明治安田J1リーグ第35節、京都サンガF.C.はホームで鹿島アントラーズとの上位対決に臨み、1-1のドローに終わった。リーグ初優勝への望みをつなぐはずの勝利を土壇場で逃した試合後、宮本優太は誰よりも責任と悔しさを噛みしめた。チームメイトの声に再び奮い立ち、残り3試合へ全力で挑む。(取材・文:藤江直人)
「自分がボールを弾いていれば…」

【写真:Getty Images】
全身から力が抜けていく。悲願のリーグ戦初優勝を遠ざける主審のホイッスルが鳴り響いた直後。京都サンガF.C.の最終ラインを統率してきた宮本優太は、自陣の中央で仰向けになって倒れてしまった。
冷たい雨が降りはじめたホームのサンガスタジアム by KYOCERAの上空をぼう然と見つめ続けている。駆け寄ってきた須貝英大と麻田将吾に起こされても、今度はその場にしゃがみ込んでしまった。
首位の鹿島アントラーズと対峙した25日のJ1リーグ第35節を、1-1のドローで終えた直後の印象的なシーン。宮本の脳裏には「後悔」と「無責任」という言葉が何度も駆けめぐっていた。
「自分がボールを弾いていればそのまま試合は終わっていたし、最後の失点シーンも訪れなかった。自分がマークする選手にボールを触らせなければいい、という考えのもとで自分もクリアしなかったんですけど、あらためて考えるとちょっと無責任だった。ラストワンプレーにはいまも後悔しています」
試合後の取材エリアに姿を表した宮本の声が明らかに震えている。
36分にマルコ・トゥーリオが決めた先制点を京都が死守したまま、6分台が表示された後半アディショナルタイムが終わろうとしていた矢先。宮本をはじめとする京都のすべての選手と首脳陣を、奈落の底へと突き落とすゴールが生まれた。
土壇場で追いついた鹿島アントラーズ
鹿島陣内の左サイドからDFキム・テヒョンが右サイドへロングフィードを送る。徳田誉が須貝に競り勝ったボールを収めた田川亨介が、右サイドに開いた松村優太へボールを預ける。
間合いを詰めてきた須貝を前に自軍のゴールから遠ざかる方向へボールを動かした松村は、直後に利き足とは逆の左足を振り抜いた。
緩やかな軌道を描いたクロスの標的はファーのスペース。後半途中に4バックから3バックにスイッチしたなかで、右ストッパーを務めていた宮本はゴール前へ侵入してきた小池龍太の背後についた。
ボールが飛んでくるなかで、宮本は自身の身体を先に小池にあてた。身長171cm・体重70kgのサイズで、京都のセンターバック(CB)のファーストチョイスを担ってきた理由の一端でもある巧みな駆け引き。小池を跳ばせない代わりに自らも跳ばない。奏功したかに映った直後に想定外の事態が起こった。
2人の頭上を越えていったボールの落下点に走り込んできた鈴木優磨が、体勢を崩しながら右足をヒットさせる。
京都にとって悪夢の、鹿島にとっては起死回生のボレーがゴールネットを揺らした。直前までマークしていた鈴木に振り切られた京都のゲームキャプテン、福田心之助は自らを責めている。
「僕だけで解決できた」
「(宮本)優太がクロスに触るかな、と思ったので僕はセカンドボールに反応しようというか、一瞬見てしまった。僕がしっかりと鈴木選手に身体を寄せていれば、何も起こらなかった。僕だけで解決できた」
キックオフ前の時点で、勝ち点66で首位に立つ鹿島を同61で追う京都は3位。残り4試合で京都が逆転で覇権を奪うためにも、勝利だけが求められた大一番は京都のキックオフで試合が再開された直後に終わった。
一瞬ながら福田を躊躇させてしまった自身の判断と、それに導かれた結果を宮本は悔やみ続けた。
「タイトルを獲れるチームだと本気で思ってきたし、だからこそこの試合では勝ち点3がほしかった。鹿島相手にこれだけの試合ができたという評価をもらえるかもしれないけど、その鹿島を倒さないと優勝できない。可能性はまだゼロじゃないけど、勝っていれば優勝に近づけた。もったいないし、満足もできない」
レモンガススタジアム平塚で湘南ベルマーレと1-1で引き分けた19日の第34節。敵地のゴール裏へ駆けつけた大勢のファン・サポーターへ、試合後の挨拶を終えた宮本は人目をはばからずに涙を流した。
降格圏の19位にあえぐ湘南の気迫に押され、後半アディショナルタイムの須貝のゴールでかろうじてドローに持ち込んだ一戦。勝ち点2ポイントを失ったショックもあって、茫然自失としていたチームを「最後まで絶対にあきらめない」と鼓舞してくれたファン・サポーターの檄に心を激しく揺さぶられた。
