ウルトラスという集団の立ち位置とは
スマートに乗車していた49歳のベレッタは、もう一人の同乗者、36歳のアントニオ・ベッロッコと口論になった。ベッロッコが所持していたピストルが発泡され、ベレッタは足を負傷。短い格闘の末、車から生きて降り立ったのは一人、ベレッタだけ。ベッロッコはナイフで喉元を突き刺され、そのまま息絶えていた。
2人は、”親交が深く”、その前日もフットサルを興じていた。ベレッタは「自分を守るためだった。さもなければ、自分が殺されていた」と弁護士を通じて供述している。
殺害されたベッロッコは、カラーブリア州を拠点とする犯罪組織「ンドランゲタ」で、最も力を持つファミリーのうちの一つの一員だった。そのような“有力者”をなぜベレッタは殺害してしまったのだろうか。『ゴモラ』の原作者であるジャーナリストのロベルト・サビアーノはこう語る。
「ベレッタは、2022年10月29日、伝説的なウルトラスのリーダーであった69歳のビットーリオ・ボイオッキが殺害された後、クルバ・ノルドの頂点に立った。この男がクルバを掌握するために、カラーブリア州ロサルノのベッロッコ一族、特にアントニオとの関係を築いた」と2人の関係の始まりを説明する。
さらに、「ベッロッコは、単に支援の見返りを求めただけではなく、インテルのウルトラスに関連するビジネス全体を支配しようとしていた」。各クラブのウルトラスは、ンドランゲタだけでなく、カモッラ(ナポリの犯罪組織)、コーザ・ノストラ(同シチリア)とも以前から協力関係にあった。
このような犯罪組織は、ウルトラスと提携し、自分たちが運営する企業が製造したクラブのグッズを販売し、チケット転売行為や駐車場のみかじめ料により収益の一部を得ていた。一方でウルトラスは、スタジアム内外で犯罪組織の麻薬を売りさばき、そのマージンを受け取っていた。
サビアーノは、「ウルトラスは、“沈黙の掟”を守るマフィアの一員ではない。彼らは犯罪組織と協力しているものの、しばしばアルコールやドラッグに溺れ、無駄に好戦的で、極右思想に染まっていることが多い。
そのため、警察の捜査に簡単に巻き込まれ、逮捕される。ウルトラスの存在は、マフィアの莫大なビジネスに悪影響を及ぼしかねない」と、ウルトラスの立ち位置を説明する。