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コラム 2か月前

セリエAなのにイタリア人がいない…。なぜ優秀な若手が育ちにくいのか。「今の限界を招いてしまった」大きな誤解とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 佐藤徳和 photo by Getty Images

 セリエAのピッチから、イタリア人の姿が消えつつある。開幕節でピッチに立った自国選手はわずか98人。セリエAが抱えるこの異常事態は、単なる統計ではなく、イタリアサッカーの構造的な危機を示している。気づけば、ロベルト・バッジョやフランチェスコ・トッティのようなファンタジスタの系譜が途絶えかけている中、カルチョが再び本来の姿を取り戻す日は訪れるのだろうか。(文:佐藤徳和)

イタリア人選手の割合はわずか…

セリエA
【写真:Getty Images】

 

 セリエAからイタリア人が消えつつある。

 それはまるで絶滅危惧種に指定された動物のように。今季の開幕節にピッチに立ったイタリア人選手はわずか98人。315人中31.1%にとどまり、外国人選手の数は217人にのぼった。

 新型コロナの世界的流行以前、交代枠がまだ3人までだった2017年でさえ、開幕節には128人のイタリア人選手がピッチに立っていた。2021年は120人、昨季は106人、そして今季、ついにその数は初めて100人を割り込んだ。

 外国人選手217人の出身国は57カ国に及び、最も多かったのはフランスの23人。次いでスペインが18人、アルゼンチンが15人と続いた。コモ1907は、初戦のラツィオ戦で先発した11人が全て外国人プレーヤーだった。

 さらに、途中出場した5人も全て自国外の選手。この試合の登録メンバー25人のうち、イタリア人は、パトリック・クトローネとアレッサンドロ・ガブリエッローニ、エドアルド・ゴルダニガの3人のみ。

 試合後、クトローネはパルマに、ガブリエッローニはセリエBのユーヴェ・スタビアに移籍し、第2節以降は、ゴルダニガが登録メンバーに名を連ねる唯一のイタリア人選手となってしまった。

 指揮官セスク・ファブレガスの母国語、スペイン語が飛び交うチームで、ゴルダニガは「一体どの国のリーグで私はプレーしているのか」と錯覚を抱いているに違いない。

イタリアには優秀な若手がいない…

 この現状にファブレガスは「スペイン人の若手とイタリア人の若手がいたら、いつだって君たち、イタリア人の選手を選ぶ。でも、君たちには優秀な若手がいないじゃないか」と語った。

 そう、実際に優れたイタリア人選手を探し当てるのは、干し草の中で縫い針を探すようなものとなってしまった。

 昨季の比較では、欧州5大リーグで最も外国人選手が多いリーグはセリエAだった。全体の67.5%となり、67.4%のプレミアリーグも僅差で上回った。

 リーグ・アンが61.8%、ブンデスリーガは54%、ラ・リーガは41.2%と続く。

 優秀な若手選手を輩出し、FIFAランキングでトップに立つスペインは、リーグの半分以上で自国の選手がプレーしながら、プレミアリーグやセリエAでも多くのスペイン人選手がプレーしている。

 いかに育成システムが優れているかが証明されている。

 外国人選手の増加に拍車をかけた要因の一つとして、2019年に導入された「デクレート・クレッシタ(成長令)」が挙げられる。

 左派ポピュリズム政党「五つ星運動」が首相に擁立したジュゼッペ・コンテ政権によって制定された法令である。

 その「成長令第34条」は、海外から来た労働者や、少なくとも2年以上国外に居住していたイタリア人がイタリアに居住地を戻した場合、その所得に対する課税が軽減されることが定められていた。

 北部と中部では課税対象となる所得の70%が、サルデーニャ州とシチリア州を含む、アブルッツォ州以南の所得水準が低い南部では90%が非課税となっていた。

イタリア代表がW杯出場を逃し続けたことで…

 この労働者向け法令の導入から数カ月後、同様の措置がサッカー界にも適用された。プロサッカープレーヤーに対しては、個人所得税の計算において、課税所得が北部、中部のクラブでは約50%、南部では70%が除外された。

 19/20シーズンのセリエAではナポリやUレッチェ、カリアリが。セリエBでは、ペスカーラ、ユーヴェ・スタビア、ベネヴェント、サレルニターナ、コゼンツァ、クロトーネ、トラーパニが南部のクラブに該当した。