もっとも、宮本が涙腺を決壊させた理由はそれだけはない。開幕から全試合に出場して京都の最終ラインをけん引してきた鈴木義宜が、1点ビハインドで迎えた前半アディショナルタイムにまさかの一発退場。鈴木が務めていたゲームキャプテンを引き継いだ宮本は、ある決意を胸に秘めてその湘南戦の後半に臨んでいた。
「ノリくんに何かしらの恩返しを…」
「ノリくん(鈴木)はそれまでずっと責任を背負ってプレーしていたので、結果をもってノリくんに何かしらの恩返しをしようと。それなのに勝てなかった結果に対しての悔しさといったものもあったので」
迎えた鹿島との6ポイントマッチ。ゲームキャプテンを福田が務めたなかで、宮本は最終ラインの統率役を引き継いだ。
出場停止の鈴木に代わり、9試合ぶりのリーグ戦出場を先発で果たしたアピアタウィア久は流通経済大学の一学年先輩。それでもリーダーシップを取るのは自分だと宮本は自らに言い聞かせた。
「ノリくんがいない分、自分が真ん中でしっかりとリーダーシップを取らないとうまくいかないと思っていたので。アピ(アピアタウィア)のほうが先輩ですけど、アピも自分の声をしっかりと聞いてくれた。
実際に試合を通してやられる感じはあまりしなかった。鈴木優磨選手とレオ・セアラ選手はリーグでも屈指のフォワードですけど、彼らに対して僕たちが劣っているものがあるわけもないと信じていたので」
実際に前半から自分たちの土俵に鹿島を引き込んだ。しかし、最後の最後でゴールを割られた。ピッチ上で仰向けになりながら必死に涙をこらえた宮本は、実はロッカールームで涙腺を決壊させている。
曺貴裁監督が呼びかける形で、試合後のミーティングでは希望した選手たちが思いの丈を言葉に変えた。
「まだ優勝をあきらめていない」
ヴィッセル神戸から期限付き移籍後、初出場を先発で果たした齊藤未月に加えて、今シーズン一度もベンチ入りを果たしていないキーパーのファンティーニ燦も「まだ優勝をあきらめていない」と熱く訴えた。
チームメイトたちの叫びが宮本の心に再び火を灯し、気がついたときには涙を流させていた。
「試合になかなか出られていない選手たちも『まだ絶対にあきらめない』とみんなに伝えてくれた。彼らのそういった思いを、絶対に裏切ってはいけない、という気持ちが込みあげてきたので」
2025JリーグYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)・プライムラウンド決勝(国立競技場)が11月1日に開催される関係で次節まで2週間空くなかで、京都は11月9日に横浜F・マリノスを再びホームに迎える。曺監督は日本代表の歴史を踏まえながら、残り3試合へ臨むうえでのマインドセットをこう語った。
「日本代表で『ドーハの悲劇』と呼ばれている試合があるが、ある意味で『亀岡の悲劇』のようなシチュエーションだった。日本代表はあの試合から立ち直って、いまのようなチームになっている。いま言えるのは、残り3試合で僕たちが(さらに)悲劇にならないようにすることだと思っている」
宮本ももちろんあきらめない。ただ、マリノス戦へ向けたアプローチはこれまでと変える。
「それほど生半可な気持ちで挑んだ試合では…」
「下を向く必要はないかもしれないけど、前を向いて、すぐに気持ちを切り替えて次の試合へ臨む、というのも僕のなかではちょっと違う。それほど生半可な気持ちで挑んだ試合ではなかったし、だからこそこの試合を一度しっかりと振り返って整理しないと、残り3試合も絶対に勝てないという感覚があるので」
浦和レッズで2022シーズンにプロのキャリアをスタートさせた宮本は、ベルギー2部のデインズへの期限付き移籍、復帰した浦和を経て昨シーズンに大学時代に指導を受けた曺監督に率いられる京都へ期限付き移籍。オフに契約を1年間延長した今シーズンで、プロになって4年目で初めて優勝争いを経験してきた。
「自分としてはものすごくうれしい部分もあるし、充実感もあるけど、優勝争いしたからよかったね、で終わるようなシーズンだけにはしたくない。自分にもっと、もっと鞭打ってやっていかなきゃいけない」
群を抜く走力とスタミナ、巧みなポジショニング、そして旺盛な闘争心を融合させて屈強なアタッカーたちと対峙する“小さな巨人”は、あえて一度低く屈もうとしている。
ちょっとだけ時間をかけて後悔の念と涙をさらに高く羽ばたくためのパワーに変えて、心身ともに万全の状態で最後の3試合に臨む。
(取材・文:藤江直人)
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【了】