フットボールチャンネル

J2 4週間前

「J1の舞台で活躍して…」V・ファーレン長崎、米田隼也が追い求める2つの目標とは。「そのリベンジをしたい」【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

 明治安田J2リーグ第37節、2位のV・ファーレン長崎は、勝ち点1差で首位に立つ水戸ホーリーホックとの大一番に2-1で勝利し、最終節を残して首位に浮上した。頂上決戦の重圧に打ち勝った米田隼也は、仲間から託された思い、そして長崎で積み重ねてきた悔しさを背負い、自ら仕掛けて掴み取った値千金のPKで勝利を呼び込んだ。その一瞬には、30歳のサイドアタッカーが歩んできた軌跡が凝縮されていた。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
——————————

頂上決戦に勝利したV・ファーレン長崎

V・ファーレン長崎、米田隼也
【写真:Getty Images】

 降り注いでくるファン・サポーターの大声援が心地よかった。

 ペナルティーエリア内の左角あたり。仰向けになっていたV・ファーレン長崎の米田隼也は主審のホイッスルを聞くやいなや、ホームのPEACE STADIUM Connected by SoftBankの上空に広がる青空へ向けて両手を何度も突きあげた。そして、立ちあがった直後にも熱い思いを込めて雄叫びをあげた。

 首位の水戸ホーリーホックを迎えた頂上決戦。試合前の時点で2位の長崎との勝ち点差は1ポイント。残りはわずか2試合。昨秋の開場以来、22試合目にして初めて入場者数が2万人の大台を突破し、怒濤の一体感をもって水戸を圧倒していたPEACE STADIUMの興奮が最高潮に達したのは65分だった。

 マテウス・ジェズスの左足から放たれたPKがゴール右へ決まり、前半途中から続いていた1-1の均衡を破る。

 最終的に一進一退の白熱した攻防に決着をつけ、長崎を4試合ぶりの首位へ浮上させる値千金のPKを獲得したもう一人のヒーロー、米田は勝利の余韻が色濃く残る試合後にこんな言葉を残している。

「僕って持っているのかな、と」

 ハーフウェイラインから敵陣に少し入ったエリアから江川湧清が縦パスを通した直後。ターゲットの山﨑凌吾が左サイドに流れながらマイボールにして、大森渚生を背負いながらボールをキープする。

 このとき、左タッチライン際にいた米田が右斜め前へ向けて、山﨑の内側を一気に加速していった。

「自分が、という気持ちが…」

「リョウくん(山﨑)がいいタメを作ってくれて、いい感じでゴール方向へ向かってファーストタッチも決まって。でも相手もちょっと追いついてきて、切り返したときに大森選手が見えたので」

 以心伝心の形で山﨑の折り返しを受けた米田が、トップスピードに乗ったまま水戸のペナルティーエリア内へ侵入。しかし、水戸の飯田貴敬も必死に米田を追走し、目の前には大崎航詩も回り込んできた。

 縦への突破をあきらめて切り返しを選択。その間にちょっとだけ自身の背中越しに視線を送った米田がとらえたのは、山﨑のマークを外して必死にペナルティーエリア内へ迫ってきた大森の姿だった。

「なので右足を出してちょっと引っかかりにいって、うまくPKをもらえました」

 一連の流れが冒頭で記したガッツポーズにつながった。もちろんとっさの判断だったと米田が続ける。

「自分がゴールを決めたい、という思いがものすごく強かったし、だからこそあの場面で切り返してから、(利き足の)右足でシュートを放とうと思っていました。

 大森選手が後ろから来ているのもわかっていたし、右足をちょっと出した感じですけど、自分が、という気持ちがゴールに向かう姿勢になってうまくPKを獲得できたのかな、と」

 敵地・ニンジニアスタジアムで愛媛FCに大勝。RB大宮アルディージャに敗れた水戸に勝ち点差1ポイントと肉迫した前節の後半開始早々にも米田はPKを獲得。これをジェズスが決めた流れに「2試合連続でPKを獲得するのも珍しい」と笑い、そして「僕って持っているのかな」という言葉につながった。

 実はホーム最終戦となった水戸との大一番で、満員のスタンドから特別な力ももらっていた。

 体調不良を訴えて6月中旬にチームを離脱。精密検査で体内に悪性腫瘍が発見され、回復および復帰へ向けて懸命な治療を受けている名倉巧が、離脱後で初めて観戦に駆けつけていた。

 名倉は水戸戦へ向けた前日練習にも駆けつけ、米田によればこんな檄を飛ばしたという。

「そのシチュエーションを楽しんでほしい」

「練習の終わりに『明日はすごく痺れる試合だけど、そのシチュエーションを楽しんでほしい』と」

 決戦に臨む長崎の士気がさらにあがった。米田が「めちゃくちゃ力をもらいました」と続ける。

「ナグ(名倉)が僕たちの試合からメッセージをもらい、そのおかげで治療を頑張れたと以前に言ってくれていたなかで、僕たちも同じようにナグからエネルギーをもらっていました」

 水戸戦のスタンドには「待ってるぞ!名倉巧」と記された横断幕が掲げられていた。

 大好きなサッカーができる、当たり前といっていい日常を突然奪われながらも必死に戦っている名倉へ送る熱い思いが、J1の舞台で帰還を待つという長崎に関わる全員の誓いに変わった。米田がさらに続ける。

「言葉にするのがちょっと難しいんですけど、僕たちこそナグには感謝したい。ナグのために、というみんなの思いがひとつのベクトルとなったときに、チーム力がさらに発揮されていると感じられるので」

 米田より3歳年下の27歳の名倉との絆は、長崎が初めてJ1へ昇格した2018シーズンにさかのぼる。

 静岡学園高校から順天堂大学をへて長崎に加入したルーキーの米田は、國學院久我山高校からJ3のFC琉球をへて長崎に完全移籍で加入した名倉と同期になった。しかし、J1の壁にはね返される形で、2018シーズンの長崎は8勝6分け20敗、勝ち点30で18チームのなかで最下位に終わった。

 米田自身も16試合、384分に出場して1ゴールだったルーキーイヤーをこう位置づけている。

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!