 しかし、イタリア代表がワールドカップ(W杯)出場を逃し続けたことで生じた政治的圧力を受け、22/23シーズンにこの法令は一部修正された。

 それまではユース選手にも適用可能だったが、改正後は「20歳以上」、「年俸100万ユーロ(約1.7億円)以上」の選手に限定された。

 さらに、保守・国家主義の中道右派の政党「イタリアの同胞」党首で、首相に任命されたジョルジャ・メローニの政権によって、2024年1月、この優遇措置は正式に廃止された。

 ただし、すでにこの制度の恩恵を受けていた選手に関しては、法に則り5年、または10年の適用延長を申請していれば、有効期限まで引き続き優遇が適用される。

 インテルのマルクス・テュラム、フィオレンティーナのモイーズ・キーン、ミランのマイク・メニャンとクリスチャン・プリシッチらが、現在も「成長令」による優遇措置の恩恵を受けている。

 セリエAは、リーグの競争力を高める目的で政府に対しこの制度の再導入を働きかけているが、排外主義的な姿勢を持つメローニが首相である限り、この制度の復活はあり得ないだろう。

 むしろ自国選手の積極的起用が促進されるために、イタリア人選手への支援策が求められる。

アンダー世代は国際大会で結果を残す

 セリエBにおいては、23/24シーズンより、イタリア人若手選手の起用に対して経済的な報奨を与える制度が施行されている。

 このような制度が導入されたことにより、セリエBのチームでは、イタリア人の積極起用が目立ち始め、中にはイタリア人だけが先発メンバーに名を連ねるようなチームも現れるようになった。

 かつては、そのようなチームがセリエAにも存在した。90年代のピアチェンツァだ。登録メンバーのすべてがイタリア人で構成された稀有なチームであった。

 イタリア人で構成されたセリエBのチームが、昇格を決めてトップリーグを長期間に渡って主戦場とするようなことになれば、セリエAのイタリア人率が今後多くなる可能性はあるだろう。

 イタリア人に優れた選手がいないわけではない。

 U-17は2024年欧州選手権決勝でポルトガル代表を3-0で破りヨーロッパの頂点に立った。U-19は2023年欧州選手権でこちらもポルトガル代表との決勝を1-0で制し、タイトルを獲得している。

 2023年のU-20W杯では準優勝。現トリノのチェーザレ・カサデイが得点王とMVPを獲得した。

 ではなぜ、こういった若手がセリエAでは見られなくなっているのか。

セカンドチームは増えているが…

 ユース世代までは育成が上手くいっているものの、その後、トップチームで起用されるケースが極めて少ない。トップチームとプリマヴェーラ(下部組織)のカテゴリーのレベルがあまりにもかけ離れているからだ。

 それゆえ、近年はその中間にあたるチームが設立されている。いわゆるセカンドチームだ。

 2018年のユヴェントス Next Genを皮切りに、アタランタU-23、ミラン・フトゥーロ、インテルU-23が立ち上げられ、トップチームにまだ定着できない選手たちの受け皿となっている。

 だが、若手の才能を十分に引き上げきれているとは言い難い。

 例えば、U-20W杯に同イタリア代表として参戦中の18歳MFマッティア・リベラーリは、ミランの将来を担うタレントと言われていた。それが、今夏の移籍市場で、セリエBのカタンザーロにあっさりと放出されてしまった。

 ミランは、将来の転売益の50%およびFIGC(イタリアサッカー連盟)による技術育成奨励金を保持するとはいえ、フリートランスファーで手放したのは驚きを持って報じられた。

 これが、スペインであれば、こうしたタイプの選手はトップチームで重宝され、出場機会を与えられていただろうという見方が一般的だ。

結果が保証されない若手選手の起用に消極的?

