そこから増加に転じている。「安くて有能な日本人がほしい」と考えるクラブの強化担当やダイレクターは少なくないのだ。

「ドイツなどはお金がある時は日本人を取りませんけど、お金がなくなったら取るという考え方が顕著だと思います。日本側が安く出してしまっていることも一因だと思いますけど、今の欧州市場にとって日本の若い選手は有望株だということ。それは事実だと思います」

 立石CEOはこう指摘したが、海外に行きたい若手選手にとっては追い風が吹いているということになる。ただし、その全員が成功するとは限らない。次回はその背景を深堀していきたい。

(取材・文:元川悦子)

プロフィール:立石敬之(たていし・たかゆき)


【写真:シントトロイデン】

国見高校時代に全国高校サッカー選手権大会優勝し、創価大学、ブラジル、アルゼンチンなどへの留学を経てベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、東京ガスサッカー部(現FC東京)、大分FC(現大分トリニータ)でプレー。現役引退後は大分トリニータ、FC東京で強化部長やGMを歴任し、2018年にベルギー・シントトロイデンのCEOに就任。2023年1月でJリーグ理事を退任し、同年2月よりアビスパ福岡の副社長に就任する。

【了】

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