アクシデント発生…最前線に残るか、それとも最後まで戦い抜くか
「前節や前々節の(木村)太哉くんのプレーを見て、ファジアーノを体現しているというか。チームのために走るプレーを近くで見て、刺激を受けるものがありましたし、戦うところから始めようと思って臨みました」
このプレー直後は立ち上がることができず、足を伸ばす仕草を見せた。足を攣ってしまうかもしれない。そんな予感がすれば、自重するという選択肢も浮かんでくる。長くピッチに立ちたい選手であれば、途中で交代するわけにはいかないという思いを尊重しても不思議ではない。前回に先発した試合が不完全燃焼に終わった選手ならばなおさらだ。だが、気持ちのリミッターも、身体のリミッターも外れていた。先のことを考えるのではなく、目の前の競り合いに、一つ一つのプレーに、一瞬一瞬に、全力を注いでいたから。
自分の身体に鞭を打ち、気持ちを奮い立たせて戦い続けたが、85分に下田と空中戦を競り合った直後、ピッチに座り込んでしまった。通常であればプレー続行が不可能であることを意味するジェスチャーである。それでも、藤井には戦わなければいけない理由があった。78分の段階で全ての交代枠を使い切っていただけでなく、前半にはMF田部井涼が負傷交代しており、チームはボランチでプレーする選手が多くない状況に陥っていた。
最前線に残るという緊急措置もあった。攻め込まれる状況で思うように走れない選手が守備ブロックを形成すれば、スライドやカバーリングが間に合わなくなり隙が生まれてしまう。木村からも前線に行くよう促されていたが、岡山から600km以上離れた町田GIONスタジアムに駆けつけたサポーターの声援を受けた藤井は、自らボランチとして戦い抜くことを選んだ。今シーズン何度も自分に言い聞かせてきた「ラストチャンス」を活かし、「監督からの期待」に応えたい。執念が足を動かした。
相手の動きやボールに食らいつき続けた。左右へのスライドも行い、カバーリングにも走った。それでも、岡山は残り30秒ほどの時間帯でセットプレーの流れから決勝点を許した。最後まで守り抜くことができなかった藤井は、試合後に何度も後悔を口にした。