後半、なぜベンチへ?
1つ目は、ソシエダの選手たちが、久保なら“何かを起こしてくれる”と信じ、彼にボールを集めるチーム戦術を取っていたため。2つ目は、そうして無理やりボールを引き取ったとしても何かを起こせる、久保という、ワールドクラスの選手が持つ圧倒的な“個”の力のためである。チーム戦術の中核に日本人がいることで、ソシエダは相手を圧倒して前半を終えた。
迎えた後半、ソシエダはチーム戦術を変更する。それまでの苦しいビルドアップを放棄し、ロングボール中心の前進方法に切り替え始めたのだ。ハマっているプレスからショートカウンターの形を増やし、またビルドアップを放棄することで相手のショートカウンターの芽を摘むという、2つの合理的な狙いがうかがえた。
そしてこの戦術変更後も、久保は大活躍を続ける。プレス回避の局面が無くなったとはいえ、カウンター時にはB・メンデスやオヤルサバルとパスを交換しながら相手に襲い掛かり、一瞬のスプリントでかわしてシュートを放つ。48分には、この試合1番の決定機を迎えた。
転機となったのは、62分の選手交代だ。
まず、左のハーフスペースでプレーしていたMFセルヒオ・ゴメスが、左の大外でのプレーを好むFWアンデル・バレネチェアに代わった。これにより左サイドと中盤、中盤と右サイドのリンクが弱まり、ボールを奪った後、同サイドに展開するシーンが増加した。
そして、右のインサイドハーフがB・メンデスからMFルカ・スシッチに代わった。スシッチはより高い位置を取り、オヤルサバルと2トップ気味になった。これにより久保と右インサイドハーフの繋がる意識が薄れ、右大外に幽閉された久保は、試合から消え始めた。
チーム戦術も、左奥のスペースに直接ロングボールを放り込む形へとシフトしていった。サイドに流れたオヤルサバルとバレネチェアが頑張ってボールを収め、素早くクロスを供給する、ダイレクト志向の強いスタイル。久保の存在意義はますます薄れていった。
クロスへの飛び込みなら、FWシェラルド・ベッカーの方が迫力がある。裏への雑なロングボールでの抜け出しも、ベッカーの方が可能性を感じる。是が非でも勝ちたいこの試合、ダイレクト志向に舵を切ったチームにおいて、82分に久保を下げるのはこうした合理性があったと考えられる。