鹿島アントラーズのリーグ優勝に貢献した選手たちにフォーカスを当て、今季の取材で得た選手や関係者の証言から振り返るコラムを連載中。第2回は、期限付き移籍から復帰しながら、無得点という結果に終わった荒木遼太郎を取り上げる。優勝を決めた横浜F・マリノス戦の活躍に至る過程にあったいくつかの出来事を紹介したい。(取材・文:加藤健一)[2/2ページ]
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「このチームから離れることなく、むしろ歯を食いしばってやろうみたいな感じもあった」
右サイドから盟友・松村優太がマイナス方向へ折り返すと、荒木はダイレクトで右足を振り抜く。しかし、これはミートできない。
チャンスが潰えたかに思えた次の瞬間、荒木は相手を背負いながら背後へ蹴る。これをレオ・セアラがボレーで沈めた。
「シャペウっす。俺も騙されました(笑)」
ミートできなかったシュートを含めた一連のプレーを、荒木は照れくさそうに振り返った。
アシストとなったパスは、ゴール前の状況を見ずに出した。「でもレオと優磨くんがあっちにいるっていうのはわかってたんで、あの2人なら何かしら決めてくれないかなって」と、味方を信頼した。
ミスがあってもそこで足を止めることなく次のプレーに移る。それは、これまでも出場時間が短い中で見せてきた姿勢と重なった。
これまではそれが守備面で発揮されることが多かったが、この日は得意とする攻撃、それも真骨頂とも言えるゴール前の局面で見せることができた。これまでやってきたことがアシストという結果に結実した瞬間だった。
まさに因果応報。鬼木監督も荒木の努力をしっかりと見ていた。
「タロウ(荒木)なんかも本当に苦しい時期を過ごしたと思いますけど、このチームから離れることなく、むしろ歯を食いしばってやろうみたいな感じもあった。最後、そういう気持ちのところが今日のゲームではすごく光っていた」
「ほんとに苦しい思いもしてきました」
優勝が決まったあと、今の心境を聞かれた荒木は「何にも変えられないぐらい嬉しいですね」と答えた。
「ほんとに苦しい思いもしてきましたし、僕も6年間取れなかった。自分たちだけじゃなくサポーターも嬉しかったと思いますけど、それがやっと今年叶えられて最高だなって思います」
普段は多くを語らない。しかし、ありきたりな言葉ではなく、自分自身が紡いだ言葉を返してくれる。優勝後の取材でもそれは変わらなかったが、その声はやはり弾んでいたように感じた。
J1リーグ19試合、YBCルヴァンカップ2試合、天皇杯2試合。今季は23試合に出場してゴールネットを揺らすことはできなかった。全体で見れば不完全燃焼のシーズンだったかもしれない。ただ、無駄なシーズンではなかったはずだ。
派手なゴールやパスだけではなく、走ること、守ること、スペースを埋めること。そのすべてを自分の仕事として受け入れ、荒木は鹿島の選手として9年ぶりの戴冠に貢献した。
何にも変えられない優勝の喜びと、出られなかった時間の悔しさ。その両方を抱いたまま、それでも前を向く。
若い選手たちが台頭した今季の鹿島。そのなかで荒木が残したものは、数字だけでは測れない。次回も、取材を通じて印象に残った選手の一年を、言葉とともに辿っていく。
(取材・文:加藤健一)
【著者プロフィール:加藤健一】
1993年生まれ、東京都出身。『フットボール批評』、『ジュニアサッカーを応援しよう!』(ともにカンゼン刊)の編集を経て、フットボールチャンネル編集部に。『育成主義』(曺貴裁著)、『素直 石川直宏』(馬場康平著)などの書籍編集を担当。箸とペンは左利きだが、スポーツはだいたい右利き。2022年1月よりフットボールチャンネル編集長。Twitter:@katoken97
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