明治安田J1リーグ第34節、京都サンガF.C.はアウェイで湘南ベルマーレと1-1で引き分けた。味方の退場によりセンターバックにポジションを移した須貝英大は、試合終了間際に起死回生の同点ゴールを決め、勝ち点1獲得に大きく貢献した。次節、古巣鹿島アントラーズとの大一番に向け、背番号22は全身全霊で挑む覚悟を見せている。(取材・文:元川悦子)
逆転優勝へ勝利が必要だった京都サンガF.C.

【写真:Getty Images】
10月代表ウィーク明けのJ1第34節は、首位を走る鹿島アントラーズと暫定4位のヴィッセル神戸、同5位のサンフレッチェ広島の上位グループが勝ち点1を追加。柏レイソルが勝ち点3を加えて同2位に浮上し、勝ち点7の間に5チームがひしめく混沌とした状態になってきた。
こうした中、19日に遅れて試合が組まれていた京都サンガF.C.は、J1逆転優勝を賭けてアウェイで湘南ベルマーレに挑んだ。
試合前の京都の勝ち点は60で、鹿島とは6ポイント差。25日にホームでの直接対決を控えているため、何としてもこの一戦で勝ち点3を積み上げ、勢いをつける必要があった。
一方、J2降格の危機に瀕している湘南も今回は絶対に負けられない。かつて湘南を率いた曺貴裁監督も相手の粘り強さを誰よりも熟知しているはず。細心の注意を払いながらゲームに挑んだに違いない。
案の定、この日の湘南は鋭い入りを見せ、29分に先制点を奪う。武田将平から福田心之助に出された横パスを中野伸哉が巧みにカット。そのままドリブルで持ち込み、エース・鈴木章斗にラストパス。背番号10が右足で冷静に仕留めた。
早い時間帯にビハインドを背負った京都。だが、36分に左サイドを駆け上がった須貝英大がドリブル突破でゴール前に侵入。小野瀬康介に倒され、PKを獲得した。
これを原大智が決めていれば、京都は試合を振り出しに戻せたのだが、原のシュートはGK真田幸太の正面。絶好のチャンスを逃してしまった。
「やることは変わらないと…」
さらに苦しかったのが、前半アディショナルタイムの鈴木義宣の退場だ。この日絶好調の中野を削ってDOGSO(決定的得点機会の阻止)で一発レッドカードとなり、京都は10人での戦いを強いられたのだ。
そこで曺監督はベンチのDFアピアタウィア久を出すのかと思われたが、左サイドバック(SB)の須貝をセンターバック(CB)に移す決断を下した。
「須貝がCBをこなせるのは練習を見ていて分かっていたし、彼を高校生の時から見ている僕は安心して任せられた。僕が他のJリーグの監督さんと違う目を持っているとしたら、若い時から彼らを知っているということ」と曺監督は説明したが、須貝本人もすんなりCBにスイッチできたという。
「(浜松開誠館)高校の時もCBをやっていましたし、3バックの左右もやっていたポジションだったので、やることは変わらないと思いました。どこで出てもしっかりプレーすることが一番大事だと考えてやりました」と背番号22は自信を持ってのぞんだ様子だ。
172センチの須貝と171センチの宮本優太では明らかに高さが足りない。対峙する湘南の鈴木章斗と小田裕太郎は180センチ超。リスクはあったが2人はしっかりと意思統一しながら相手の攻めをしのいだ。
「僕らはちっちゃいですけど…」
「僕らはちっちゃいですけど、競り合いには1人1人がオンリーで行かなきゃいけないと思っていた。負ける前提の下でチャレンジ&カバーをハッキリしようと声をかけていましたね」と宮本も話したが、スピード系CBコンビは湘南の攻めを確実に阻止。チームに新たな活力を与えていく。
長沢駿や奥川雅也ら途中出場のアタッカー陣もグイグイと前へ前へ突き進んでいき、京都は数的不利を感じさせない戦いを見せたのだ。
迎えた後半アディショナルタイム。表示は8分だったが、VARの介入などで時間が延び、10分を過ぎた。そこで京都は劇的な同点弾を叩き出す。
宮本が前線の中野瑠馬につけ、右サイドの山田楓喜に展開。左足の名手はファーサイドのゴール前に絶妙のクロスを蹴り込んだ。
ここに飛び込んだのがCBでプレーしていた須貝。フリーになった彼はヘッドを叩き込み、京都は辛くも1−1に追いついて勝ち点1を獲得。求めていた3ポイントは取れなかったが、最低限の結果を手にして、鹿島との直接対決に挑める形になった。
「特に鹿島相手は…」
「生半可な気持ちじゃ勝てない相手だと思いますし、必ず相手はぶっ倒しに来る。まずメンタルでやられないこと。特に鹿島相手はメンタル勝負になる。とにかくいい準備をして勝つというところで、自分たちにベクトルを向けてやっていくだけですね」と殊勲の男・須貝は古巣対決に闘志を燃やしていた。
彼は2023年夏から1年半を鹿島で過ごした選手。その前に在籍していたヴァンフォーレ甲府時代にはキャプテンとして2022年天皇杯制覇の原動力となっていただけに、鹿島では大活躍するだろうと目されていた。
ところが、最初のシーズンは安西幸輝、広瀬陸斗(神戸)の両SBに阻まれ、思うように出場機会を得られなかった。
翌2024年は広瀬の移籍で右SBが空き、今度こそ須貝がレギュラーになると見られたが、大卒ルーキーの濃野公人が高評価を受け、彼に定位置を奪われた。
左SBにも安西がいたことから、須貝は「両SBの控え」と位置づけられ、カップ戦などで先発起用されるだけだった。
「自分で難しい状況を…」
「この1年間はもちろん悔しい。実力不足は明確なんで、自分のことだけに目を向けるしかない」と本人も昨夏、悔しい胸の内を吐露していたが、状況は変わることなく鹿島を退団。今年から京都に赴き、曺監督や新たなチームメートとの出会いで活躍の場を広げていき、今回の劇的同点弾に至ったのだ。
「鹿島時代は自分で難しい状況を作ってしまいましたし、“自分の甘さ”を見つめ直す機会になった。みんなから沢山の言葉をいただきましたし、もっともっと練習しなきゃいけないということにも気づけた。本当に感謝していますし、あの学びがあったからこそ、今の自分があると思っています。
その鹿島を倒さないと優勝はない。鹿島は常に慌てないし、いい時も悪い時も主導権を握っているのが彼らの良さ。(17日の)神戸戦を見ても、最初から神戸がフル出力で襲いかかっていましたけど、ああいう形を出せば鹿島の良さが出にくくなる。とにかく相手のペースに飲まれないように、先手先手を取ることを意識してやるべきですね」と須貝はかつての仲間に堂々とぶつかっていく覚悟だ。
次戦は鈴木義宣が出場停止。曺監督が続けて須貝をCBで送り出すのか、それとも左SBで起用するのかは予想がつかないところだ。
どちらにしても須貝は全身全霊を注ぐはず。仮に左SBで出る場合は、昨季レギュラー争いを繰り広げた濃野とのマッチアップの機会もあるだろう。それを制し、一段階二段階飛躍した自分の姿を見せられれば、鹿島時代の苦労も報われる。
京都の背番号22にとって、次の鹿島戦はサッカー人生を賭けた大一番になる。その一挙手一投足から目が離せない。
(取材・文:元川悦子)
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