「パスにバックスピンがかかっていたからこそ…」
ただ、インパクトの刹那にハードヒットはさせない。ボールの下側に右足を優しくタッチさせ、柔らかい軌道を描かせたパスには、実は意図的にバックスピンまでもがかけられていた。途中出場していた木下康介が前方でフリーなのを把握したうえで、30歳のストライカーへ同点への願いを託したと中島が明かした。
「足元でボールを受けるのではなく、(相手ゴールへ向かって)ちょっと流れながら迫っていってほしいと思っていたので。なので、自分のパスが強くなりすぎないように、という感じでした」
メッセージはバックスピンとともにしっかりと木下へ伝わった。ワンバウンドした後に球足が伸びないパスに合わせて全力でスプリント。慌てて左右から挟み込むように止めにきたMF池田昌生、DF大岩一貴の間をすり抜け、利き足とは逆の左足でシュートを打つ体勢に入るまでの時間をこう振り返った。
「自分が早くボールに触れたなかで、シュートの方向性もすぐに決められました。パスにバックスピンがかかっていたからこそ、相手キーパーも前へ出づらかったと思います。もしもあれが普通のパスで、バウンド後に流れてきたら一歩早く前へ出てきただろうし、ニアのコースも空かなかったはずなので」
狙い通りのニアを撃ち抜いた同点ゴール。6月に柏レイソルから完全移籍で加わった木下は、ため息が出るほど美しいスルーパスで、ゴールに必要なすべての状況を瞬時にお膳立てした中島を笑顔で称賛した。