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なぜアーセナルのトロサールCF起用はハマったのか?データが示すフィットの理由【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

トロサールがストライカーで起用される理由


 トロサールとエンケティアの最大の違いはWGの選手とポジションを入れ替えながら、ゴールに迫れるということだ。今のアーセナルにはマンチェスター・シティのアーリング・ハーランドのような特定の得点源はいない。その一方で、マルティネッリとブカヨ・サカ、ウーデゴールの3選手が既にシーズン二桁ゴールを記録している。

 ストライカーではない彼らが得点を奪うためには、前線の流動性が欠かせない。ポジションを入れ替えながら相手ディフェンスのマークをかく乱させ、細かいパスワークでゴール前へと迫る。このサッカーを展開する上で重要なのが、今節大活躍したトロサールや前半戦で絶好調だったガブリエウ・ジェズスといった、前線のどこでプレーしてもプレー精度が高い選手なのだ。

 その一方でエンケティアは、相手最終ラインの選手と駆け引きをしながらゴールを狙うことは得意だが、左右に流れた時のプレー精度が低い。それは得点数とアシスト数の関係にも表れており、エンケティアが4得点1アシストだったのに対し、トロサールは1得点5アシスト(アーセナル加入後のみ)、ジェズスは5得点6アシストと、後者2名は得点よりアシストが多い。彼らが周りの選手を活かすことを得意としていることがよくわかるだろう。

 トロサールはブライトン時代に本職の左WGだけでなく、ストライカーや左ウイングバックでもプレーしてきた。グレアム・ポッター監督の下で幅広いポジションでプレーしたことが今に活きているのだ。

 実際に今節の2得点目のシーンでは、トロサールとマルティネッリがポジションを入れ替えている。トロサールは右足と左足、どちらの精度も高く、利き足ではない左足のクロスでもゴールに直結するクオリティを発揮する。彼をストライカーのポジションで先発起用したことの意図がよく分かるシーンだった。

 そしてこの試合ではカタールW杯で負傷を負ったジェズスがピッチに帰って来た。アルテタ監督からすると、トロサールとジェズス、2人の万能型FWの存在は頼もしい限りだろう。

(文:安洋一郎)

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