鹿島アントラーズのリーグ優勝に貢献した選手たちにフォーカスを当て、今季の取材で得た選手や関係者の証言から振り返るコラムを連載中。第3回は、昌平高校から加入したプロ3年目の津久井佳祐を取り上げる。日頃の努力から信頼を積み重ねていった21歳は、後半戦は勝利を締めくくる役割を担った。(取材・文:加藤健一)[1/2ページ]
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第10節。津久井佳祐のシーズンが始まる
優勝を決めた横浜F・マリノス戦のピッチで、歓声と涙が入り混じるざわめきの中、津久井佳祐の視界に2人のチームメイトが入った。
「植田(直通)くんと(キム・)テヒョンが近くで抱き合ってたんで、まず行こうと思って」
堅守を築き上げた2人のセンターバックに駆け寄り、喜びを分かち合った。
プロ3年目の今季、自己最多のリーグ戦19試合に出場した。1年目は出場がなく、2年目の昨季もわずか5試合。飛躍のシーズンと十分に言える活躍だった。
しかし、理想的なスタートが切れたわけではない。
本職のセンターバックには植田と関川郁万という不動のコンビがいた。さらに、新加入のキム・テヒョンもプレシーズンからその能力の高さをアピール。津久井はベンチに入るのがやっとという状況が続いた。
津久井のシーズンが本格的に動き出したのは第10節だった。
濃野公人、小池龍太が同時に離脱し、チームの右サイドバックにはぽっかりと穴が開いていた。そのタイミングで初先発・初出場のチャンスが巡ってきた。
このとき、チームはサンフレッチェ広島に敗れ、京都サンガF.C.に逆転負けを喫してホームでの無敗記録が止まっていた。さらに、津久井が抜擢されたセレッソ大阪戦でもチームは敗れて3連敗となった。
しかし、続くファジアーノ岡山戦に勝利した鹿島はここから連勝街道を突き進む。その中で先発起用が続いた津久井は、本職ではない右サイドバックという新しい役割を懸命にこなした。
相馬勇紀に真っ向から対峙し、名古屋グランパスを抑える
印象的だったのは1-0で勝利した5月3日のFC町田ゼルビア戦。対峙するのはサッカー日本代表での経験も豊富な相馬勇紀だった。
Jリーグでもトップクラスのアタッカーにも津久井は臆することなくぶつかっていった。最後は脚をつりながら食らいつく。凄まじい気迫だった。
試合終盤には三竿健斗と鈴木優磨が津久井に駆け寄り、闘志あふれる津久井のプレーを称えた。植田に話を訊こうとしたが、「今日は津久井に訊いて」と一言。鬼木達監督もその奮闘を労った。
「非常に良かったと思います。相馬選手のところが危険な存在だというのはチームとしても認識していた中で、ヘルプなしで対応していたシーンもありました。頼もしくなってきたなと感じます」
3試合連続先発となった名古屋グランパス戦の翌日、鬼木監督は津久井に声を掛けた。
「良かったよ。やられる気がしなかった」
指揮官からの言葉は自信になった。相手のアタッカーと正面から向き合い、受けに回らず、粘り強く足を運ぶ。その積み重ねが、少しずつ彼の中に自分はやれるという手応えを育てていった。
小池の復帰後は先発の座を小池や濃野に譲ることになる。しかし、このころから鬼木監督は逃げ切りの合図として津久井を投入するようになっていた。
サイドバックは安西幸輝が負傷離脱し、小川諒也は加入したものの、古傷の痛む小池龍太のフル稼働は難しかった。さらに、師岡柊生の抜けたサイドアタッカーのポジションもそうは決して厚くなかった。
濃野や小池が1列前で起用されることも多く、その際に右サイドバックを埋めるのが津久井だった。台所事情の厳しい中で、津久井の存在は出場時間以上に貴重なものになった。
「佳祐なら止めてくれるだろう」鬼木達監督の言葉から滲む津久井佳祐への信頼
優勝争いも佳境を迎えた9月、津久井に先発のチャンスが回ってくる。相手は今季初先発した相手、セレッソだった。
浦和との激闘から中2日という厳しい日程で迎えた一戦。鬼木監督は、左サイドから個の力で突破してくるセレッソのアタッカーに対し、迷いなく津久井を先発に据えた。
「相手の左サイドは誰が出てきてもそういう(打開力に優れた)タイプですし、佳祐なら止めてくれるだろうなというところ」
将来性も見込んでの起用ではなく、戦力として計算できるが故の起用だった。
4月の前回対戦と同じく、相手のスピードにも緩急をつけた仕掛けにも食らいつき、1対1を恐れず、ひとつひとつのプレーで前へ踏み込んだ。終盤、脚を攣らせながらも足を出し、ピンチを潰した場面はベンチやメルカリスタジアムを沸かせた。守備の強度も、泥臭さも、サイドバックとして求められることを愚直に体現した。
「自主練とかしててもしっかり最後まで見てくれてたりしたんで、しっかり最後の最後まで自主練に取り組もうって思えたのもオニ(鬼木)さんのおかげなのかなっていう風に思います」
津久井の言葉とリンクするように、鬼木監督の言葉が思い出される。
「トレーニング(全体練習)が終わってからも課題を持ってやり続けている選手の1人で、それはたぶんチームメイトもずっと見ている」
本職はセンターバックだが、チームのために何ができるか。出場時間が得られなくても、課題を持って練習に臨んでいた。
そうした積み重ねた信頼が、クローザー起用という勝敗に直結した役割という形で現れた。21歳という若さでこれを担うのは簡単ではない。しかし、「この使われ方にも慣れてきたんで」と津久井は飄々とこなした。
なお、津久井の途中投入後に鹿島は失点していない。津久井はその役割を全うした。