 また、イタリアの指導者たちが有望な10代の選手を使う勇気を欠いていることも指摘されている。勝利至上主義が根強く、結果が保証されない若手を思い切って起用する姿勢には依然として消極的だ。

 リベラーリ自身がミランを早期に離れたいという強い意思を示し、ミランのCEOジョルジョ・フルラーニとスポーツディレクターのイグリ・ターレの双方が承認したと見られる。

 マッシミリアーノ・アッレグリ監督がリベラーリをトップチームの序列に継続的に組み込むかどうか、確証がなかったため、本人が移籍を志願したと言われている。

 ミランは昨季、フトゥーロが、セリエCからセリエDに降格。セミプロのセリエDでは、リベラーリの実力がそぐわないこともあり、放出を決断したということもあるのかもしれない。

 幸いにも、カタンザーロの指揮官アルベルト・アクイラーニが獲得を熱望し、移籍が実現した。契約期間は2029年6月30日まで。再び彼がセリエAの舞台に立つ日が一日でも早く訪れることを願うばかりだ。

 優秀な選手が見られなくなったわけではないが、フオリクラッセやフェノメノと呼ばれる規格外、あるいは怪物というような唯一無二の選手がイタリアからは生まれにくくなってしまった。

 今のイタリアで唯一フオリクラッセと呼べる存在は、GKのジャンルイジ・ドンナルンマだけだろう。その原因は、ユース世代の指導法にもあるようだ。

「この誤解が今の限界を招いてしまった」

 若年層においても、多くのイタリア人指導者は、技術よりも、戦術を重視する傾向にある。さらに、グラウンドでは、「簡単に! 簡単に!」という指示が、指揮官から発せられる。

 ドリブルを仕掛け、失敗するようなら、その選手は、お払い箱となってしまう。イタリアにドリブラーが生まれないのは、こうした現場の空気が影響しているのだろう。

 また、かつては、優秀なセンターフォワードやセンターバックを数多く生み出してきたが、近年は指導者に“ポゼッションマニア”が多く、ボールをつなぐトレーニングに時間を割き、シュートや1対1のトレーニングが疎かにされているとも言われている。

 この現状に対し、カルチョ界の重鎮、ファビオ・カペッロは2024年6月の『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューでこのように語っている。

「イタリアでもここ数年、『グアルディオラを手本にする』流れがあった。だがそれは、10年前のペップを模倣していたに過ぎず、彼自身は常に進化し続けていた。この誤解が今の限界を招いてしまったのだ。

 イタリアの選手たちは、前にパスを出す責任を負おうとせず、ドリブルで仕掛けるリスクも取らない。我々は『美しいサッカー』と『無意味なポゼッション』を混同してしまった。本当の美しいサッカーとは、いまのスペインが見せているプレーであり、それこそが模範だ」

 ポゼッションが本来ゴールを奪うための手段の一つであることを忘れ、ボール保持が、目的そのものとなってしまったと痛烈に批判している。

型にはまったスクールでの育成が主流になると…

 かつてイタリアは、ファンタジスタの宝庫であった。ロベルト・バッジョ、フランチェスコ・トッティ、アレッサンドロ・デル・ピエロ、アンドレア・ピルロと枚挙に暇がない。

 しかし近年、イタリアには“ファンタジスタ”と呼べる選手が姿を消しつつある。

 その大きな要因として、ファンタジスタの原点とも言えるストリートサッカーや、カトリック教会施設に付属するオラトーリオでサッカーに親しむ子どもたちが激減している現状がある。

 かつては、そうした場で指導者の指示を受けることなく、自由奔放にボールを蹴る中で創造性が育まれていた。それが独創的なプレーの源だった。

 しかし現在のように、型にはまったスクールでの育成が主流になると、技術力のある選手は育っても、指示通りにしか動けない“機械的なプレーヤー”ばかりが生まれてしまう。

 この現象はイタリアに限ったことではなく、ブラジルも同様だ。

 実際、2026年W杯南米予選でブラジル代表は5位と苦戦を強いられ、10月14日には日本代表に対して初めて黒星を喫した。“サッカー王国”もまたイタリアと同様に不振に喘ぐ。

 こうした流れの中、ラツィオ州では10月、オラトーリオに対する600万ユーロ(約10.2億円)超の投資を決定した。これはサッカーの技術向上を直接的に狙った施策ではない。

 スマートフォンに支配され、仮想空間に閉じこもりがちな若者が増える現代において、現実のつながりを取り戻し、孤独や疎外を乗り越えるための“居場所”を提供しようとする社会的な取り組みである。

 とはいえ、こうした動きがイタリア各地に広がれば、間接的にサッカー文化の再生や技術的レベルの向上につながる可能性もある。

 即効性のある“特効薬”とは言えないが、こうした動きがどのように発展していくか、今後も注視していきたい。

(文:佐藤徳和)

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【了】

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